閑話 ちょくちょく舐めるよイルザードさん
「──ところでイルザード」
ビストロ・バラムンディからの帰り道。
ガレイトが思い出したように、イルザードに声をかけた。
「はい、なんでしょうか! ガレイトさん!」
「おまえ、この街での寝泊りはどうするつもりだ? もし厳しかったら、ホテル代くらいなら──」
「え? ガレイトさんと同じベッドで寝るつもりですが……」
「なぜ当たり前のように言っているんだ、おまえは。そもそも俺の取ってある部屋はひとり部屋だ」
「問題ありませんよ。私とガレイトさん、二人で一つですからね」
「黙れ。……ただでさえグラトニーさんと一緒にいるのに、おまえなど入れられるか」
「え!? ガレイトさん、あの幼女と寝食を共にしているのですか……?」
「……あらぬ誤解をしているように見受けられるな」
「誤解も何も、血縁関係でもないのにパパと呼ばせ、挙句の果てに同じベッドで寝ているなんて……これはもう事実でしょう」
「なにがだ。というか、俺は地べたで寝ているんだが……」
「オゥ! 紳士!」
「……チ、貴様は路地裏で適当に寝ておけ」
「風邪ひいちゃいますよ」
「馬鹿は風邪を引かぬらしいから問題なかろう」
「もし引いたら看病してくれますか?」
「そのまま本国へ送り返してやる」
「そんなこと言って、なんやかんやで看病してくれるんでしょう? わかってますよ!」
「……変なことを訊いた俺が馬鹿だったようだな」
「そういえばガレイトさんは、風邪ひいたところ見た事ありませんね」
「……何か言いたそうだな? イルザード
「い、いえ、なにも?」
「ただ、腹痛からくる熱には何度かやられたがな」
「……それ、風邪じゃないんじゃない?」
二人の会話を後ろで聞いていたモニカが、小さくツッコんだ。
「腹といえば……ガレイトさん、こちらへ来てから、食事は大丈夫なんですか?」
「どういう意味だ」
「ほら、ガレイトさんって私と違って、腹部がデリケートゾーンじゃないですか」
「妙な言い回しをするな」
「だから、こんな飲食店の少ない街で普段何を食べてるのかなって」
「……最近はもっぱら店のまかないだな」
「まかないって……従業員限定のメニューみたいな、あれですか?」
「そうだ。モニカさんやブリギットさんがよく作ってくれるんだ。おかげで団にいた頃よりも体のキレがいい」
「ほほー! ブリギット殿はわかりますが、モニカ殿も作られるのですね?」
話を振られたモニカが照れくさそうに頬をかく。
「まあ、ブリほどじゃないけど、それなりには作れるよ」
「ふむふむ。ですが、ガレイトさんご自身では作られないのですか?」
「まだ早い」
遠い目をして呟くガレイト。
「え?」
「まだ早いんだ」
「そうでしたか。では、まだあのゴ……奇天烈な料理を?」
「おい、貴様いま、ゴミと言いかけたか?」
「いいえ? 言ってませんが?」
「じゃあなんだ? 言ってみろ」
「キテレツ」
「馬鹿者。その前だ。〝ゴ〟なんとかと言っていたな?」
「ゴリラ」
「ん?」
「『まだゴリラを作っているのですか?』と、私は訊きたかったのです」
「俺がいつそんなものを作った」
「さあ」
「おい……意味が不明だが」
「でしょうね」
「貴様……!」
「ですが、ご安心を! たとえそこらへんで拾ってきたゴミだとしても、私は一生懸命食べますので!」
「なんのフォローにもなっていないが……」
「フォローではなく、それほど忠誠を尽くしているという意味です」
「どの口で……おい、イルザード」
「はい!」
「言っておくが、俺の料理の腕をあの頃と同じと思ってはいけない」
「おお、さすがにあれから進歩しましたか……!」
「貴様、さっきからちょくちょくトゲのある言い方をしてくるな」
「すみません!」
「いや、まあ……ともかく、明日を楽しみにしながら、そこらへんで寝ていろ」
「おお……! やる気ですね、ガレイトさん!」
「ああ、今晩獲れたグランティ・ダックを使って……使って……」
ガレイトはその場で大量の汗をかきながら固まってしまった。
「……あ、ところでガレイトさん、ブリの様子が見えないんだけど、もうさきに家に帰してるの?」
「すみません! 今すぐ見てきます!」
「見てくるって……ええ!? もしかして、今も山の中……!?」
ガレイトは身を
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