閑話 やっぱりアブナイ絵面
「のぅのぅ」
ガレイトと並んで歩いていたグラトニーが、ガレイトの服の裾をぐいぐいと引っ張る。
「ちなみにパパは普段どこに住んどるんじゃ?」
モーセと別れた三人は、とりあえず今回の出来事の一部始終をブリギットに報告すべく、一路、オステリカ・オスタリカ・フランチェスカに向かっていた。
「あ、それ、あたしも気になる。ガレイトさん、グランティに来てからどこ住んでるの?」
「えっと……」
「……ちょっと待った娘。さきほどから度々〝グランティ〟と申しておるが、それはもしや、ここの地名ではなかろうな」
「ああ、そういえば昔はここ、グラトニーって地名だったっけ?」
「な、なんという事じゃ……!」
グラトニーはガレイトの服の裾をつまんだまま、がっくりと項垂れた。
「あれほどまでに美しく、荘厳で、洗練された名前だったのに、なんなんだ、その陽気でポップな名前は……! 親しみやすいではないか……!」
「いや、親しみやすいのはいい事じゃない?」
「何を言う。妾の街に親しみやすさなど必要ない。冷血にして冷徹にして冷酷、そのクールさがいいのではないか!」
「まあ、もうここはグラトニーちゃんの街じゃないんだけどね」
「ぐぬぬ……! 痛いところを……いつかまた強くなったら、もう一度ここを〝グラトニーの街〟にしてやるぞ……!」
「てかさ、そもそもの話、一体どんな悪行をすれば、魔物であるグラトニーちゃんの名前がつけられるのさ。……何人食べたの?」
「じゃから! 妾は、人は食わぬと言うとろうが!」
「でも……」
「……とくに何もしとらんわい」
「何もしてない? またまた、そんなわけないじゃん」
「ま、あえて言うなら、妾が美しすぎたということじゃろうな……」
「美しい……」
「フ、まったく、罪作りなものよの……」
「なにを言うとるんだ、このちんちくりんは」
「な!? 誰が竹林じゃ! どちらかと言うと、花畑じゃわい!」
「誰も竹林なんて言ってないけど……でも、関係なくない? なんで美しいだけで無害な魔物が、勇者に退治されたりするのさ」
「む。なにやら妾が封印されとる間に、だいぶ人間どもの都合の良い解釈になっておるようだな」
「都合の良いって……もしかして、あのおとぎ話、本当じゃないとか?」
「いや、知らん。それがどのような御伽噺かなぞ知らんが……妾、マジで美しいからって理由で封印されたんじゃぞ?」
「へえ……」
「いや、なんじゃその顔。もちろん、今みたいな感じじゃないぞ? 完全体じゃ」
「完全体ね……」
「今はこんな……一部の変態にしか好まれんような
「取り合ったってこと?」
「簡単に言えばそんな感じ。……事実は、もうすこし血なまぐさかったんじゃが」
「ふうん……でも、本当にそれだけ? 多少はけしかけたりさ」
「まあ、多少はね?」
「ろくでもないな」
「つか、妾の話はどうでもええじゃろ」
「いや、自分から話し始めたんじゃん」
「ね~え、パパぁ……パパは普段どこに住んどるん?」
「聞けよ」
「近場のホテルですよ」
「……やばくない?」
モニカが深刻そうな顔で言う。
「たしかに一人用の部屋ですが、グラトニーさんくらいの年の子だとおそらく問題はないかと……」
「いや、そういうことじゃなくて、絵面的に……」
「絵面的……」
「いや、これから、グラトニーちゃんもガレイトさんの部屋で暮らすんだよね?」
「はい」
「一緒にチェックインして、一緒に寝食を共にして……」
「そうじゃの」
「い、いや……なんか、ごめん。考えすぎみたい。まあ、当人同士が何も思わないんだったらあたしからは特に……」
モニカは気まずそうに口をつぐむと、ガレイトとグラトニーは互いに顔を見合わせ、首を傾げた。
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