閑話 肉片と竜と吸血鬼


「──ところで、この部屋には結界が張られてたんでしょ? よく肉へ……体が集まったね」



 帰り道。

 モニカが思い出したように、グラトニーに尋ねた。



「ほう、なかなか目ざといの、娘」


「うん、よくよく考えたらさ、人間でも触れたら丸焦げになる結界に、バラバラになった体の一部が触れたら、それこそ塵にならない?」


「じゃが、事実こうして、妾の肉体は戻って来ておる」


「でも、どうやって?」


「言うたであろう、妾は不死身じゃと。たとえすり潰され、魚の餌にされようとも死にはせぬ。魚の排泄穴から射出された妾の肉はやがて一か所に集まり──」


「いや、射出って……」


「妾の体を形成していくのじゃ。塵になった肉片も、やがて元通りになるということじゃな。わかりやすく言うと、すっげえ食物繊維なんよ、妾」


「いや、その例えなんかいやだな……」


「さらに今回は竜の血も浴びておるから、比較的はやく元通りになることができたんじゃ」


「へえ? じゃあ、月が満ちる頃に──とかなんとか言ってたのは?」


「ノリ」


「そ、そうなんだ……ノリ?」


「まあ、ノリとは言うても、月の満ち欠けによって体調の良し悪しは関係してくるんじゃが……それでも竜の血に比べれば、微々たるものじゃの」


「じゃあ……どのみち時間が経てば復活してたって事?」


「そういう事じゃな。焼かれて、元に戻って、焼かれて、元に戻って──みたいな感じじゃ。……ま、その場合じゃと、どれくらい時間がかかるかは見当がつかぬがの」


「へえ……竜の血ってそんなにすごいだね……流通してる竜の肉なんて、どれも本物かどうかなんてわからないし、そもそも高すぎて買えないしで、全然知らなかったよ」


「まあの。竜種によりけりじゃが、妾の全盛期だった時代じゃと、竜の血一滴で城ひとつは買えたの」


「そ、そんなに……!?」


「すまん、盛った」


「いや、なんで盛った?」


「量でいうところ、瓶一本くらいじゃな。ちなみに、竜種の中でもとびきり獰猛なドラゴン・モヒートというやつもおってじゃな、こいつは──」


「……ガレイトさん、ガレイトさん」



 二人のやり取りを聞いていたモーセが、その様子を尻目にガレイトにこそっと耳打ちをした。



「まさかとは思いますけど、その竜の肉、きちんと処理しました?」


「ほ、放置してしまいました……その場に……」


「ま、マジですか……なんでそんなことを?」


「食べきれなかったので、あとは自然に還そうと……まさか、竜の血肉にそんな作用があるなんて思わなくて……」


「わ、わかりました。あとで場所を教えてください。至急、こちらで回収しておきます」


「お手数をおかけします……」


「あの、他に誰かに……たとえば、元パーティの人に食べさせたりしました?」


「食べ……させようとしました」


させよう・・・・と?」


「はい。けど、結局飲み込んではなかったと思います」


「そうなんですね……あの、これからはちゃんとそういう事は報告をしてください。最悪生態系に影響を与えかねないですし、ていうか、たぶんもう色々と影響は出てると思いますけど──」


「あの」


「はい?」


「俺……食べました」


「ええ……? 何やってんですか……」


「す、すみません……」


「ああ、いえ、食べること自体は悪くないのですが……体調に何か変化はなかったですか? なんか、急に体がムキムキ……にはもう最初からなってましたね。気分が悪くなったりとかは?」


「いえ、ただ、すぐに腹を下して、そのまま草むらの中で出してしまいました……」


「……今後、そういう報告はしないでください」


「すみません……」

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