閑話 小切手
「──そうだ、モニカさん。その小切手にレンチンさんが破産するくらいの額を書き込めばいいのでは?」
ガレイトがレンチンの持っていた小切手を見つめながら、モニカに声をかける。
「ああ、ダメダメ。小切手ってのは基本的に、銀行引き落としと同じだから」
「ということは……どういうことですか?」
「つまり、銀行に入ってるお金以上に引き落とせないの。レンチンは複数の口座を持っていて、この小切手に記されている銀行の口座には、はした金しか入ってないの。一度、別の店が、今ガレイトさんの言ったことをしようとしたら、まったくお金を引き落とせなくて、しかも、その引き落としを契約の意思ありとみなされて、結局、お店を持ってかれるって人がいたの」
「な、なるほど……さすがに手は打っていると……」
「うん。ほかにも色々と、あの手この手とあたしたちの事を騙そうとして来てるから……」
「油断できませんね」
「うん。まあ、一番いいのは無視することだね。今までもずっとそうしてきたし」
モニカはそう言うとガレイトの手から小切手を強引に奪い、ビリビリと破り捨ててしまった。
「なるほど。だから、レンチンさんは、今回は武力に訴えようとしたのですね」
「武力? どういうこと?」
「じつは、レンチンさんの隣に、体格のいい男が二人いたんですよ」
「あ~……そうなんだ? ガレイトさんの体に遮られてて全然見えなかったよ。……じゃあ、今回はガレイトさんがいなかったらヤバかったかもね」
「そうかもしれません。今回は強引な手を使っては来ませんでしたが……以前にもこういったことが?」
「いや、それは今回が初めてだね。とうとうシビレを切らしてきたのか、手段を択ばなくなってきたのか……とはいえ、ガレイトさんのおかげで助かったよ。ありがとう」
「いえいえ、お気になさらず。何かあれば、いつでも駆け付けますので」
「……でも、さすがに荒事になるのはダメだよ? そうなったら向こうが得しちゃうからね。たぶん、向こうもそういうのは織り込み済みだろうし」
「わかりました。しかし、手を出さずに追い払うとなると、かなり面倒になってきそうですね……」
「まあ、最悪口封じ出来れば何でもいいよ」
モニカがそう言うと、ガレイトは腕組みして黙り込んでしまった。
「……いやいや! 冗談だからね!?」
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