第52話:支配下臣従
「アーベントロート公爵閣下、どうか我々を配下の端におくわえください。
暴虐なブランケンハイム侯爵の圧政に、やむにやまれず剣をとった我らを哀れと思い、救いの手を差し伸べていただけませんでしょうか」
「宜しい、ブランケンハイム侯爵が民に圧政を敷いていた事は聞いていた。
民を救う事にはなんの躊躇もない。
だが、お前達のように、一時は侯爵の手先となって民を苦しめていた者は、よろこんで救うという訳ではない。
ただ今回の義挙を評価して武官の列に加えてやろう」
「ありがたき幸せでございます」
完全な茶番なのだが、時にはこんな茶番も必要だ。
全部俺が支配下に置いているこいつらに、こう言えと命じたセリフだ。
しかもそのセリフは大賢者に計算させて作らせたお芝居だ。
こう言わせてこう行動すれば最小限の損害ですむ。
自分の行動すべてを大賢者に計算させてしまうと、自分で生きている気がしないので、今後は領民の命がかかっている場合だけ計算させようかと思っている。
「では、お前達には王都屋敷に移動してもらう。
途中で襲い掛かってくる者があれば、例えそれが王家や貴族家の騎士団や徒士団であろうと、躊躇せずに皆殺しにしろ」
「承りました」
計算では、こいつらを5日後に領地を出発させると最小の被害ですむ。
俺がブランケンハイム侯爵領を逆撃占領して、旧家臣団を掌握して王都に送るのを、一番不安に思っているのはインゲボー王女だ。
これまでにインゲボー王女が送ってきた刺客達も、全員王都に残してある。
何時こいつらが王城に攻め込むのかと不安に思っているだろう。
「クサーヴァ、ブランケンハイム城の城代を任せられる者を選んでくれ。
当面はそいつにブランケンハイム侯爵領を統治してもらう」
「一つおうかがいさせていただいて宜しいですか、公爵閣下」
「なんだい、クサーヴァ」
「公爵閣下はしばらく領地にいてくださるのですか」
「ああ、転移魔術で移動する事はあるが、できる限り領地にいるようにする」
「では私がブランケンハイム城に行かせていただきます」
「とても危険だという事は分かっているのだな。
わずかでもブランケンハイム侯爵位を継承する権利を有する者が、欲に駆られていつ攻め込んでくるか分からないのだぞ」
「承知しております、公爵閣下。
しかし戦に怯える無辜の民を見捨てる訳には参りません。
どうか私をブランケンハイム城に行かせてください」
大賢者に計算させていた事だから、クサーヴァがこう言ってくれることは分かっていたが、それでも改めて自分の耳で聞きこの眼で見ると感動する。
こんな武人になりたいと心から思う。
だからこそクサーヴァを無駄死にさせる事だけは絶対にできない。
「よく言ってくれた、クサーヴァ。
ならばクサーヴァに全て任せる。
だが、連れて行く騎士や徒士や傭兵は俺が選ぶ。
公爵領が心配だから連れて行きたくないとは絶対に言わさない。
いいな、分かったな」
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