第51話:失敗
意外というべきか情けないと言うべきか、ブランケンハイム侯爵とその一族は、簡単に俺が放った刺客に皆殺しにされてしまった。
俺が魅了して逆撃に放った刺客達がブランケンハイム侯爵城を占拠している。
しかもよほどブランケンハイム侯爵は領民に嫌われていたのか、刺客達に合流しようと領内から続々と民が集まっている。
問題は生き残った刺客達にこれからどんな命令を下すかだ。
俺に臣従したいと言わせて配下に加える事もできる。
使い潰す心算なら王家に叛旗をひるがえさせる方法もある。
周りの領地に攻め込ませる事もできるだろう。
単にこの国を混乱させるだけならいくらでも方法がある。
だが問題は、何も知らない民があいつらに合流してしまった事だ。
あのクソ連中なら死んでも何の痛みも感じない。
だが何も知らない民を巻き込んで死なせてしまうと後味が悪い。
不完全な良心がうずいてしまうのだ。
「リヒャルダ、ブランケンハイム城に行くから着いてきてくれ」
「はい、どこにでも付いていかせていただきます」
ありがたくうれしことに、リヒャルダが俺の頼みを断ることはほとんどない。
たまにあるのは俺の身を案じて止める時くらいだ。
それが分かっているからつい甘えたくなってしまう。
リヒャルダが俺を強くも弱くもしてくれる。
俺の力の源でもあり弱点でもある。
「では常に俺の側から離れないように。
できるだけ左手で俺の服をつかみ、右手で剣を抜けるようにしていてくれ」
「はい、いつも通りそうさせていただきます」
転移魔術で移動する時には常に同じ状態にしている。
俺が意識している存在は必ず一緒に転移して同じ場所に現れるはずなのだ。
だが、つい心配になってしまって、どこかでつながっていたくなる。
本当は手を繋いで転移したいのだが、転移先に敵が待ち伏せしている可能性を考えて心配になってしまうので、両手は空けておきたくなってしまう。
その結果が俺は両手に剣を持ち、リヒャルダに俺の服の裾を握ってもらうという、ある意味情けない姿での転移となる。
そして毎回俺に心配はムダに終わるのだか、
それでも心配が解消される事はなく、常に同じムダを繰り返している。
「公爵閣下、よく来てくださいました。
家臣一同一日千秋の想いで公爵閣下を御待ちしておりました」
最初から名前を聞く気にもならないクソが恭しく迎えてくれる。
同時に支配下に置いたクソ共も同じように礼をとる。
それに見習って新たに叛乱に加わった民達も礼をとってくれる。
この民達がいなければクソ共を使い捨てにできたのだが、今更そんな事を言っても始まらない。
手を抜いて大賢者に計算させなかった俺がうかつだったのだ。
「お前達に命じることがある」
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