第23話:領民避難と説得

 俺は必死でクサーヴァとペトロネラと説得した。

 だが忠誠心の強い2人はなかなか納得してくれなかった。

 

「若様、若様の領民を想う気持ちが理解できます。

 だから私とペトロネラは、若様のお側を離れる領民の護衛を引き受けたのです。

 その代わりというにはまだまだ未熟ではありますが、フォルカーとリヒャルダだけは若様のお側に置いていただきますぞ」


 クサーヴァは頑として認めてくれなかった。


「そうですよ、若様。

 あえて乳母として言わせていただきますが、若様の武芸は多くの騎士を打ち負かすほどではありますが、フォルカーよりは劣るのですよ」


 ペトロネラが心から私の心配してくれているのがよく分かってうれしい。

 だが私がフォルカーより武力で劣っていたのは、死にかける前の話だ。

 今では私の方がはるかに強いのだ。

 フォルカーとリヒャルダはその事をよく分かっているのだが、今回は私の側を離れたくないので口添えしようとはしない。

 困った奴らだ。


「ペトロネラ、私は何度も死線を潜り抜けて腕をあげているのだ。

 2人なら気配や殺気だけでそれくらい分かっているはずだぞ」


 俺はほんの少しだけ殺気をフォルカーとリヒャルダに向けてみた。


「これは……」


 フォルカーは俺の強さを理解してくれたようだ。


「いつの間にこんなに強くなられたのですか。

 どれほどの修羅場をくぐり抜けられたのですか……」


 フォルカーとリヒャルダに口止めしていたから、俺が殺されかけた細かな事情をクサーヴァとペトロネラは知らなかった。

 だが俺が以前とは比較にならないくらい強くなったのを知って、修羅場を潜り抜けてきたことは想像できたのだろう、本気で同情してくれている。

 うれしいのは間違いないのだが、今は乳母の情をよろこんでいる場合じゃない。


「色々と大変な事はあったし、くやしい思いも痛い思いもしたが全部過去の事だよ。

 それよりもこれからどうするかが大切なのだよ。

 アーベントロート公爵家を守ると言うのは、領民を護る事なんだ。

 領地があっても領民がいなければ滅んだ家でしかない。

 その一番大切な領民をクリューガ家に護ってもらいたいのだよ」


「若様の申される事は確かにその通りです。

 ですがそれもアーベントロート公爵家を受け継ぐ若様が生き延びられてこそです。

 領民がいても若様がおられなければアーベントロート公爵家ではありません。

 若様がいくら強くなられたとはいっても、1人でできる事には限りがあります。

 フォルカーとリヒャルダをお連れください。

 領民の方は私達に任せてください。

 私達以外のも忠誠心のある家臣はおります」


 ペトロネラの気持ちはとてもうれしいのだが、俺もここは引けない。

 言いたくなかった事がだ、しかたがない。


(ペトロネラ、これは言い難い事なのだが、フォルカーとリヒャルダは道に迷い過ぎて一緒に行動すると足手まといなのだ。

 しかもフォルカーは壊滅的に運が悪い。

 今からミヒャエルを殺そうという時に2人を連れて行くわけにはいかないのだよ)

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