第22話:クサーヴァとペトロネラ

「今まで黙っていて悪かったな、クサーヴァ、ペトロネラ」


 俺はフォルカーとリヒャルダの両親に深々と頭を下げた。

 今日まで大切な息子と娘を死んだことにしていたのだ。

 それが領主達から二人の命を護るため、命を狙われないためだったとしても、最初に謝るべきことだ。


「頭をあげてください、若様」


「そうですよ、若様。

 若様が私達の事を心配して、フォルカーとリヒャルダが死んだことにしてくださっていたのは、十分わかっていますから」


 アーベントロート公爵家の騎士団長まで務めていたクサーヴァだ。

 主筋の俺が頭を下げたことに恐縮してくれている。


 俺の乳母、ペトロネラは恐縮というよりも俺の事を心配してくれていた。

 典型的な高位貴族である母親からは肉親の愛情など向けられた事はない。

 俺に愛情を注いでくれたのは乳母のペトロネラとその夫であるクサーヴァだけだ。

 この二人の子供であるフォルカーとリヒャルダを危険な目にあわせている事には、正直とても申し訳ない思いがある。


「ありがとう、クサーヴァ、ペトロネラ。

 本来なら直ぐに二人を俺の側から離すべきだったのだが、二人の忠誠心に甘えて側にいてもらっていた。

 ここで二人にはクサーヴァ、ペトロネラと一緒に、領民護衛というとても大切な役目を与えるから、これからは家族4人仲良く暮らして欲しい」


「そんな話は聞けません」


「はい、兄上の申される通りです。

 そのような話は断じて聞けません」


 フォルカーとリヒャルダはそう言ってくれるが、これ以上2人に甘えるわけにはいかないのだ。

 家族4人仲良く暮らす事が一番大切な事なのだ。


「そうですぞ、若様。

 そのような事を騎士道精神を持った誇り高い家臣に命じてはいけませんぞ」


「そうですよ、若様。

 そのような命令は家臣の誇りを傷つけることになります。

 私達なら若様の優しい御心が分かっているからいいですが、騎士の名声だけに凝り固まった者には、悪くとられてしまいかねませんよ」


 いや、そんなことは重々分かっているよ。

 分かっていてこれから説得する心算なのだ。

 正直な話、自重や手加減をしなければ復讐するのは簡単だ。

 大賢者から得た知識と、その知識を元に得た莫大な魔力を魔術。

 その魔力と魔術を使った資金創造術を使えば大陸支配もかんたんだろう。


 だが俺にはそんな野望などない。

 大陸の支配するために戦争を始めて多くの民を死傷させる気など全くない。

 だから王女への復讐を考えていないし王家を巻き込む気もない。

 できるだけ争いごとは小さく治めるつもりだから、明日にでも弟のミヒャエルを殺せば済むことなのだ。

 ただ問題は王家の方が執拗に俺やアーベントロート公爵家を狙ってきた場合だ。

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