第16話:閑話・黒仮面・ベヒトルスハイム伯爵視点

「父上、あの黒仮面を我が家の家臣にしましょう。

 あれほどの戦士は王国中を探しても他にいませんぞ」


 情けない、なんと情けない男に育ってしまったのだ。

 いや、そんな風に育ててしまった俺が悪いのだな。


「バカモノ、あの騎士が主人持ちだという事がなぜわからぬ」


「はあ、黒仮面はそのような事はひと言も言っていませんでしたぞ」


「ふぅう、主人がいないのなら、我らに気に入られるような態度をとる。

 だが黒仮面はそんな言動を全くしていない。

 そもそも家臣になるきがるのなら、我が領地にある冒険者ギルドを我らの許可も受けずに壊滅させたりはしない、事前に悪事を伝えて許可を求めてくる」


「しかしそれは戦士として誇りがあるからではありませんか。

 何といってもアースドラゴンを1人で殺せるほどの戦士ですぞ」


 こいつはダメだ、全く分かっていない。

 こいつに裏事情など話したら、国中に言いふらしてしまう。

 そんなことになったらヴェルナー殿に目をつけられ皆殺しにされかねない。


「分かった、私から家臣にならないか正式な使者をだしておく。

 そんな事よりもお前は今回の件を王都に伝えにいくのだ」


「はぁあ、あまり王都にはいきたくないのですが」


 なんと情けない奴だ。

 黒仮面を家臣に迎えたいとまで言っていたのに、冒険者ギルド本部の悪事を王都に伝えるのを怖がっている。

 ヴェルナー殿や巌の剛将にくらべて情けなさすぎる。

 いや、王都でのいざこざを予測して黒仮面を家臣にしたいと言っているなら、少しは見どころがあるか。


 ★★★★★★


 オーレに信頼できる家臣をつけて王都に送った後で妻が話しかけてきた。


「貴男、あまりオーレに期待しないでください。

 お腹を痛めた子ではありますが、あの子には伯爵家を継げるだけの才能はありませんから、マッタによい婿を迎えてください」


 やれ、やれ、実の母親に見捨てられるとはどれほど無能なのだ。

 今は情けない息子のことよりもヴェルナー殿主従にどう対処するからだ。

 それにしても、アースドラゴンを殺すとは凄すぎるな。

 しかも素材を見た範囲では斬馬刀で殺したのではなく魔術で殺している。

 これは巌の剛将が殺したのではなくヴェルナー殿が殺したという事になる。


「ふむ、いっそ黒仮面の戦士をマッタの婿に迎えるか」


「先日オーレには、黒仮面には主人がいるから家臣に迎えるのは無理だと言われていたではありませんか。

 伯爵令嬢の婿になれるのなら主人を平気で裏切る戦士なら、わたくしどれほど強い戦士でもマッタの婿にしたくはありませわ」


「いや、そうではない。

 黒仮面の戦士の主人に許可をもらって婿に入ってもらうのだ。

 先に主人の許可をもらえば黒仮面も断れないと思ってな」


「まあ、そういう事なら賛成させていただきますわ」


 王都を遠く離れた国境に領地を持つ貴族は、自国と隣国の両方と仲良くしなければ生きていないのだ。

 そういう意味では、アースドラゴンを殺すほどの実力があるヴェルナー殿とは、できるだけ仲良くしておく必要がある。


 ヴェルナー殿なら、そのためにアーベントロート公爵領の難民を住ませる未開地を売ってやったにだと分かっているだろう。

 ヴェルナー殿がそれにどのような対応をしてくれるか楽しみだな。

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