第2話:方向音痴

「ありがとう、よく助けに来てくれたね、本当にありがとう」


「とんでもありません、私が遅くなってしまったせいで、ヴェルナー様にこのような傷を負わせてしまいました、申し訳ありません」


 俺の意識が戻ったらヴェルナー乳兄様とは呼んでくれないんだな。

 ちょっと寂しいな。


「いや、よく戻ってきてくれた、リヒャルダが助けてくれなかったら確実に死んでいたよ、本当にありがとう。

 でも、なぜ、俺がここに落ちてくるのが分かったんだい」


「ええと、あの、その、それが」


 なんだ、真っ赤になってあわてているが、なにかあるのか。


「……実は、道に迷ってしまって……」


 そうだ、そうだった、リヒャルダとフォルカーは壊滅的に道を覚えるのが苦手で、従者がいなければ必ず道に迷っていたんだった。

 そんな二人がダンジョンで迷わないわけがないよな。


「ああ、そうか、いや、人には得意不得意があるからね。

 でもリヒャルダは昔からすごく運がいいから、こうして俺を助けられたんだね」


「いえ、本当は運が悪いんです。

 運がよければトラウゴットのクソが裏切る前にヴェルナー様にお会いできました」


 ふっ、悪口を言う時はいつもの強いリヒャルダの言葉がもどるんだな。


「いや、運がいいから、トラウゴットが裏切者だと分かったんだよ。

 全部リヒャルダのお陰だよ、本当にありがとう」


「そんな、そんなにほめないでください、ヴェルナー様」


 以前から美少女だったけど、妹だと思っていたから美しさを気にしていなかった。

 それに戦闘侍女の姿だと美しさよりも勇ましさが表にでるからな。

 こんな風にてれて真っ赤になると新鮮だ。

 しかも俺を愛してくれているというんだからな。

 こんな所をリヒャルダを溺愛しているフォルカーが見たらどんな顔をする事か。


「あ、そういえばフォルカーはどうしたんだい。

 フォルカーはペトロネラの無事を確かめに領地に戻ったのかい」


「……それが、母が病気だなんて絶対おかしいという話になって、一緒にここに戻ってきたんですが、いつの間にか離れ離れになってしまって……」


 なんてこった、兄妹でダンジョンに入ったのに道に迷って離れ離れになるなんて、普通だったら信じられないが、この兄妹ならありえるんだよな。

 しかもフォルカーはリヒャルダとは真逆で、絶望的に運が悪い。


「直ぐに探しに行こう、フォルカーの事が心配だ」


「ダメです、まだ動かないでくださいヴェルナー様。

 ケガは治っても失った血は元には戻りません」


 情けない事に、リヒャルダの言う通りだった。

 立ち上がったのはいいのだが、目の前が真っ暗になってしまって、そのまま倒れそうになってしまった。


「あ、あぶない」


 倒れそうになった俺をリヒャルダが抱きささえてくれた。

 武装しているとは思えないくらい柔らかなリヒャルダの身体。

 また倒れそうになるくらい魅惑的なリヒャルダの香り。

 思わず俺の方から抱き返したくなった。


 ピロロロロ


 愛が10000を超えました。

 大賢者スキルを使われますか。

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