第4話 冒険者レベル1の仕事
冒険者アプリをインストールして、僕の生活は一変した。
主に小遣い的な金銭面で、だけど。
世の中には細かくて面倒くさいやりたくない仕事がたくさんあって。
それを小銭で解決できるなら任せてしまいたい、という人間がこれまたたくさんいて。
とにかくも、そうした「面倒くさい仕事」と「面倒くさい仕事をしたくない人間」をつなぐ部品となって、僕は初めての夏休みを錆の浮きかけた愛用の自転車で往復し続けて、小銭と冒険者ポイントを貯め続けたのだった。
本当に仕事はたくさんあったのだ。
★ ★ ★ ★ ★
【採取依頼】
例えば――
冒険者では定番の薬草とかの「採取依頼」。
これが僕の地元ではどんな依頼になるかというと。
「家庭菜園の代理収穫…」
わかる。
暑いし虫も出るし雑草も生えてるし。
今日中に収穫したいけど、涼しいうちに起きられなかったら真夏日の下で作業は辛い。
年配者の人は熱射病も怖いしね。
なので「冒険者に依頼」となるわけだ。
収穫した野菜と1ポイント。つまり500円。あと経験値が5ポイント。
田舎でよくある山菜の収穫や同行はもう少しレベルが上がらないとダメらしい。
登山には装備が必要だし、野生動物が増えた山では猪からの護衛要素もある。
山菜採り、意外と侮れない。
よくニュースで山菜取りに出かけたお年寄りが事故にあったり熊に襲われたりでニュースになっているし、冒険者アプリのAIは高レベル案件と判断したらしい。
良く出来ている。
★ ★ ★ ★ ★
【護衛依頼】
他にも、僕は初めて「護衛依頼」をこなした。
「じゃあ、スイデンくん、今日はよろしくねー」
「あ、はい」
僕はアカネさんの運転する電気軽自動車に同乗して遠距離の大きなスーパーまで同行した。
護衛依頼。という名の荷物持ちである。
「男の子がいると、ほんと助かるわー」
「いえいえ。依頼ですから」
何かの特売日であるらしく、両手・両肩にエコバッグをぶら下げてアカネさんの買い物に連れまわされた。
駐車場まで何往復もしたので手と肩と足が攣りそうになった。
「これ、アンテナには依頼しなかったんですか?」
「あの子、討伐討伐!って棒振り回して朝から出ていっちゃったのよねー」
アンテナもレベル上げに勤しんでいるらしい。
僕も家の買い物の手伝いは逃げ回っているし、そんなものかも。
アンナさんとの買い物デートは楽しいというより、ひたすらに重かった。
あと買い物が長かった。
ポイントは1ポイント。500円。
お礼に、と奢ってもらったアイスは美味しかったけれど、割が良い依頼かどうかは、微妙なところだった。
★ ★ ★ ★ ★
【討伐依頼】
ゴキブリを「討伐」した僕には実績カウントがついたらしく、討伐掲示板ではゴキブリに加えて鼠の討伐依頼も見られるようになった。
「ネズミか…」
田舎なのでネズミは出る。
農作物を齧る、エアコンのホースを齧る、天井裏で糞をする。
とにかくやりたい放題の害獣である。
ネズミ対策として田舎の大抵の家では猫を飼っているのだけれど、最近の家猫は餌も環境も良いから長生きな猫が多い。
猫の腎臓薬で画期的な薬が出た、と父が言っていた気がする。
長生きするのは良いことだけど、つまり多くの家猫は年寄りで、ネズミを追いかける運動能力に欠ける。
家猫社会も日本社会と同じく高齢化を迎えているのだ。
ということで、冒険者にお仕事が回ってくる。
冒険者は猫より安いのだ。
素人にネズミの駆除はできるのか?
あいつらは手ごわいぞ。
そんな僕の脳内反対意見を簡単に論破してくれるのが冒険者アプリのすごいところだ。
「ネズミ駆除道具、こんなのも売ってるのか…」
冒険者アプリには「冒険者の武器防具」も売っている。
ポイントで購入すると、本当にバカみたいに安い値段で買えるのだ。
僕のようにお金のない高校生向けに何回かに分けて支払いもできるようになっている。
おまけに不要な武器防具は売却もできる。
中古マーケットが成立していて安価に流通しているわけだ。
僕は見られないけれどアメリカなら銃も売ってるらしい。
僕が投資に踏み出そうとしているのには理由がある。
依頼のネズミ駆除はポイントが高いのだ。
何と5ポイント!ゴキブリ5回分だ。
目につくだけで地域のネズミ駆除依頼は5件以上ある。
全部で25ポイント!つまり12500円!
大儲けだ!
その時の僕は、そんな計算をしたのだと思う。
こういう状態のことを僕は国語の授業で習った覚えがある。
捕らぬ狸の皮算用。
まあ、苦労したけどこなせはしたんだ。
動画サイトを見たりしながら罠を仕掛けてね。
だけど思ったより儲からなかった。
ちょっとリアルなスキルの不足を感じた。
★がほしー
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