第5話 渡辺 梓

私と勝利先輩がと会ったのは生徒会がはじめて……とかあの人がおもっているかもしれないけど実は違う。中学卒業と同時に、親の事情で引っ越した私は友達の一切いない高校を受験することになってしまった。その高校はみんな真面目で地毛が明るい髪の私は少し浮いてしまっていた。

 先生に「黒く染めろ」と言われ「これは地毛です!!」と言い返すのは何度目だったろうか。本当は別に染めてもよかったのだけれど、転校して環境を変えさせられたことにより親への反抗心や学校への八つ当たりもあり、頑なに染めなかったのだ。

 そして、職員室に呼び出されていたタイミングで私は生徒会の業務で来たのだろう、初めて先輩とあった。教師といつものやり取りをしていた私を見て彼は一言言ったのだ。



「綺麗な髪の毛だな」



 この学校に来てはじめての肯定的な言葉に私はちょっと涙ぐんだのを覚えている。まあ、その後先輩はすぐに興味を失ったのか、用事を済まして帰ってしまったけれど……それでも私は嬉しかったのだ。

 そのままだったらただの思い出で終わっただろう、いつまでの言う事を聞かない私は罰だったのだろう。繁忙期限定だけど人の足りない生徒会を手伝う事になってしまった。

 そして、そこで私は勝利先輩と再会した。彼は私の事を覚えていなくて、少し悔しかったけれど……運よく彼が教育係になって色々話していくうちに私と彼は趣味がとても合う事がわかり、どんどん仲良くなっていった。その頃から少し彼の事が気になっていたのだと思う。

 決定的な出来事は、私が何気なく、「これ地毛なんですよね」って言ったら、一緒に先生に抗議をしに行ってくれた時だった。私の味方をしてくれて、先生に意見を言う彼はまるで少女漫画のヒーローみたいで……もうなんか色々やばくなってしまった。この人は何で私のためにとか……もしかして両想いなのかとおもい舞い上がったものだ。

 だけど……先輩はいつも通りで……ああ、この人は私を異性と思っていないんだなていうのがわかってしまい、悲しくもなった。





 なんとか彼を振り向かせようと半年ほど頑張っていた時の事だ。彼と一緒にいたくて私は正式に生徒会メンバーになり一緒に過ごす時間は増えた。一緒に遊んだりもした。だけど、距離は縮まった気はしないし、何か手を打たなきゃなと思っていたのだ。それは、私がちょっとした用事で遅れて生徒会に向かった時の話だ。



「ああ、俺は梓の事を好きだよ、その……後輩としてではなく、異性としてな……」



 盗み聞きをするつもりなんてなかった。本当に偶然生徒会室の扉が開いていて、ちょっと声が聞こえてしまい、何やら恋バナをしているなぁって思ったところだった。だからその声が聞こえてしまった時は罪悪感と共に嬉しさがこみあげてしまった。やばいやばい、両想いだったんだ。どうしよう。てか、今まで普通だったよね。聞き間違いじゃない? 多分私の顔は真っ赤で、だらしなくニヤリとなってしまっているだろう。こんな顔誰にもみせなれない……特に勝利先輩に何て絶対見せられない。



「「あ」」



 などと思っていると、扉を開けた武先輩と目が合ってしまった。みられたーーーーーーっていうか、盗み聞きしてたのばれちゃうよね。何とかごまかさないと……と思っていると彼はすれちがいざまに肩を叩いて、「頑張れよ」とだけ言って去っていった。ああ、私の気持ちも盗み聞きをしてたこともばれてる……でも、頑張れって事は応援してくれているのだ。もしかしたら元々相談していた雫先輩から話を聞いていたのかもしれない。

 そして、告白されたらどう答えようと思いながら、気を落ち着かせるために、少し校内を歩いてから。生徒会室へ入るといつものように漫画を読んでいる勝利先輩がいた。ああ、くっそ、漫画を読んでるだけなのにかっこよく見えちゃうなぁ……しかも、私が貸したやつだ。ちゃんと読んでくれているんだ。私はちょっとドキドキしながらコーヒーを淹れて勝利先輩の目の前にコーヒーを置いて一言。




「せんぱーい、何をにやにやしながら読んでるんですか? ちょっとキモイですよ。コーヒー淹れたんでどうぞ」

「ああ、ありがとう、てかこれお前から借りた漫画なんだが!! きもくて悪かったな」



 いつもの表情で私に話しかける勝利先輩がいた。その表情は、本当にいつも通りで、先ほど私の事を好きと言っていたのがまるで幻のようだった。そりゃあ、私もいつもみたいにクソ生意気なこといっちゃってますけどー!! 

 そしていつもみたいに口論がはじまってしまう。そう、私と先輩は好きなジャンルはあうけれど好きなキャラは全然あわないのだ。ていうか先輩には幼馴染なんかよりも私みたいな女の子の方が似合ってますよ。と遠回しにアピールをしてみるが一向に気づいてくれない。それどころかヒートアップした私たちをあとからやってきた斎藤先輩が止める始末である。やらかしちゃったなと思いへこんでいるとスマホに連絡がきた。目の前の斎藤先輩からである。



『渡辺……幼馴染になれ』



 いやいや、この人何を言っているんだと思ったが、悔しい事に私よりも斎藤先輩の方が勝利先輩に関して詳しいのは事実である。せっかくだから話にのることにしよう。そうして私が幼馴染になる発言をしてからの動きはすごかった。

 まずは斎藤先輩が勝利先輩を遊びに誘い、その間に私は雫先輩に呼び出されて、色々と打ち合わせをした。例えば中学の事によく言ったマックの話とか、例えば三人でいった遊園地の話とか……少し……いや、すごい羨ましいなと思いながら私は話を聞いて、口裏を合わせることにした。

 その後言葉だけでは疑われると雫先輩の家に行った私は中学の頃の制服を借りて、写真を何枚か撮った。何に使うのと思っていると、写真部で培ったスキルを使って、私の写真と先輩たちの写真を合成して写真を捏造したのには驚いた。

 そして、勝利先輩のお母さんに、電話をして、明日の朝お邪魔していいですかと聞くと本当に嬉しそうに快諾してくれた。何度か家にお邪魔したことはあるのだけれど、どうやら私の気持ちはバレバレだったらしい。あとは勝利先輩が憧れているであろう、幼馴染からのお弁当イベントとやらを作ることにした。

 恥ずかしながら勝利先輩の食事の好みは、いつかお弁当とか作るときあるかもと妄想していて好みはばっちりと把握していたので問題はなかった。そして今に至る……ついに恋が実るのかもしれない。そう思うと私は放課後が待ち遠しくてたまらないのであった。


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