第4話 幼馴染?のお弁当
今日はさんざんだった。梓の事があって授業が全然頭に入らなかった。クラスメイトのやつは高校からのやつばかりだし、梓も高校を機に引っ越したから情報の裏もとれないんだよな……しかもあいつらに梓の事を聞くといつも通り「彼氏のお前が知らないことを知るかよ」っていってきやがる。別に付き合ってもいないって言うのにな……
「あー、コーヒー飲もうかな」
昼休みになり、とりあえず思考を整理しようと生徒会室に避難していた俺だったが、コーヒーをいれるために席を立つ。いつもは梓がいれてくれるから自分でやるのは久々な気がした。
「あー、いました!! どこいってたんですか? 探したんですよ!! 勝利先輩スマホが壊れてるから連絡つかないんだから気をつけてくださいよ」
「ひぇっ!! 梓か……」
「何ですか、ひぇって!! いつも通りお弁当作ってきたのに……今朝の事といい私だって傷つくんですよ。ばか!!」
そう言うとふくれっ面の梓は手に持ったお弁当箱を俺に見せながらブーブーと文句を言う。いや、いつも通りってお弁当を作ってもらうのなんて初めてなんだが? あーでも、梓の手作りお弁当か……朝ごはんも美味しかったし、何よりも恥ずかしくて本人には言えないが気になっている後輩の手作り料理だ。すっげー食べたい。
「その……本当にもらっていいのか?」
「当たり前じゃないですか? 私に二つ食べろって言うんですか?」
そういいながらこっちにお弁当を渡してきたので俺は遠慮なく開ける事にした。中身はから揚げに、卵焼き、あとはサラダが入っており、美味しそうな香りが空腹な俺を刺激する。梓はというとなにやら緊張した面持ちで、俺の隣に座ってこちらを見つめている。そんなに見つめられると食べにくいんだが……とおもいつつもから揚げを一つまみして口に入れる。俺好みの甘辛で思わず感想が口から出た。
「うまいな……」
「そうでしょう、そうでしょう!! 私は勝利先輩の幼馴染ですからね、勝利先輩の好みなんて全部知ってるんですよ。ほら、その卵焼きも甘いですよー、勝利先輩はそっちの方が好きですもんね」
「すげえ、まじで全部俺の好みの味だぁぁぁ」
「まったくもう、がっつきすぎですよ」
俺は思わずお弁当を一気に食べる。ごはんの硬さも俺の理想通りでまじで俺を知り尽くしている味に感動をする。そして、いつものように漫画の話をして楽しい時間が流れる。いつもと違うのは俺達の物理的な距離だろうか? いつもは向かい合って座っていたが、今は隣に座っている。そういえば、武と雫もそんな感じだったなぁ……そんな二人を正面から見ていた俺は早く付き合えって思っていたものだ。
いつもとの距離が違うからかふとした瞬間に俺の手と彼女の手がぶつかった。「あっ」っという声と共に彼女は顔を少し赤くして少し震えながらも手を重ねてきた。その可愛らしいしぐさにドキリと胸が熱くなる。
「幼馴染なんだからこれくらいしてもおかしくないですよね……それにしても、先輩の手って大きいですよね」
「まあ、幼馴染だしこれくらいはありだろ……」
彼女は顔を真っ赤にしながらも少しうつむいて言った。いや、ありじゃねーよ。これって幼馴染の距離感なのか? どちらかというと両片思いの男女の距離じゃ……
というか、こいつこんなかわいかったっけ? 幼馴染ってこんな感じだっけ? いや、そもそもこいつは幼馴染じゃなかったはず……だけど、彼女はまるでこの距離が当たり前とばかりに俺の隣に座っている。こいつが幼馴染で俺に何か問題ってあったか? ないよな? 彼女のいい匂いと柔らかい手に俺は思わず生唾を飲んで彼女を見つめると、何かをおねだりするかのようにこちらを見つめてくる。
「なぁ、いつもはどうしてたっけ?」
「えっと……お弁当のお礼って言って頭を撫でたりしてくれてましたよ……」
「そうか、じゃあ、失礼するな」
そうして、俺が彼女の頭を撫でると一瞬びくっとした後に幸せそうな顔で微笑んだ。そんな顔をしてくれるのが嬉しくて、昼休み中ずっとそうしていた。幼馴染の手作り弁当で二人でこっそり食事とかもう、俺の思い描いていた生活ではないだろうか?
何があったというのだろう。例えば世界線が変わったのかもしれない、誰かが聖杯に願ったのかもしれない。現実的にどっきりなのかもしれない。でも、俺とこいつが幸せならいいんじゃないだろうか? 俺はいつものからかう様子ではなく、甘えてくる彼女を見ながら思う。俺は元々こいつの事が大好きで……だけどなまじ仲良くなりすぎたから、関係を崩すのが怖くて一歩踏み出せなかった。昨日もつい恥ずかしくて「俺の目の前に幼馴染の女の子がいたら速攻告白するね!!」とかいって逃げていた。だったらこれは神様がくれたチャンスなのかもしれない。だって、俺の好きな女の子が幼馴染になったのだから……
予鈴がなり、自分の教室に戻る準備をしている梓に声をかける。ああ、震えてしまった。
「そ、そのさ……放課後ちょっと話があるんだが時間をくれないか?」
少しかみながらいって彼女の表情を覗き見る。一瞬大きく目を見開いて目をうるわせて彼女はこういった。
「はい、何でしょうか? 別に暇だからいいですよ」
彼女はそういうと駆け足で生徒会室を出て行った。
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