第15話 見下される、男爵とヒューマ
見下される、男爵とヒューマ
「それで、申し訳ない。実は、本日持って行く予定だったあの武器、『アルク・フェイブル』が、何処を探しても見当たらんのです。どうも、不届き者がおったようでして」
道すがら、早速ご主人様が説明し、頭を下げる。
なので、僕も同じく頭を下げると、アラタさんはリムリアさんと顔を見合わせる。
「う~ん、それって、盗まれたってことですよね?」
「恐らくは……」
「でも、問題は無いでしょう。勿論、あるに越した事は無かったのですが」
へ?
これまた意外な返事だ。
すると、アラタさんは軽く微笑みながら、僕に目を合わす。
「だって、現状、あの武器を作れるのは、この国ではナタン君、多分君だけだ。あれを見ただけじゃ、いくら優秀な職人でも、あの弓の部分を作れないだろう。それに、材料さえあれば、また作れるんだろ?」
「え? あれって、そんな凄い物なんですか? そ、それで、確かに材料さえあれば、作れますけど……」
「なら、それでいいじゃないか。それに、さっき、うちの看板見ただろ? うちは、武器防具専門の工房もやっていてね。優秀な職人と、それなりの設備がある。君がうちの職人と設備を使って作れば、多分だが、あれを一日10丁以上は作れると考えている。勿論、料金は頂くけどね」
なんと!
この人、既に大量生産するつもりだ!
そして、何故、アラタさんが陛下に会いたいって言っていた理由も、少し読めた気がする。
「でも、物盗りですか…。これは、少し俺の考えが甘かったようです。リム! お前は屋敷に戻ってくれ」
「ええ、最悪の事態に備えろってことね! 分かったわ!」
「流石はリムだ。じゃあ、また後で」
リムリアさんは、アラタさんにそう言われると、返事をするなり、すぐに道を引き返す!
しかし、この二人凄いな。あれだけの会話で、ちゃんとした指示になっているだなんて。もっとも、僕には何のことかさっぱりだけど。
夫婦の絆の為せる業か?
その後、うちの前を通り、そこでお嬢様とも別れる。
お嬢様は王宮までついて来たかったようだが、ご主人様に睨まれ、すごすごと家の中に消えて行った。
街に入り、中心部分、王宮が見えると、アラタさんが感想を洩らす。
「しかし、ここの王宮は、いつ見ても美しいですね~。他国の城は、防御重視の、無骨な造りが多いというのに」
「あはは、コノエ殿、これも、エルフ族の魔法技術のおかげでしょう。それに、このイステンドは創設以来、侵略されたことはありませんからな」
うん、他国の城はどんなのかは知らないが、イステンドの王宮が美しいというのは、僕も同感だ。
丸みを帯びたカーブを描く、紡錘形の三本の塔。その周囲は、澄んだ水を
僕は当然入った事はないが、真ん中の塔はかなり太く、貴族とかの会議場と衛兵の詰め所らしい。また、左右の塔は、陛下とか、王族の住居らしい。
ご主人様は僕達を従え、橋を渡り、真ん中の塔に入って行く。
当然、入るにはノーチェックな訳がなく、全員、腰に剣を挿し、杖を構えた衛兵さん達に、ステータス表示を求められた。
勿論、ステータス表示とは言っても、全てを見せる必要は無い。僕は、名前と職業だけを見せようと念じる。
「あ~、ヘクター・ヴァン・デュポワ男爵ですか。仕方無いですね。それで、用が済んだらさっさと出て下さいね」
「ん? お前は…、ああ、男爵様の奴隷、つまり所持品、おまけか。全く、いいコンビ…、いや、入れ」
え?
何、この人達?
僕は奴隷でヒューマなので、この対応は当たり前として、男爵であるご主人様に、この言い方は失礼だろう!
しかし、最下級ではないが、男爵クラス相手ならこんなものなのかな?
そう言えば、今まで僕は、御主人様の奴隷だったにも関わず、あまり一緒に街に来たことはなかった気がする。
まあ、街での買い物とかは、僕一人でこなせたしな。
「アラタ・コノエ…、何か見慣れない名前だな。職業、冒険者、商人。そうか、このヒューマか! ああ、聞いている。入れ。全く、今日はヒューマ臭い日だぜ。まあ、亜人じゃないだけマシか?」
衛兵達は、僕達を通した後、手で追い払うような仕草をする。
うっわ~。
この人達、大丈夫か?
アラタさん、形としては陛下からの要請なんですよ?
でもこれが、普通のエルフの、ヒューマに対する反応だよな。
検問をやり過ぎると、ご主人様は、アラタさんに深々と頭を下げる。
「我々の方から呼び出しておいて、不快な思いをさせてしまった。本当に申し訳ない!」
しかし、アラタさんは、涼しい顔で返す。
「いえ、気にしてませんよ。そして、貴方が謝る必要は無いでしょう。貴方は、ヒューマの俺を差別していないじゃないですか」
「い、いや、それは…」
ご主人様が更に何か言いかけると、アラタさんは、それを片手で軽く遮る。
そして、にやりと微笑んだ!
「まあ、これからが見ものですよ。うん、今回は、色々な意味でいい機会でした」
ん? これの意味はなんだ?
僕はご主人様と顔を見合わせる。
塔の2階、謁見の間とやらに進むと、圧倒される!
真っ赤な絨毯が真っ直ぐに奥に伸び、その両脇に、貴族と思われる、赤や青のローブを纏った人が直立していた!
よく見ると、その列には、あのブネ伯爵も混じっている。
そして、その絨毯の最奥、数段の階段を上った先に、装飾の施された、ド派手な椅子が配置されており、そこに、紫色のローブを纏った女性が、顎肘をつきながら鎮座していた。
うん、この人こそが、この国の女王、『エレアノール・ローレン』陛下だろう!
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