第14話 アルク・フェイブルを狙う者
アルク・フェイブルを狙う者
うん、昨晩はよく眠れた。まあ、あれだけ色々あれば当然か。
僕は、顔を洗う為、僕の部屋、地下室から階段を昇り、台所へ向かう。
「ん? 窓が開いてるな? ちゃんと閉めたと思ってたのだけど……」
まあ、こんな街外れにわざわざ忍び込む泥棒も居ないだろ。
もっとも、僕と仲間は、逆に警戒されていないだろうとの事で侵入したのだけど。
そして、ご主人様の部屋に入ったところを、『アラーム』の魔法に引っかかり、今に至る。
僕が窓を閉め、顔を洗っていると、お嬢様も起きて来られた。
「おはよう、ナタン。あたしは今からシャワーを浴びてくるから。あ、覗いたら、殺すわよ!」
ぶっ!
これ、毎朝やってるな。
僕にそんな度胸が無い事を知ってて、からかっているのだとは思うのだけど。
「はい、ごゆっくりどうぞ。あ、タンクの水、足しておきますね」
「ええ、お願いね」
僕は玄関から外に出て、裏に回る。
梯子を昇ったところにある、貯水タンクに魔法で水を足すのが、僕の日課だ。
「ウォーターチャージ!」
10分程で水を足し終わってリビングに戻ると、ご主人様も起きて来られた。
「おはようございます。ご主人様」
「うむ、おはよう、ナタン。それで、今日持って行く、あの『アルク・フェイブル』、儂ももう一度確認しておきたい。持ってきなさい」
「はい!」
僕は、転がるように地下室へ駆け込む。
「え? あれ? 無い! 何処にも無い!」
机やベッドの下にも潜り込むが、やはり無い!
そもそも、僕は昨晩あれを、作業机の上に置いてから寝たはずだ!
慌てて階段を駆け上ると、丁度、お嬢様がシャワーを終えて出て来たところに鉢合わせする。
バスローブを纏い、淡いグリーンの髪を梳かしているお嬢様に、思わずぐっと来てしまう!
って、今はそんな場合じゃない!
「お、お嬢様! 僕のアルク・フェイブル、知りませんか?!」
「え、あの弓もどき? あたしは知らないわよ? それに、あれ、昨日ナタンが自分の部屋に持っていったでしょ? そんな事より、そこ、邪魔よ!」
「は、はい!」
僕が慌てて脇に避けると、ご主人様も、今の会話を聞いていたようだ。
「これ、ナタン! もう一度、隅々まで探しなさい! クロエも手伝いなさい!」
「「は、はい!」」
結局、アルク・フェイブルは見つからなかった。
三人揃って、テーブルの前で
時間はまだ朝の8時半。ここを出るのは10時前の予定。なので、ダッシュで作ろうと思ったのだけど、材料が無い。
弓の部分だけなら何とかなる。あのラージスケルトンの骨は、まだかなり余っている。鉄も、うちの鍋でいいだろう。
だが、持ち手の部分の材木が足りない!
それに、考えてみると、あったとしても、材木を整形する作業に時間がかかる!
柔らかく溶けた金属とは違って、僕の土魔法『トランスフォーム』は通用しない。鋸で切り、
「う~む、材料はともかく、今からでは間に合わぬか。そう言えば、昨夜、不審な物音がしたような気もする。しかし、他に盗られた物はないようだ。ならば、あれのみを狙って…? とは言え、あれにそんな価値があるなどとは、普通の者では分からぬはず。では……?」
ご主人様がちょび髭を撫でながら首を傾げていると、いきなりお嬢様が大声を上げる!
「あいつよ! あのエロヒューマよ! あいつらなら、テレポートの魔法も使えたみたいだし、泥棒するくらい簡単なはずよ! きっとあいつ、最初からあれが狙いだったのよ! 盗んでから、イステンド軍に高く売りつけるつもりなのよ!」
いや、お嬢様、昨日のアラタさんは、そんな感じでは無かったような?
確かに、ご主人様の話では、あれを『僕に作らせた』のは、間違い無いと思える。
だが、動機が無い。
あの人は、あれを今日持って来いと言ったのだ。
「これ、クロエよ、儂も少しは疑ったが、あの者ではなかろう。もしあれが欲しいなら、借金を立て替えた礼にと、あれを要求しておったはずだ」
うん、僕もそう思う。
なので、考えを整理しながら話す。
「そもそも、あれが魔物に通用する事を知っているのは……。あ~っ! きっと伯爵です! そう言えば、ガレルさんを連れ去る時、ずっと僕を睨んでいた気がしました。でも、伯爵が見ていたのは僕じゃなかったんだ! アルク・フェイブルだったんだ!」
「あ! それなら考えられるわ! あ、あたしも、実はあいつが怪しいと思っていたのよ!」
そう、ガレルさんは奴隷にされたのだから、泥棒なんて出来る訳が無い。
そして、他であれの性能を知っているのは、ブネ伯爵と魔法兵の人達だけだ!
「ふむ、それならば納得できるやもしれぬ。だが、もしそうであったとしても、実行犯は伯爵本人ではなかろう。盗賊職に落ちてしまうのでな。そして、クロエ! ナタン! この話、絶対に口外してはならぬぞ! 相手は伯爵。しかも、証拠は全く無い。意味は分かるな?!」
「「は、はい!」」
その後、朝食を済ませた後、僕達3人は、アラタさんを迎えに家を出る。
もっとも、お嬢様は留守番の予定だったのだが、ご近所さんを知っておく必要があるとか、屁理屈を捏ね出したので、ご主人様も、王宮には絶対に連れて行かないと念を押し、渋々呑んだようだ。
まあ、単純に興味本位なのだろう。
僕達は、家を出て、街とは逆の方向に、道なりに進む。
「あれ? ここから先に家は無かったと思いますが…? それに、ここら辺りが、街の結界の限界では? 確か、ここらでゴブリンに遭遇した覚えがあります」
「そうね。でも、ナタン、そこ、何か細い道が分かれてるわ」
見ると、道の脇に生い茂る林の間に、僅かに、獣道のようなものがある。
ちなみに、今来た道をそのまま進むと、『アンのダンジョン』に通ずる。
「ふむ、では、そっちに行ってみようかの」
林に分け入り、その獣道を少し進むと、いきなり視界が開けた!
「ええ~っ?! こんな所に、こんな立派なお屋敷があったなんて!」
お嬢様が素っ頓狂な声を上げる!
ご主人様も目を丸くしている!
目の前には、二階建ての、庭付きの豪邸がそびえていた!
こんなお屋敷、普通なら、確実に上流貴族が住んでいる!
それが、こんな、街外れの結界ギリギリの林の中って!
場違いにも程がある!
僕達が、鉄柵の門の前で呆然と立ち尽くしていると、奥の玄関から人が出て来た。
紫色の髪を後ろで結い上げ、眼鏡をかけている。少しきつそうな雰囲気の御婦人だ。そして、王宮の侍女が着るような紫色のドレスに身を纏っていた。
ヒューマだな。年齢は30歳くらいだろうか? かなりの美人でもある。
その女性は門の所まで駆けてきて、僕達に一礼する。
「デュポワ男爵様ざますね? 伺っているざます。今、アラタ様が参られるざます。少々お待ち頂きたいざます。申し遅れたざます。
な、なんだ?
このざます調は?
だが、納得だ。このクラスのお屋敷、使用人が居るのも当然だろう。
僕達は、面食らいながらも自己紹介を返す。
「は、はあ。わ、私がヘクター・ヴァン・デュポワ男爵です」
「は、はい。クロエ・ヴァン・デュポワ準爵です」
「ど、奴隷のナタンです」
そこで僕は、昨日ご主人様に言われた事を思い出し、この状景、全てを必死に頭に留める。
更に辺りも見回す。
ん? 門の脇には、小さな看板が出ている。
『カレン工房:武器防具修理、魔核付与承ります』
へ? アラタさん、商人って言っていたけど、実は鍛冶師? 武器屋?
しかし、カレンって何だ? 確か、アラタさんの名前は、アラタ・コノエだったはず。
僕が頭の中にクエスチョンマークを散りばめていると、ご主人様とお嬢様も同様のようだ。揃って、全く同じ姿勢で首を傾げている。
そして、悩んでいると、再び玄関の戸が開き、アラタさんとリムリアさんが出て来た。
二人共、白いマントを羽織り、昨日と同じ服装だ。
「皆さん、おはようございます。わざわざ、こんな所まですみません。では、行きましょうか」
二人が軽く一礼し、門が開かれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます