第5話 ナタンの才能

        ナタンの才能



 その晩、僕は部屋で一人、弓もどきを改良する為の構想を練る。

 途中、お嬢様が「それで、あたしは何をすればいいのよ!」と、顔を出してくれたが、今は断った。

 うん、先ずは構想、方針を決めなければ、手伝って貰いようがない。


 そして、最も重要なのは、矢を射る装置、弓部分だ。


 今使っている素材は、バンブルという、よくしなる木を使っているが、これだと柔らかすぎるのではなかろうか?

 もっと堅い木を使えばどうだろう?


 僕は、部屋に散乱している、あの弓もどきを作る時に使った、がらくたを物色する。


 先ずは角材。

 これは、弓もどきのベースに使ったが、これはダメだな。

 全くと言っていいほど、しならない。


 次、ごみ捨て場から拾ってきた、柄の無い鍋。

 こういった鉄は、使用用途が広い。丈夫だし、溶かせば、いくらでも形を変えられるからだ。

 ちなみに、弓もどきの上部についている、弦を絞る装置は鉄製だ。てこの力を利用しているので、非力な僕でも、しっかりと弓を番える事ができる。


 うん、鉄はどうだろう?

 薄くすれば…って、これもダメだな。鉄の場合、ある程度はしなるが、力をかけすぎると、曲がってしまうか折れる。


 ならば、ご主人様が買わされた、武器の素材になるという、スケルトンの骨はどうだ?!

 ちなみにこれ、ご主人様がアイテムボックスを使って鑑定したところ、『ラージスケルトンの骨』とのことだった。おや? 只のスケルトンじゃないようだ。


 早速僕は一本の骨を手に取り、力を入れてみる。

 うん、やっぱり、只の骨…じゃないな。

 かなり力を入れると、若干しなるか?


 なら、せっかくだし、少し試してみよう。どうせ、現状手詰まりだし。


 僕は、部屋の隅に置いてある、金属などを溶かすのに使う、気力式簡易炉に向かう。

 1m四方くらいの、本当に簡単な炉だけど、僕は結構重宝している。ちなみにこれも、ご主人様の、人の好さの産物らしい。


 正面のぽっかり空いた穴に、石のトレーに載せた骨を放り込み、反対側に回り込む。

 後は、この裏手についている取っ手を握り、気力を込めるだけだ。鉄だと、10分くらいでどろどろになる。


 そこへ、またお嬢様が入って来た。

 今度は寝間着姿だ。


「ナタン、期限は一月なのよ! ダンジョンの10階に辿り着くだけでも、結構かかるって聞いているわ! そんな悠長な事している暇はあるのかしら?! というか、階層主って言っても、所詮は魔物でしょ? あたしの魔法で楽勝じゃない!」


 ぶっ!

 お嬢様は相変わらずのようだ。

 お嬢様の魔法で狩れるのなら、命知らずの冒険者しか潜らない、なんて事は無いと思いますよ?


「はい、お嬢様の魔法は頼りにしています。でも、アラタさんは、僕の武器で狩れって仰っていました。なので、お嬢様一人で狩ってしまわれては、ダメなのでは?」

「それは、ナタンも一緒に攻撃すればいいだけじゃない。だから、明日にでも早速……」

「だ、ダメです! ちゃんと準備を整えてからじゃないと! もしお嬢様が怪我でもしたら、それこそ、ご主人様になんてお詫びしたら! そもそも、その階層主の情報が少なすぎます! そうだ! お嬢様、明日、冒険者ギルドで聞いてみましょう」


 うん、よくよく考えたら、僕達には、ダンジョンの情報が皆無に等しい。


「ん~、それもそうよね。じゃあ、それは、明日一緒に行くわよ! そ、それで…」


 お嬢様は、少し俯き、もじもじしながら、上目遣いで僕を見る。


 う!

 こ、これは…。

 こんなお嬢様の表情は初めて見る!


「は、はい! ちょ、丁度今、お嬢様に手伝って頂きたい事が出来ました!」

「そ、そうなの? じゃあ、手伝ってあげるから、内容を言いなさい!」


 僕は、簡易炉に気力を込める作業を手伝って頂く。

 お嬢様は、手が汚れるとか言いながらも、ちゃんと気力を込めてくれているようだ。

 炉の中からは、真っ赤な光が溢れ出す。


 なるほど。

 僕は、石のトレーの上でどろどろに解けた、スケルトンの骨を見て理解した。


 うん、これは、やはり、只の骨なんかじゃない!

 普通の動物の骨なら、いくら熱を加えても、真っ白になって脆くなる程度で、さほど変化はない。

 だが、この骨は溶けた!

 しかも、色も、くすんだ銀色のままだ!


 そう、これは一種の金属と思って間違いない!


 なら、後はいつも通りだ。

 僕は、少し時間を置く。

 お嬢様は僕の隣に来て、じっと見守っている。


 うん、頃合いだな。

 これが金属なら、そろそろ冷えてきて、固まり始めるはずだ。

 僕は、両手をその溶けた物質に向けて翳す。手の先に気力を集中させ、イメージを固める。


「トランスフォーム!」


 うん、成功のようだ。

 石のトレーの上には、小さいながらも、弓の形になった物体が載っている。


「へ~、ナタンはこうやってあれを作ったのね。あたしも初めて見るけど、凄…、いえ、そこそこの魔法が使えるじゃない」

「はい、ありがとうございます。土魔法レベル2で習得できた魔法です。あっと! まだ熱いですよ!」


 僕は、お嬢様が手を伸ばしたので、慌てて制止する!

 そして、更に魔法を唱える。


「ウォーターチャージ!」


 トレーの上に水が注がれ、水煙を上げる!


「そろそろ冷えたかな?」


 僕は、やっとこでその弓をつまみ上げ、そっと指で触れてみる。

 うん、もう触っても大丈夫のようだ。


 早速、お嬢様が奪い取って、いじくり回す。


 ん?

 思ったよりも柔らかいようだ。

 お嬢様の力でも、かなりたわむ。


 まあ、かなり細くなったから、しなるのは理解できるけど、これではダメか?

 僕も手に取って曲げてみるが、今の弓もどきに使っている、バンブルと大差ないようだ。

 だが、これは鉄と違って、曲げてもすぐに元に戻る。


 むむ?

 ならば……。


「お嬢様! もう一度お願いします!」

「え? これじゃダメなの? まあ、確かにこれじゃ、強い矢は無理みたいだけど?」

「はい。これでは、今のと変わらないですから」


 お嬢様は、首を傾げながらも、再び簡易炉の裏に回って下さった。


 僕は、今度は、壊れた鉄の鍋を一緒に入れてみた!



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「な、なんだこいつ?! 俺も期待はしていたけど、ここまでとは! 流石はロキ、神様張ってるだけあるな~。うん、こいつ、使えるなんてもんじゃない! 天才だ!」


 ここは、神の間のモニタールーム。

 ここからだと、地上の、見たいところが見られる。


 俺が、隣で膨れた腹をさすりながら一緒に見ていたカレンに振り返ると、彼女も同感のようだ。

 食い入るようにモニターを見ている。


「そうっす! こ、これは、あたいの鍛冶師としての地位もヤバいっす! あたい達も、サラちゃんの弓を作る時は、かなり試行錯誤したっすから。それを、いくら素材があるとはいえ、ノーヒントで……」


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