第6話 アルク・フェイブル(弱者の弓)
アルク・フェイブル(弱者の弓)
翌朝気付くと、僕は床の上で寝ていた。
あ~、昨晩、完成したのを見て、そこで落ちてしまったようだ。
あの後の作業はそれ程難しくはなかった。出来上がった弓部分は、僕の予想通り、かなり硬いものの、ちゃんとしなった。なので、あの弓もどきの先端を取り換え、後は、同じ材料で弦を張っただけだ。
そして、僕の脇には、その、改良された弓もどきが転がっていた。
早速、それを手に取って確かめようと起き上がると、違和感に気付く。
おや?
誰かが、僕に毛布をかけてくれたようだ。
辺りを見回すと、お嬢様が僕の粗末なベッドで寝息を立てている。
お嬢様、ありがとうございます!
僕は心の中で礼を述べ、お嬢様を起こさないように、改良版弓もどきを構え、ステータスを確認してみる。鑑定スキルを持っていない僕では、こうやって直接装備してみないと、武器の性能が分からないからだ。
【ステータス表示】
氏名:ナタン 年齢:16歳 性別:男
職業:奴隷≪ヘクター・ヴァン・デュポワ:死後譲渡:クロエ・ヴァン・デュポワ≫
レベル:18
体力:59/59
気力:62/62
攻撃力:130 +3
素早さ:62
命中:63 +35 +1
防御:58 +2
知力:65
魔力:68
魔法防御:65
スキル:言語理解3 交渉術1 家事2 武器作成3 危機感知1
土魔法2 水魔法2
ん?
攻撃の値が跳ね上がっている!
確か、僕の攻撃の数値は、60くらいだったはずだ!
あ~、そういうことか。
そう、普通、武器や防具を装備すると、攻撃力や防御にプラスのマークがつき、その後に、その装備をしたことによる、補正値が表示される。例えば、最弱の武器、ダガーを装備すると、攻撃力に+5される。
僕は、ステータス表示の2ページ目を確認してみる。
【選択可能情報】
職業:鍛冶師×
【装備】
布の服:防御+2
布の下着:命中+1
???:攻撃力+130 命中+35
木の矢:攻撃力+3
やっぱりな。
この、???というのが、この武器のことのはずだ。
個人の能力に関わらず使えるので、こういう表示になったと見ている。
攻撃力に、更に+3されているのは、番えた弓矢の威力だろう。
ちなみに、???と表示されたのは、この世で初めてのものを意味するのだと思う。
最初に弓もどきを作った時も、???と表示され、その後、お嬢様が「なに? この、弓もどき」と言ったら、『弓もどき』と表示されたので、間違いないはずだ。
じゃあ、後で名前をつけないとな。また、お嬢様にお任せするか?
しかし、これ……。
自画自賛になるが、凄すぎないか?
確か、以前の弓もどきの攻撃力は、全部で70くらいだったはず。倍近くになったな。
参考程度に、普通のヒューマだと、レベル20、つまり、何も特別な事をしていない20歳くらいの人だと、能力値が80もあれば、かなり優秀らしい。その意味では、僕は全てにおいて優秀とは言えないが、魔法系統に関しては、まずまず得意な分野と呼べるだろう。
また、魔物を退治するのが生業の冒険者の場合は、魔物を倒すとレベルが上がり易いので、比較はできないようだ。
そして、普通の武器の攻撃力は、聞いた話によると、最もポピュラーな鉄製の剣で、+10~15くらいらしい。
つまりこの武器、装備しただけで、熟練した冒険者クラスになれると考えていいのでは?
まあ、ベースになる攻撃力が皆無であっても、この武器は使えるのだからと言えば、理解できなくもないか。要は、当たった時、どれだけダメージを与えられるかということだな。
とにかく、理屈は後だ。試してみよう。
標的として、先ずは木の板を壁に立てかける。
うん、上々のようだ。
ズゴッ!という音と共に、狙った通りの場所に矢が命中した!
「ん? でも、これじゃダメだな」
見ると、矢の先が割れてしまって、板を貫通できていない。
「ならば……」
僕は、矢を、木製から、鉄製の矢に替えてみる。
ちなみに、この鉄の矢も拾ってきたものだが、以前の弓もどきだと、重すぎて、かえって威力が落ちてしまったのだ。
「う~ん、やっぱり、この、矢を番える作業だけでも結構力が要るのがネックかな? でも、威力は充分のようだし、慣れれば問題ないだろう」
再び、板に向かって構える。
今度は大成功だ!
肩にかなりの反動を感じるものの、矢は軽く板を貫通し、レンガの壁を削る程だ!
僕が一人でにやついていると、ここでお嬢様が起きたようだ。
「ん~、もう朝かしら? 時間…、って、ここ何処?!」
ぶはっ!
まあ、お嬢様の反応は当然か。
「あ、お嬢様、お早うございます。そ、そのすみません。僕もよくは覚えていないんですけど、お嬢様は、ここで寝てしまわれたようですね。あ、手伝って下さって、本当に……」
すると、予想はついてはいたけど、お嬢様が怒鳴り出す!
「え? ここ、ナタンの部屋じゃない! ひょ、ひょひょひょ、ひょっとして……」
毛布を前に抱えて真っ赤になる!
更に、上目遣いで僕を睨みつける!
あ~、これ、不味いな。
確かにこの状況、勘違いされても仕方ない。
「い、いえ、だ、大丈夫ですよ? た、確かにお嬢様は可愛いですけど、ぼ、僕にそんな度胸ある訳ないじゃないですか。そ、それに、僕、ロリコンじゃないですし」
「そ、そうよね。な、なら良かったわ。って、今、最後に聞き捨てならない台詞があったようだけど?」
あ、またやってしまったようだ。
その後は、お嬢様に平謝りした後、ご主人様を交えて朝食となるが、その間、お嬢様は一言も口を利いて下さらなかった。
「それでナタン、昨日の予定だと、今から冒険者ギルドよね?」
朝食が済み、ご主人様は魔法学校に向かわれ、僕が洗い物をしていると、やっとお嬢様が口を開いて下さった。
「はい。お嬢様のおかげで、武器も改良できましたし。ダンジョンに向かう冒険者が見つかればいいのですが…」
「う~ん、でも、お父様の様子では、その、『アルク・フェイブル』の性能は、かなりみたいよ? あたし達だけでも、余裕じゃないかしら?」
お嬢様は相変わらずのようだ。
そして、あの武器には、ご主人様が名前をつけて下さったのだけど、古代エルフ語で何か意味があるらしい。
「でも、階層主の事もありますし、行ってみて損はないかと」
「それもそうね。じゃあ、行くわよ!」
お嬢様は、普段着のワンピースの上に、真っ黒なローブを羽織り、杖まで持って、本格装備のようだ。
なるほど。それはいいかも。
もし、その場で冒険者が見つかったとしても、碌な装備をしていないと、舐められて、組んでくれないかもしれない。
なので僕も、これまたご主人様の人の良さの産物である、皮製の胸当てを普段着の上から被せ、更に『アルク・フェイブル』を背中に担ぎ、準備完了だ!
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