―― の章
この街を一言で説明するのは難しいといっていいんじゃない。
なにせ、愛欲と切望がしつこいぐらいに入り混じっているんだ。
池袋や新宿二丁目とはまた違う類の、ね。
怖いもんさ! そいつらは問答無用で人間売買だの暴力沙汰だのなんでもやらかす。
ただの縄張り争いに目が膨らんで、人情だのケリだの恩返しだの。
あーあ。ほんとうに。
くだらないね。無粋だよ。
……もしもし、聞いてるかい? あれ、電波……。
あ、OK。繋がってるね。
で、ここでやってるのも同じようなイザコザだっていうのは否定はできないさ。
ただ主役が違う。ヤクザ暴走族バイオレンス集団とはまた違う、一昔前に流行った――そうだな、早い話が学生たちの政治集団だ。
まあ、しゅうたに話すのは明らかに野暮で、あくびでもされたら困るんだけどね、60年代に最盛期を迎えた学生運動がまたここで起ころうとしてるだろう?
間違えた。現在進行形だね。すでに起こっている。そしてそれは、他の区も巻き込んだ一大騒動となっていることは承知しているんじゃないかい。
どれもこれも、前の政権が教育を軽視した政策を強行したおかげだね。まあ、若者の政治に対する興味関心のなさを利用したんだろうけど、あまりにもひどかったから、逆に政治を知るきっかけとなってしまったんだけどさ。皮肉なもんだよ。
付け加えるなら、僕らは東京大学のお膝元・文京区で高校生をやっている限り、巻き込まざるをえない状況になってるんだよね。
ここで一つのクエスチョンだ。天下の脳細胞、知識の擬人化みたいな東大で、果たして池袋や二丁目のような筋肉バカを利用したらどうなると思うかい?
……とんでもないことになりそうなのが、見えているだろう?
今も、この街は発展し続けているさ。政治で戦い、思想で戦い、右も左も保守も革新もアナーキーもレイシズムも労働組合も帝国主義も反共精神も市民革命も、ヒトラーもマルクスもレーニンもスターリンも陛下も王も平民も常民も臣民もすべてすべて詰め込んだようなものがこの街なのさ。
しゅうたも、去年までいたんだから分かるだろ? それとも、郷愁には駆られない性格だったかい?
「さあねえ」
ふふ。はぐらかすなよ。
まあ、いいや。また、おっきな火種がジリジリと爆発に向かってきそうだし。
華月の政治系部活動も、そろそろ目に見える動きがあるんじゃない。
僕も生徒会の一員として、忙しくなりそうだ。
「そうなの。じゃあ、行政を統治するのに苦労しそうだね」
役職のない生徒会役員なんて、小姓程度の力しかないさ。僕がやることなんて、そうそうないよ。
「……」
……。
冗談だよ。
「
うん?
「自分を見失わないようにね」
はは。
……。
心に留めておくよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます