第11話 社会復帰までの遠い道

「はぁ、はぁ、はぁ」


 3月下旬のとある昼下がり。僕はすっかり習慣となったウォーキングをしている最中だった。


「ちょっとここらで休憩するか」


 歩き始めておよそ1時間。いつもとは違うコースで歩いているため、その分時間が掛かっていた。その道の途中、僕はちょうど目に入った公園で休憩をすることにした。


 すると、ピコン、とスマホから通知音が聞こえた。


「何だろう?」


 気になってスマホを手に取る。通知の正体は、一通のメールだった。


「この前の面接、か」


 うつ病になっておよそ1年の歳月が経って、ある程度回復の兆しが見えた僕は社会復帰しなきゃいけないという使命感に駆り立てられていた。体調の方はまだ不安定だが、行動せずにはいられない。そんな僕は、ネットで調べて『うつ病の人に向いている仕事』を探し、面接を受けるようになっていた。このメールは、その面接の一つの結果通知だろう。


 メールアプリを開く。そして、通知のメールには次のような文章が書かれていた。




鈴村龍人すずむらりゅうと


 応募いただき、ありがとうございます。選考の結果ですが、厳正な審査の結果、誠に残念ながら、貴殿の採用を見送らせていただきます。今後のご健勝をお祈り申し上げます。』




「……またか」


 所謂いわゆる、『お祈りメール』だ。これで何通目か分からない。


 大体何だよコレ。『未経験歓迎』だとか『経験不問』だとか銘打っておいて、結局その人の『経験』を見るんだ。こんなの、うつ病持ってる人が不利になるのも当たり前じゃないか。


 僕は正直、嘘を吐けない性格だ。だからこそ、就職面接の場では投げかけられた質問に対して正直に答えてきたし、そうしないのは僕じゃないとも思っている。『どうして前の会社を辞めたのか』と訊かれれば、『うつ病になって辞めました』と答えるし、現在自分がリハビリ段階である事も正直に伝える。そうしなければ、受ける企業に対して誠実ではないと思っているからだ。また、うつ病をオープンにすることによって、今後会社に入った時に、会社から病気の理解を得られるというメリットもあると考えたのだ。


 しかしながら、現実はそう甘くない。うつ病を大っぴらにした就活をしているからか、中々企業からの採用通知を得られずにいた。


「正直者が馬鹿を見る、だな」


 無意識のうちにそんな事を呟いていた。


 僕のように社会復帰の道を歩もうとしても、こうしたことで阻まれてしまう人は大勢いる筈だ。そんな人たちが報われる世の中になって欲しいと、この時心から思った。


「……そろそろ行くか」


 と、止めていた足を動かし、再びウォーキングの道へと戻るのだった。

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