第10話 1年と言う月日

 3月。心療内科でうつ病と診断された日から、早いもので、およそ1年という歳月が経った。


 思えば色々な事があったな。


 初めての心療内科の受診、会社の長期休暇、吐き気や眩暈などの症状に襲われる日々、夜を裸足で駆け抜ける。そう言えば、その後何回か自殺を図ったこともあったっけ。あの時の僕は本当にどうかしていたのかもしれない。


 発声によるストレス発散をする日々、部長との面談、会社の自然退職、そしてウォーキングを始めて……この1年の間で、僕の身に起こった変化というものは小さなものではない。


 うつ病になってから1年の内に、分かった事がある。


 まず、うつ病になってから僕は、自分の今まで好きだった事が出来なくなっていった。好きなアニメを観たり、面白いテレビを観て笑ったり、友達と遊んで楽しんだりするという、そんな当たり前の幸せが享受できなくなっていたのだ。これは何よりも自分の気の持ちようという点が大きい。うつ病になった事で、ネガティブな感情が絶えず湧き上がり、純粋に物事を楽しむという行為が出来なくなってしまっていたのだと思う。


 次に、うつ病というのには「波」が存在する。例えば、今日は体調が良かったが翌日になれば体調が悪化して身動きが取れない、といったようなことが頻繁に起こるのだ。だからこそ、うつ病患者は安定した日々を送ることが出来ず、自らの体調の変化に影響を及ぼす可能性のあるもの、詰まるところ、他者の介入に怯えながらひっそりと生活をしているのである。


 そして、うつ病というのは、単なる精神的な病というものではない。精神的に摩耗し、心が擦り切れ切った時、人間は自分の心に蓋をする。誰も触れられないように自ら大きな殻に閉じこもるのだ。何故なら、傷ついたから。傷つくのが怖いから。そうやって心を閉ざしきった時、人は自分の心に呪いをかける。どうやったって僕は治らない、何をしたって僕は人と分かり合って行動することなんて出来ない、もうがんばれない……。というように、マイナスの方へと心が引っ張られるのだ。


 それから抜け出すにはどうすればいいのだろうか。僕はまだ、答えを出せていない。

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