深夜のオリンポスホール

ヘパ

第1話 深夜のオリンポスホール

 「ねぇねぇ、知ってる?」


また、うわさ話が好きなダイダロス先生が、新しい都市伝説を、しいれてきた。


「オリンポスホールでさ、出るんだってよ?」


俺は、そういう話、好きじゃないから、無視してた。それなのに。


「え、なにが?」って、いとこおじのプロメテウスが、ダイちゃんの話に、くいついた。やめて!って、俺は、思った。


「もー!プロちゃん!」って、ダイちゃんが、あきれて、笑ってる。


「出るって言ったら、決まってんじゃん!オバケだよ!」


「オバケ?」


「ほら!あそこ、昔、黒魔法つかった人がいるらしいじゃん?だから、磁場がゆがんでるらしいんだよね。音が出る場所だから、よけいに集まりやすい!」


「絶対、うそやって!また、ネット情報やろ……!」って、プロちゃんは、本気にしてない。


「もし、ほんまやったら、真っ先にオバケに遭遇そうぐうするの、アポロンちゃんやから!」


そのプロちゃんの一言で、たしかに!って、俺もダイちゃんも、笑った。



 ふたりと別れた後、俺は、まっすぐ家に帰らず、オリンポスホールへ向かった。


コンサートにむけて、猛練習中の弟のアポロンに、夜食を届けようと思って。


もう10時になるのに、アポロンちゃんは、まだピアノ弾いてる。


子犬のワルツの最後のところが、納得いかないみたいで、何回も練習してた。


そんなに、夢中にならなくても、じゅうぶん、上手なのに。


あいかわらず、アポロンちゃんの指、速すぎ。残像しか見えない……。


 全力集中のアポロンちゃんを邪魔したら、ふつうに、ぶちキレられるから、俺は舞台そでで、見守ってた。


しばらくして、アポロンちゃんが、俺に気づく。


「ヘパ?」って、こっちを見たから、「夜食、届けに来たよ!」って、俺は紙袋を見せた。



 中身は、海のレストランの裏メニュー、ドラゴンバーガー。


ものすっごく辛くて、一口食べた瞬間、ドラゴンみたいに火を吹いちゃう。


でも、これ、くせになっちゃう辛さなんだよね!


 休憩室に移動して、俺とアポロンちゃんは、からいー!って、火を吹きながら、ドラゴンバーガーを食べてた。

 


「こんな時間まで、怖くないの?深夜のオリンポスホール、オバケ出るって、きいたけど……。」


「は?ただのうわさじゃん、そんなの。今まで、見たことないし。ていうか、オバケが怖くて、音楽ができるか。」



 そんな話をしてた時、誰もいないはずのホールから、ピアノの音が、きこえてきた。


え!?って、ビビって、俺たちは、ホールに駆けこむ。


やっぱり、誰もいなかった。ピアノだけが、かってに鳴ってた。


怖すぎて、俺は、その場に、凍りついてた。


どうしよう!オバケいる!俺、霊感ないから、オバケ、ぜんぜん、見えないんだけど!


と、俺がパニくる一方、アポロンちゃんは。


「てめー!俺のピアノ、なにかってに弾いてんだよ!」って、怒鳴ってた。


次の瞬間、ステージに、セッティングされてたシンバルが、フリスビーみたいに、飛んできた!


わぁー!って、とっさに、俺もアポロンちゃんも、せる。


今度は、コントラバスが飛んできた。


どんどん、楽器を投げつけてくるオバケに、アポロンちゃんが、完全に、ぶちキレた!


アポロンちゃんの風魔法で、ホールは、もう、めっちゃくちゃ!


激しいバトルに巻き込まれて、俺は、死ぬかと思った。


竜巻に、のみ込まれないように、必死だった。椅子に、しがみついてるのが、やっとだった。


バーサーカー状態のアポロンちゃん、もう、俺の手におえないー!


なんとか、スマホをだして、俺は、ハデス伯父おじさんに電話した。


伯父おじさん、たすけてー!」


 話すのに夢中で、手が椅子から、はなれちゃった……。


ヘパイストス!と、腕をつかまれて、引き寄せられる。


空間転移魔法でワープして、ハデス伯父さんが、冥界から、かけつけてくれた。



 ホールを極寒ごっかんの風が、かけぬけた。なにもかもが、凍っていく……。


アポロンちゃんも、こごえて、正気しょうきに戻ってた。


ステージに、亡霊の氷像が、できあがってる。


「まったく。亡霊とバトルになる前に、俺を呼べって言ったろうが……。」


ホールに降臨こうりんした死神が、ため息をついている。


「クロウ!」って、アポロンちゃんが駆け寄った。


氷像と化した亡霊のひたいを、「これが、オバケ?」って、アポロンちゃんが、デコピンした。



 激しい攻防戦で、めちゃくちゃに散らかったホールを、俺は、時間の魔法をつかって、もとの状態に戻した。


 ハデス伯父さんは、俺とアポロンちゃんが無事なのを確かめて、ほっとしてる。


「ま、とりあえず。ケガせんで、よかった。亡霊と戦ったら、あかんぞ。ケガしたら、おまえら、ゼウスに、なんて言われるか……。」


わぁー!考えただけで、怖い!


「おねがい!おじさん、秘密にして!危ないことしたって、父さんに、バレたら、絶対、カミナリが落ちる……!」


もののたとえじゃない。ほんまに、カミナリが落ちるー!


だって、俺の父さんは、ほんまのカミナリ親父だから!


 「しゃーないな……わかった!」って、伯父さんは、約束してくれた。


 ハデス伯父さんとクロウは、つかまえた亡霊をつれて、冥界へ、帰っていった。



 オリンポスホールでの出来事は、父さんには、バレなかったけど……。


思いがけず、死にかけて。俺は、その夜、震えてた。


なにが怖かったって、オバケも怖かったけど。


ぶちキレ、バーサーカーのアポロンちゃんが、いちばん、怖かったよ。

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