第3話
時は、4月8日の朝7時頃であった。
場所は、壬生川漁港付近の地区にて…
港湾に、夜漁を終えた漁船が次々と入港していた。
漁港から20歩先に、2・5世帯の新築の家がある。
家には、梶谷温大(かじたにはると)・優子夫婦(60代後半同士)の家族が暮らしている。
家族は、温大(はると)優子夫婦・長男温彦(はるひこ・39歳・サラリーマン)と妻あつこ(50歳・専業主婦)とあつこの連れ子・龍磨(たつま・14歳・特別支援学校へ通っている)と温彦の妹玲(29歳・家事手伝い)ともうひとり8歳の女の子・あつみの7人である。
あつみは理由があって梶谷の家に預けられた子であるが、どこの家の子供なのか分からない…
家の広間に、家族6人が集まって朝ごはんを食べていた。
龍磨は、まだ寝ていたので食卓にいない。
温大は、愛媛新聞を読みながら大笑いしている。
「いやー、菅野カンプーで巨人が開幕から11連勝や…今年の巨人はチョーシええのぉ~…ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ…」
端で聞いていた優子は、つらそうな声で温大に言うた。
「あなた、巨人のことはどーでもいいから違う心配をしてよぅ~」
「なんぞぉ~、朝からつらそうな顔をするなよぅ~」
温大は、読みかけの愛媛新聞をひざの上に置いたあと、大きく息をした。
優子は、イラついた声で温大に言うた。
「あなた!!」
「なんぞぉ~」
「今朝の新聞をひらいてよぉ!!」
「新聞ひらけって…」
「いますぐひらいてよ!!」
温大は、ひざの上に載っている愛媛新聞を再び手にした。
そして、新聞をひらいた。
「ああ、巨人11連勝かぁ~」
「スポーツ面じゃないわよ!!」
「何面ぞぉ~」
「地方面をひらいてよ!!」
温大は、地方面をひらいた。
それをみて、優子が言うた。
「そこの右はしの記事を読んで!!」
「右はし?」
「ええ、そうよ!!」
「ああ、4月4日に大西の星ヶ浦海浜公園であったイベントの記事なのか?」
「そうよ!!」
温大は、優子が言うた記事を読んでみた。
記事は、ショッケン(日本食研)の製造工場会社の男性従業員さんたちと松山市内の大手企業のOLさんたち10組20人によるバーベキューお見合いのパーティーである。
記事を読んだ温大は、キョトンとした声で言うた。
「お見合いパーティーがどうかしたのか?」
(バーン!!)
優子は、平手打ちでテーブルを思い切り叩いたあと温大を怒鳴りつけた。
「あなた!!」
「なんぞぉ~」
「あなた!!女性の29歳と30歳は違うのよ!!」
「それが新聞記事とどういうカンケーがあるんぞぉ~」
「カンケーあるからいよんよ!!」
「だから、なにが言いたいんぞぉ~だいたい、女性の29歳と30歳は違うと言うのはどういうことなんぞぉ~」
「30歳過ぎたら、条件が悪くなるのよ!!」
「だから、条件が悪くなるとはどういうことぞぉ~」
「もういいわよ!!玲は嫁に出さずにうちにとどめるから…ムコさんとるのもやめるけん!!」
「どーでもせえ…」
ふてくされた温大は、新聞で顔を隠した。
白い目で温大をイカクした優子は、ひと呼吸ついてから温彦にやさしい声で言うた。
「きょうから新学年ね。」
「そうだけど…」
「あつみは小学校3年生ね…龍磨は中学3年ね…来年は、(特別支援学校の)高等部へ進学ね…」
優子が言うた言葉を聞いた温彦は、思い切りブチ切れた。
「やかましい!!だまれ!!」
優子は、泣きそうな声で温彦に言うた。
「なんでそんなに大声をあげるのよぉ~」
「そんなことしたら、卒業後は福祉施設しか行くところがないのだよ!!」
「だけど、龍磨はペースが遅いのよ…」
「やかましいだまれ!!龍磨は中等部を卒業したあとは一般の高等学校へ進学すると決めた!!龍磨を大学や専門学校へ行かせたいんだよ!!」
「だけどね…」
「オレとあつこが方針にいちゃもんつける気か!?」
「それじゃ、おかーさんはどうすればいいのよ!?」
「意見するなといよんじゃ!!」
優子を怒鳴りつけた温彦は、お茶わんに盛られているごはんをパクパクパクパクと食べた。
その時であった。
(ピンポーン…)
玄関の呼び鈴が鳴った。
この時、今治の特別支援学校の先生が龍磨を迎えに来た。
それを聞いたあつこがブチキレた。
ブチキレを起こしたあつこは、龍磨を起こすために2階へ上がった。
それから数分後に、龍磨はあつこに引きずられて食卓にやって来た。
あつみは、へんな目つきで龍磨を見くだした。
あつこは、寝ぼうした龍磨を怒鳴りつけた。
「龍磨!!早くしなさい!!」
「ネムイ…ネムイ…」
「龍磨!!」
あつこは、強烈な声で龍磨を怒鳴りつけた。
「きょうから中学3年になったのよ!!来年は高校受験があるのよ!!龍磨のドーキューセーたちは必死になって受験勉強をしよんよ!!それなのに龍磨はダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラ…(近所の家の子)ちゃんは、おじいちゃんとおばあちゃんに過剰に甘やかされたのでペースが遅い子になったのよ!!…(2軒となりの家の子)は、それが原因で三流以下の私立高校へコネ入学したけど、数日でやめた…それでダラクしたのよ!!」
優子は、つらそうな声であつこに言うた。
「あつこさん、あつこさん…」
「義母さま!!龍磨を甘やかさないで下さい!!」
「だけどね…」
「龍磨は、一般の学校へ行かないとダメになるのよ!!…(龍磨に向けて)座りなさい!!」
龍磨は、あつこに無理やり座らされた。
龍磨を座らせたあつこは、炊飯器のフタをあけてしゃもじでお茶わんにごはんをついだ。
玲は、冷蔵庫をあけて中から納豆を取り出そうとした。
しかし、納豆がなかった。
あつこは、冷蔵庫にいる玲を怒鳴りつけた。
「あんたなんしよんで!!納豆を持ってきてよ!!」
「えっ?納豆?」
「早く納豆を持ってきてよ!!」
玲は、ものすごくつらそうな声で言うた。
「納豆がありません。」
「納豆がないって…」
「卵出します。」
「卵はダメって言ったでしょ!!」
「どうしてダメなのですか?おたまさんも食べればおいしいのよ…」
あつこは、冷蔵庫にいる玲にドカドカと詰め寄った。
「はぐいたらしい義妹ね!!」
(ブチッ!!)
「いたーい!!」
あつこは、玲の髪の毛を思い切り引っぱってちぎった。
「よくもアタシにいちゃもんつけたわね!!」
「違います…アタシはおたまさんを作ろうとしたのよ…」
「ふざけんな!!」
(バシッ!!)
「いたーい!!」
あつこは、玲の顔を平手打ちで思い切り叩いた。
優子は、泣きそうな声であつこに言うた。
「あつこさんやめて!!なんで玲に暴力をふるうのよ!?」
「あんたらが過度にえこひいきしたから義妹を叩いた!!」
「だからと言うて叩くことないでしょ!!」
優子に怒鳴られたあつこは、怒りのホコサキを温大に向けた。
「なにするんだ!!やめてくれ!!」
あつこは、手当たり次第にあるものを温大に投げつけた。
「ふざけんな!!」
「やめてくれ…やめてくれ…」
「はぐいたらしいシュウトね!!やっつけてやる!!」
あつこは、厚みがある本で温大をシツヨウに殴り付けた。
優子と玲は、その場に座り込んでグスングスンと泣いていた。
その間に、温彦があつみを連れて食卓から離れた。
龍磨は『ネムイネムイ…』と言うてばかりいた。
玄関にいる特別支援学校の先生は、玄関のドアを激しく叩きながら呼び鈴を鳴らしまくった。
時は、朝9時半頃であった。
ところ変わって、今治市矢田にある大学にて…
穂香は、大学にやって来た。
がんばって大学へ行かなきゃと思って構内へ入ろうとしたが、足が凍りついて動けなくなった。
結局、この日も途中で引き返した。
穂香は、この日を最後に大学から足が遠のいた。
その日の夜7時頃であった。
ところ変わって、ギンゾウ夫婦の家の広間にて…
食卓には、菜水が作った晩ごはんが並んでいた。
食卓には、ギンゾウ夫婦と菜水がいた。
太郎は残業、麗斗は職場の人たちと飲み会に参加していたので食卓にいなかった。
ともえは、あつかましい声でギンゾウに言うた。
「あなた!!」
「なんぞぉ~」
「今朝の愛媛新聞の記事でうちは怒っているのよ!!」
「今朝の愛媛新聞の記事で怒っているって?」
「あなた!!」
「なんぞぉ~」
「読みなさい!!」
(バサッ!!)
ともえは、ギンゾウに四つ折りの愛媛新聞を投げつけながら怒鳴り散らした。
ともえに攻撃されたギンゾウは、つらそうな表情で新聞をひらいた。
「えーと、ころな(ウイルス)新規感染者、県内1人、東京都はサンケタ台…」
「違うわよ!!」
(パラパラ…)
「それじゃ、FC今治3連勝?」
「スポーツ面じゃないわよ!!」
「それじゃ、巨人11連勝?」
「違うわよ!!」
「お前がいよる記事は、どこに書いとんで?」
「地方面よ!!」
「地方面って何面?」
「あなた!!」
ともえに怒鳴られたギンゾウは、いじけた声で『もうイヤや!!新聞読まん!!』と言うて新聞をくしゃくしゃにして壁に投げつけた。
ともえは、ギンゾウにより強い怒りを込めて言うた。
「あなた!!地方面に書いてあった記事は、4月4日のお見合いイベントのニュースなのよ!!」
「(いじけた声で)それがどうしたと言うんぞぉ~」
「お見合いイベントに参加していた人たちは、ショッケンの製造工場の男性従業員さんたちと銀行のOLさんよ!!」
「それがどうしたと言うんぞぉ~」
「あなた!!」
「なんぞぉ~」
「この間のお見合いイベントで、カップルが全員誕生したのよ!!」
「だから、なんじゃあ言いたいねん~」
「あんたそれでも父親なの?父親だったら、うちが言うた新聞記事を麗斗にたたきつけて怒鳴りなさい!!」
「だから、麗斗になん言うて怒鳴るんぞぉ~」
「あなた!!麗斗はもうすぐ40になるのよ!!40過ぎの男の結婚はむずかしくなるのよ!!」
「それがどうしたと言うんぞぉ~」
「だから、あせれと怒鳴るのよ!!」
「しかしだな…」
「あなた!!この間のイベントに参加していたお向かいの家の息子さんは、39歳までに結婚相手を見つけることができたのよ!!」
「だからどーせー言うんぞぉ~」
「麗斗に結婚相手を作れと怒鳴るのよ!!」
「もうええ!!ワシはしんどいねん!!ごはん食べて寝たい時にくだらん話をするな!!」
逆ギレを起こしたギンゾウは、強烈な叫び声をあげた。
んまぁ~なんなのかしら一体…
ギンゾウに怒鳴られたともえは、したくちびるをかみながらワナワナと震えていた。
そこへ、穂香がつらそうな表情で帰宅した。
ギンゾウ夫婦は、ものすごくきしょく悪い声で穂香に言うた。
「穂香ちゃん、お帰り…今、帰ったのね。」
「こっちへ来て、一緒に晩ごはん食べよや。」
ギンゾウ夫婦にきしょく悪い声で言われた穂香は、ものすごくつらい表情を浮かべた。
キッチンにいた菜水が、ものすごくきしょく悪い声で穂香に言うた。
「穂香ちゃんお帰り…きょうはね、穂香ちゃんの大好物の親子丼よ。」
ものすごくつらい表情を浮かべている穂香は、ギンゾウ夫婦に言うた。
「あ、あの~」
ギンゾウは、ものすごくきしょく悪い声で穂香に言うた。
「どうしたのかな?」
穂香は、ますます言いにくい声でギンゾウ夫婦に言うた。
「ちょっと…言いにくい話だけどぉ~」
ともえは、ものすごくきしょく悪い声で穂香に言うた。
「穂香ちゃんは4回生になったのね。」
「えっ?」
「来年は、卒業ねぇ~」
「えっ?」
「おじさんとおばさんは、穂香ちゃんの晴れ姿をみるのを楽しみにしているのよ。」
ギンゾウ夫婦にきしょく悪い声で言われた穂香は、グスングスンと泣き出した。
「グスングスングスングスングスン…」
穂香は、グスングスンと泣き出した。
ギンゾウ夫婦は、穂香にセクハラまがいの声で言うた。
「ああ~どうしたのかな~なんで泣いているのかなァ~」
「グスングスングスングスン…」
「穂香ちゃん…穂香ちゃんどうしたの?」
「グスングスン…アタシ、休学する…」
「(セクハラまがいの声で)どうして休学するのかなぁ~」
「グスングスン…」
「(セクハラまがいの声で)泣いていたら分からないわよ…おばさんに言うてよ。」
「グスングスングスン…」
「(セクハラまがいの声で)どうしたのかな?大学でイヤなことでもあったのかなァ~おじさんに言うてごらん…」
グスングスンと泣いている穂香は、ギンゾウ夫婦にうまく理由を説明することができなかった。
ギンゾウ夫婦は、セクハラまがいの声で穂香に言うた。
「穂香ちゃん、今年1年がんばったら卒業できるよ。」
「そうよ、穂香ちゃんは初等部から16年間1日も休まずにがんばって出席したよね…おじさんとおばさんは穂香ちゃんが元気な顔で大学へ行ってる姿を見ることが楽しみなのよ…」
おじさんとおばさんはそのように言うけど…
それでは、ダメになってしまう…
穂香は、ギンゾウ夫婦にそう伝えようとした。
しかし、うまく伝えることができなかった。
ギンゾウは、グスングスンと泣きじゃくっている穂香になれなれしく背中をさすりながら言うた。
「もしかして、卒業後に就職できる会社があるのかと思って心配になっていたのかなぁ~」
「グスングスングスン…」
「よしよし、よしよし…」
ギンゾウは、グスングスンと泣きじゃくっている穂香が着ているラベンダー色のプリーツスカートの上からヒップをなで回しながら過度に優しい声で言うた。
「心配せんでもええ…穂香ちゃんの就職先はワシが知ってる人に頼んどくけん…」
ともえは、セクハラまがいの声で穂香に言うた。
「大丈夫よ…大学を卒業したら穂香の人生はぐっと有利になるのよ…穂香ちゃんはどんな仕事もできるから大丈夫よ。」
「よしよし…もう泣いたけん楽になったよね。」
「晩ごはんを食べましょう。」
ギンゾウ夫婦は、ものすごくやらしい表情で穂香を見つめながら言うた。
このあと、菜水が両手鍋を持って広間に入った。
菜水は、ものすごくきしょく悪い声で穂香に言うた。
「穂香ちゃんお待たせ…今から親子丼作るね…穂香ちゃんがよくがんばっているから、いつもより多く卵を入れるわね。」
菜水は、穂香とギンゾウ夫婦が食べる分を作り始めた。
表面では笑みを浮かべている穂香の内心は、ものすごくつらい気持ちにさいなまされていた。
おじさんとおばさんのお気持ちはよくわかるけど…
アタシの人生は、アタシのものなのよ…
このまま、ここに居つづけたら…
アタシは、自立できなくなる…
ここから早く逃げ出さないと…
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