第4話

時は、4月9日夕方6時55分頃であった。


場所は、温大夫婦の家の広間にて…


広間に、温大優子夫婦と玲とあつこと龍磨とあつみの6人がいた。


温彦は、まだ帰宅していなかった。


広間のテレビの画面に、NHKのニュース番組が映っていた。


温大は、やさしい声で龍磨とあつみに言うた。


「もうすぐ、(アニメ番組)が始まるね。」


温大がリモコンを手にして、指定のチャンネルに替えようとした時であった。


あつこがテレビの主電源をぶち切った。


温大は、あつこに対して『なんてことするのだ!?』と怒鳴りつけた。


それが原因で大ゲンカになった。


「あつこさん!!なんでテレビを切るのだ!?龍磨とあつこから楽しみを取り上げる気か!?」

「義父さま!!龍磨とあつみを甘やかさないでください!!龍磨は公立高校入試、あつみはアイコー(進学校)入試の勉強をするのよ!!楽しみなんてうーーーーんとあとです!!」

「勝手に子供の人生を決めるなんてあんまりだ!!取り消せ!!」

「いいえ、取り消しません!!」


7時1分前になった時、龍磨がつらそうな声で『テレビ…テレビ…』と言うて、テレビをつけてと言うた。


優子は、龍磨がテレビをつけてほしいと言うたので主電源を入れようとした。


それをみたあつこが、右足で優子をけとばした。


(ドカッ!!)


「義母さま!!龍磨とあつみを甘やかさないでください!!」


温大は、あつこを怒鳴りつけた。


「オドレはふざけとんか!?梶谷の家の嫁のくせにナマイキだ!!」

「ナマイキで悪かったわね!!義父さまがどんなに意見しようとも、龍磨とあつみを教育する権利はアタシにあるのよ!!」

「ふざけんな!!」


(ドカッ!!)


温大は、あつこを右足でけとばして倒した。


「オドレはナマイキだ!!ワーッ!!」

「いたい!!いたい!!いたい!!」


温大に身体を押さえ付けられたあつこは、平手打ちで顔を激しく叩かれた。


「なにすんのよやめて!!」

「やっつけてやる!!よくも私の大事な家族に暴力をふるったな!!ワーッ!!ワーッ!!」

「やめてーーーー!!イヤアアアアアアアアアア!!」


温大は、ワケの分からない言葉を言いながら平手打ちであつこの顔を激しく叩いた。


端にいた龍磨は、叫び声をあげながら暴れ回った。


優子と玲は、その場に座り込んで震えていた。


あつみは、冷めた目つきで周りを見つめていた。


それから20分後に近所の人たちがやって来て暴れ回っている龍磨を止めに入った。


しかし、龍磨は止めに入った近所の人たちを殴りつけた。


家の中は、きわめて危険な状態におちいった。


4月10日の昼過ぎのことであった。


場所は、丹原町願蓮寺(がんれんじ)にあるJAの産直市場にて…


産直市場の事務所のデスクに、スーツ姿の太郎がいた。


この日、職員数人が連絡を取らずに勝手に休んでいた。


太郎は、ずる休みした職員たちに代わって経理処理をしていた。


『しんどい。』

『イヤや。』

『カレからデートに誘われたけん、休む。』

『土日休みじゃないとイヤなの…』


ふざけとんか…


JAの仕事をなんじゃあおもとんぞ…


思い切りイラついている太郎のもとに、年輩の男性職員(菜水の父親の知人)がやって来た。


男性職員は、もうしわけない声で太郎に言うた。


「あのぉ~、菅野くん…」

「なんぞぉ~」

「あの~、そのぉ~…」


男性職員がものすごくつらそうな声で『あの~…』と言うたので、太郎がブチ切れた。


「はぐいたらしいのお!!しゃんこらもの言えよ!!」

「(泣きそうな声で言う)怒んないでくれよぅ~」


太郎は、男性職員にきりすてる言葉をぶつけた。


「要は、菜水の父親が『遊びに行ってもいい?』と言うたから返事せえと言うことだろ…アカンと言うといて…」


太郎からきりすてる言葉を言われた男性職員は、ものすごくあつかましい声で言うた。


「どうしてひどいことを言うのかなぁ~」

「それは菜水の父親がしつこいからだろ!!」

「菜水さんのおとーさまは、菅野の家を頼っているのだよ…」

「それがいかんといよんじゃ!!」

「菜水さんのおとーさまは、他に頼る人がいないんだよ…」

「それは、菜水の父親の交友関係が悪いからでしょ…菜水のきょうだいたち(男ばかり)に見離された原因が分かっていない…母親が冷たくなった原因が分かっていない…ヤクザの事務所に出入りを繰り返すけん、家族や親類たちから冷たくされたんだよ!!ふざけんなよボケ!!」


男性職員は、太郎にものすごくあつかましい声で言い返した。


「だから、菜水さんのおとーさまは娘さんしか頼る人がいないんだよ!!菜水さんのおとーさまは困っているのだよ!!『居場所がない、居場所がない…みたいテレビがみられない、ごはんがおいしくない、ムスコたちが勝手なことばかりしよる…』…家に居場所がないから『遊びに行きたい』と…」


(バシャッ!!)


男性職員からあつかましく言われた太郎は、のみかけの緑茶を顔にかけた。


お茶をかけられた男性職員は太郎に『なんてことをするのだ!!』と怒鳴りつけた。


太郎は、口笛をふきながら仕事をつづけた。


太郎から口笛でいじられた男性職員は、握りこぶしを作ってワナワナと震えた。


この時、事務所にいる数人の女子職員がクスクスと嗤い(わらい)ながら男性職員をいじり倒した。


時は、夜10時55分頃であった。


場所は、ギンゾウ夫婦の家の広間にて…


広間には、太郎と菜水がいた。


この時、ギンゾウ夫婦と麗斗は外へ出ていたので家にいなかった。


穂香も家にいなかった。


太郎は、菜水の父親から『遊びに行ってもいい?』としつこく言われたことに腹を立てていた。


(ガーン!!)


「いたーい!!」


太郎が投げたアルミの氷入れが、菜水のあしもとに当たった。


「オドレは菅野の家をグロウしとんか!?」

「なんでアタシに物をぶつけるのよ!?」

「オドレの父親が『今度の休みに遊びに行ってもいい?』としつこくオレに言うたけんぶつけた!!」


菜水を怒鳴りつけた太郎は、タンブラーに入っているウイスキーをストレートでイッキのみした。


菜水は、太郎に怒鳴り返した。


「だからと言って、アタシに八つ当たりすることないじゃない!!おとーさんは、アタシに会いたいからあなたに頼んでいるのよ!!」


(ゴツン!!)


「痛い!!」


太郎が投げたタンブラーが菜水のひたいを直撃した。


太郎は、サントリーオールドのボトルを手にしたあと、ストレートで一気飲みした。


ぶつけられた菜水は、太郎にブチ切れた。


「あなた!!いいかげんにしてよ!!ストレートでウイスキーをのまないでよ!!」


(ガシャーン!!)


ウイスキーをストレートでイッキのみした太郎は、テーブルの角でボトルをたたき割った。


「イヤー!!」


(バシッ!!)


太郎は、菜水の顔を平手打ちで思い切り叩いた。


「オドレの父親がオレに『遊びに行ってもいい?』としつこく言うから叩かれたんだろ!!ふざけんな!!ワーッ!!」

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!やめてー!!」


(ドサッ…)


太郎に倒された菜水は、身体を押さえつけられた。


「離して離して離して離して…離して!!」

「オドレの父親がオレのテンビキ貯金をドロボウしたけん、テッケンセイサイだ!!」

「あなたやめてー!!イヤアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


(ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ…)


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!やめてー!!」


菜水が着ていたラベンダー色のカーディガンと白のブラウスが、太郎が持っていた刃渡りのするどいナイフで切り裂かれた。


「オドレの父親はドロボウだ!!オドレの父親はヤクザだ!!オドレの父親はまじめなサラリーマンなんかじゃない!!」

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!痛い!!」


(バシッ!!バシッ!!)


泣き叫んでいる菜水は、太郎からより強烈な平手打ちで顔を叩かれた。


その中で穂香が帰宅した。


目の前で太郎から暴行を受けている菜水を見た穂香は、逃げ出すことができずに震えていた。


ギンゾウ夫婦からデキアイされて育ったことが原因で、太郎と麗斗をないがしろにした。


小学校から大学まで、エスカレーター式のラクチン学園生活…


なにもかもラクチンラクチンを通した穂香は、知らないうちにナマケモノになった。


あやまらなきゃ…


太郎さんと麗斗さんにあやまらなきゃ…


しかし、うまく伝えることができない…


ひと言『ごめんなさい』と言わなければ…


穂香は、太郎に対して『ごめんなさい』とあやまろうとした。


しかし、できなかった。


全身が凍りついて動けなくなった穂香は、このあと太郎から受けた暴行で身体がボロボロに傷ついた。


日付が変わって、4月11日の深夜1時過ぎのことであった。


ところ変わって、周布(しゅう)にあるヨウケイ場の敷地にて…


暗やみの中で、ヤクザの男10人と気が弱い男のもめ事が発生した。


気が弱い男は、菜水の父親であった。


菜水の父親は、ヤクザの男たちからカネを返せとサイソクされた。


「オドレクソじじい!!いつになったらカネ返すのだ!?」

「すみません…もう数日待ってください…この通りお願いです…」


菜水の父親は、土下座して頭を下げながら男たちに待ってほしいとコンガンした。


しかし、男たちは『アカン!!カネ返せ!!』と要求した。


菜水の父親は、必死になって男たちにコンガンした。


「はぐいたらしいクソじじいやな!!」

「いてまわしたろか!?」


ヤクザの男たちは、集団で菜水の父親に暴行を加えた。


それから20分後に、菜水の父親がヤクザの男たちに殺された。


時は、朝6時過ぎであった。


場所は、崩口川にかかる花渕橋付近の通りにて…


この時、キンリンの住民3人が朝の散歩をしていた。


その時であった。


上の方から真っ赤な血が流れていたのを住民3人が目撃した。


なんで…


なんで、上の方から血が流れてきたのかしら…


そう思った住民3人は、このあと恐ろしい物を目の当たりにした。


住民3人がいた場所から上へ50歩先に、えんじ色のシートで包まれている物体が川底に沈んでいた。


シートに大容量の血液が付着していた。


「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


住民3人は、強烈な悲鳴をあげた。


それから60分後であった。


事件現場に、愛媛県警のパトカー20台が到着した。


到着したパトカーから80人の刑事たちと鑑識警察官たちが降りた。


その後、すぐに物体の引き上げ作業が始まった。


100分後に、物体が川から引き上げられた。


鑑識警察官たちは、シートを外して開いた。


シートの中から、ゾンビと化した男性の遺体が現れた。


男性の遺体は、菜水の父親であった。


遺体は、警察署の霊安室に安置された。


警察官は、菜水の実家に電話して菜水の父親が殺されたことを伝えた。


しかし、実家の家族たちや親類たちは『うちらはそんなクソじじいなんかしりまへん!!』と言うて拒否した。


菜水は、ギンゾウ夫婦と太郎から『会いに行くな!!』と言われたので面会に行けなかった。


菜水の父親は、家族たちや親類たちに見離された状態で人生を終えた。

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