第5話 仲良し不仲
カランコロンとドアベルが鳴る。どうやら帰ってきたようだ。
「お待たせ~。待った?」
「めっちゃ待った」
「遅いですよ」
「気遣いの欠片もないね、君たち」
マリリンさんにする気遣いなどない。
それにしても、ヤクチュウさんがいない。八宝菜さんはいなくていい。
「薬屋はね、ギャングと繋がりがあるとこに片っ端から潜入中~」
「それ大丈夫なんですか?」
「どういう意味で?」
「いえ、何かやらかさないかな、と」
「こーはいちゃんは薬屋のこと何だと思ってるの???」
「結構重要なところでドジる人」
「否めない」
もしくはマリリンさん過激派。
「メンバーは私とそふかちゃんとこーはいちゃんか……」
「大好きな薬屋じゃなくて悪かったな」
「私は皆大好きだよ♡」
「野菜みたいなこと言ってる」
「ヤクチュウさん以外に抱く愛情なんてあったんですね」
「酷くない??? ……あと薬屋のことは八宝菜に頼んでるからね」
「愛が重いんだよなぁ」
最高戦力つけるのに躊躇いがない。……いや待て? 八宝菜さんは売られてるんだから手出しできないはずじゃ?
「八宝菜は使役術師だから、使役してる魔物の三分の二を貸してもらってるんだよ」
私の表情を察してか、マリリンさんが答える。
「……あいつ、この前千匹以上は仲間にしたって言ってた気がするんだよなぁ」
ぽそっと言ったそふかさんの言葉に凍り付いた。千??? one thousand??? 私まだ召喚獣五匹(クラーケンとこれから貰うの合わせても七匹)しかおらんが???
「……使役獣って召喚陣ドロップしたか……?」
「やめてやれ」
「いいじゃないですか、どうせ愛情なんて持ってないでしょう?」
「偏見が酷いね。言っとくけど、今回の彼女は大切にしているよ。本当の生き物と遜色ないほどにね」
他の生き物を大切にする八宝菜さんとか想像できないんだが。
「とりあえず、オークション会場に行こうか。八宝菜が待ってる」
「待ってる(売られてる)」
「待ってる(購入待ち)」
「君たち仲良いよね」
「「気持ち悪」」
「草」
カランコロンと再びドアベルが鳴る。
マリリンさんが先導し、私たちはその後をついていく。領内の端——荒廃したスラムの地下に会場は存在するらしい。移動に関しては忍ぶ必要もないので、そふかさんは羽を広げ、空を飛び、私とマリリンさんはミゼーアに乗って跳んだ。
黙って進むのも味気ないので、雑に話題を振る。
「で、何でモノクルなんてつけてるんです?」
先程からマリリンさんは右目に金のモノクルをかけていた。前はつけていなかったはずだが。
「ほら! 何か胡散臭い商人感があるでしょ?」
「なぜ自ら胡散臭さを出していくんですか」
「いや、“胡散臭いし信用できない! けど持ち込む商品は確かだ!”みたいなキャラを目指して」
「それで最後の最後、重要な場面で裏切るんだろ? 俺知ってる」
「それで騙し取った金で黄金風呂作って、それに浸かりながら高笑いするんですね。分かります」
「君たちの私の印象どうなってるの???」
「「金のためなら何でもやるタイプの下衆」」
「わお、ハモった」
こんなん文芸部の共通認識だろ。
「……俺の予想は“薬屋とお揃い”だったんだが」
ぼそりとそふかさんが言う。そんなマリリンさんがトリッキーなメンヘラみたいな……あり得る。
「まぁ茶番はこれくらいにして……ほら着いたよ」
ここが、会場か。
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