第6話 四匹目

 物語歌詞も佳境。砂には血が混じり、フェンリルは息も絶え絶えといったところだ。そろそろ終わり。それを惜しんでしまう辺り、私も大分あの曲にハマっているらしい。


「“絶望なんて知るか! ボケが! 希望持って駆ける! そうさ!”

 “僕をすごいって言うなら! 僕が認める君はすごいのさ!”」


 番長さんがフェンリルの足を掴み、地面に叩きつける。フェンリルは一度ビクリと痙攣した後、動かなくなった。


「“どうせ後ろ向きならさ、ちゃんとついて来るかの確認さ”」


 最後まで歌い切り、いつの間にか落ちていた召喚陣を拾う。いやナチュラルにレアドロップすな。そして当然のように受け入れるな。ほんと、番長さんといると確率バグる。


「それにしても珍しいですね。番長さんがそんな希望に満ち溢れたキラキラソング歌うなんて」

「八宝菜なら“本能が拒絶する”って言いだしそう」

「私のこと何だと思ってるんだ。それにこれ、八宝菜からおすすめされたやつだからな???」

「嘘だね」「嘘ですね」

「信用無さすぎて草」


 あの部長に信用なんてあるわけないだろ。何を言ってるんだこの人は。


 召喚陣を受け取りつつ、フェンリルの肉をグールとゾンビに食べさせる。毛皮は探検家ギルドに所属している番長さんとバロさんが持ってくらしいが、肉はどうやっても腐るので仕方ない。


「今更ですが、お題が“魔物”なら戦闘中のフェンリルの様子を描いても問題ないのでは???」

「戦闘中の描写とか一々覚えてられるわけないじゃん。記憶飛ぶわ」

「ハハッ」

「人生で初めて鼻で笑われたかもしれない」

「ほんとに?」

「流石に盛った」


 さて、今回の召喚陣。フェンリルの名前はもう決めてある。シュブ=ニグラスみたいにめんどくさいことになりませんように。


「召喚:フェンリル」


 魔術陣が砂漠に、オアシスに広がる。力強く眩い光が、太陽の光に対抗するように輝く。


「役に立て、“ミゼーア”」


 ——ウォォオオオオオオン!!!


 狼は天へ吠えた。

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