第5話 デザートコンサート!

 フェンリル戦の前に、道中見せて貰った二人のステータスを紹介しよう。


プレイヤーネーム:番長

種族:僵尸キョンシー

一次職業:武闘家

二次職業:画家


プレイヤーネーム:バッグ・クロージャー

種族:風精シルフィード

一次職業:風魔法士

二次職業:画家


 前衛と後衛できっぱりと分かれている。二人とも画家を取ってる理由は、絵を描くだけでレベルが上がるからとのこと。


 番長さんの取っている武闘家はかなり珍しいジョブだ。理由は簡単。このジョブを取るだけで、魔法が一切使えなくなる。


 え? 雑魚じゃないかって? まぁ、ファンタジー思考の人間には耐え難いかもしれないが、武闘家は魔法とは別に気力HPを使って超常現象を起こすことができる。要は気合。何でも、テンションが上がれば上がる程、不可思議な事象を起こせるし、高い威力の攻撃ができるらしい。


 そして重ねて珍しいことにバロさんは<風魔法>の中でも<音魔法>を取っている。


 もっと言えば、番長さんは歌を歌うのが好きで、得意だ。後は分かるな?


「<再生リプレイ>」


 前奏が流れ出す。からりとした砂漠に快活な音楽が響き渡る。


「今一番私たちがハマってる曲! “のぞみ”!」

「待ってましたー!!! <拡声メガホン>」


 観客は黒猫に精霊、スライム、ゴブリン、悪魔、ゾンビ、グール、狼。人間なんて一人もいない。


「“どうしようもないな、無理だ。これ以上は何もできないや、無駄だ。そう言った君の声が、嫌に響いたんだ。”」


 フェンリルの爪を、牙を避ける。


 シュブ=ニグラスが鉤爪で斬りつけるが、ガチリと鍔迫り合いのような音が鳴るのみだ。


「“どうせ何も変わらない、なんて。君は諦めたままだ、多分。どうせ諦めたくないくせに、君は卑下して自虐して。”」


 フェンリルが吹いた火を、ショゴスの<水魔法>が消す。


「“大人な君は、子供だから。分かんないことがあるみたい。子供な僕は、大人だから。君の分からないことが分かるんだ!”」


 ショゴスの魔法攻撃が煩わしいとばかりに、狼は天へ咆哮する。音楽が搔き消えそうになる。だが、


「<消音ミュート>!!!」


 観客ファンが、歌手の大親友が、それを許さない。


 耳をつんざく叫びが、無音になる。出来た隙に、ゾンビやグールが取り押さえるように群がる。


 観客が声を上げていいのは、歌手への愛を叫ぶときのみだ。


「“価値なんて面倒なもんにこだわって、それ楽しい!? んなわけないでしょ!”」


 立ちはだかる狼に、燦々さんさんと照り付ける太陽に、青く澄んだ空に、朗々と歌い上げる。


「“楽しいことだけで、生きよう! 悲しみなんてクソ食らえだ!”

 “君はそんなにすごいのに! 君が認めなくてどうするのさ!”!!!」


 高揚した気分のまま、番長さんはフェンリルを殴る。巨体が吹っ飛び、転がっていく。さらさらとした砂漠の砂では、地を踏みしめることも難しい。


 フェンリルが番長さんを睨みつける。真っ先に排除すべき敵を認識したようだ。


「悪いが、歌を止めさせる気はない」


 私も、この曲は好きなんだ。

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