第2話 召喚陣探しの旅 ~後輩と愉快な先輩たち~

 それにしても絵描きのイベント……か。絵描きと態々言ったからには多分あの先輩もいるのだろう。


 夕楽先輩の親友である七星先輩。夕楽先輩は人物画が得意だが、七星先輩は風景画を得意とする。ちなみに絵について詳しくない勢としてはどっちも両方上手い。あと双葉先輩はどんな絵も上手い。ほんと何でもできるな、あの人。


「バロさん」

「なにー?」

「いつも隣にいる親友さんはどうしたんですか」


 周りに人がいない(悪魔はいるが)とはいえ、流石に本名を出すわけにはいかないので、ふわっとぼかした。これで伝わるだろ。


「番長のこと?」

「そのプレイヤーネームはどういう由来で???」

「中学時代のあだ名」

「あんたらの中学、中々に愉快ですね」

「……そうでもないよ」


 いやそうだろ。あの(見た目は)ふわふわ系金髪美少女に“番長”なんてあだ名つけるか? 普通。何か母親が外人らしい。


「で、その番長さんはどこ行ってるんです?」

「番長は画材の買い出し中~」

「へぇ」

「一気に興味失うじゃん」


 案外普通の回答だったもんで。


「……バロさんって、描くの早いですね」

「そう? まぁこれ下書きだし」


 バロさんの手元を覗き込むと、もう既に完成と言っても問題ないレベルの絵が仕上がっていた。陰影も細かく描かれており、鉛筆でさらさらと何の迷いもなく描き込んでいたので、消し跡もない。


「団体戦は会場で一発描きしないといけないんだけど、個人戦はあらかじめ描いたものを提出するだけでいいんだよね」

「そういう違いですか」

「他にも違いとしてそれぞれにお題があってね。個人戦の方は『魔物』、団体戦は『戦闘』なんだよ」

「あぁ、だからシュブ=ニグラスを描きたかったわけですね」

「そういうこと。まぁ『FMB』の“魔物”の区分ってガバガバというか、ある意味複雑なんだけど……」


 ? 何だ、煮え切らないな。


「例えばね? 北の神皇国だと獣人とか……まぁ人間以外は全部魔物って括りにされてるし、後知性を得た魔物を亜種って呼んだり、人型の魔物を魔人とか亜人って呼んだり、何か地域ごとに差があるんだよ。それに……あ、来た」


 来た?


 後ろを振り返ると、男……女? 分からんが、性別不明のやつが音もなく背後に立っていた。


 とりあえず殴りかかった。受け止められた。


「え??? 殺意バリ高いじゃん。俺なんかした???」

「殺意と自己肯定感は高ければ高いほど良いって部長が言ってました」

「凄まじい英才教育がなされてる……!?」

「ロクな教育しないじゃん」


 逆にあのキチガイが真面に教育すると思うか? 幼気な少年少女にグロ画像見せそう。


「てか、何言いかけてたんですか」

「ん? あ、さっきの続きね。番長は僵尸キョンシーでアンデッド扱いだけど、王国じゃ普通に探検家登録できたよ」


 じゃあショゴスも探検家登録できる可能性が微レ存……!?


「多分王国は人型ならなんでもいいんじゃない?」


 ショゴスは無理だった。人になるにはまだ体積が足りない。


「話の流れが全く分からん俺。これが……疎外感……?」

「YES、ハブ」

「“““現実”””を突きつけるな、びっくりしちゃうだろ」

「“びっくりしちゃう”って可愛いかよ」

「俺は可愛い」

「客観視◎」

「何だここ、自信しかないやつの展覧会か???」


 事実、七星先輩は可愛い系というかゆるふわ系なので間違っちゃいない。


「私も顔立ちは整ってる方だと思うのですがね」

「自信◎」

「殺意と自己肯定感は高ければ高いほど良いって部長が言ってました」

「再放送かな???」

「なお、本人」

「殺意は高いですけど、自己肯定感クッソ低いですよね」

「それはまぁ、いつも隣に完璧超人がいるから……」

「あれは仕方ない」


 特に今日は用もないので問題ないが、完全に雑談モードに移行してるな。


「そういや、番長さんは絵描きの大会とやらに出場しないんですか?」

「団体戦は出るよー」

「個人では出ないんですね」

「あー、個人戦はいっかなって。生き物系、私得意じゃないし」

「バロさんに比べて?」

「バロさんて何??? バッグ・クロージャーのこと言ってる??? いいなそれ、俺も使う」

「お気に召したようで何よりです。それで?」

「あぁ、まぁうん、バロさんには勝てんよ。風景画なら勝つけど」

「自負◎」

「番長さんって絵柄コロコロ変わりますよね」

「ヴァッ!」

「こーはい……!? 絵描きに向かってなんて酷いことを……!」


 草。


「自信満々な様子を見ると自尊心叩き折りたくなるんですよ」

「もしかして外道の方でいらっしゃる???」

「おいおいどうしてくれんだ、俺のガラスのハートが粉々になっただろ」

「脆すぎでは?」

「姉ちゃん、この落とし前はきっちりつけてもらうぜぇ……?」

「話のテンポがエロ本の導入並み」


 結局この人ら、私に何させたいんだ。さっきからちらちら反応伺ってんのは分かってるんだぞ。


「頼みがあんだけどさ」

「はい」

「バロさんが描く用の魔物の召喚陣、出しに行かね?」

「番長がいるし、目当ての出ると思うんだよね」


 こっっっれだから運がいいやつは!!!


「よろしくお願いします」

「わーい」

「交渉成立」

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