ネタに飢えた画家二人

第1話 下僕の悪魔と精霊の先輩

 つれごさんからの報酬で手に入れたバフォメットことシュブ=ニグラスだが、ステータスはこんな感じだった。


名前:シュブ=ニグラス

種族:バフォメット

スキル:<闇魔法>、<読心術>、<誘惑>、<憑依>


 おーけー、ツッコミどころは一つだな? 何でスキル四つあるん???


 <闇魔法>は普通だからセーフ。<読心術>はまぁ、読心術師って職業ジョブもあるしな、うん、まだ分かる。<誘惑>は人間を堕落させるとかで、<憑依>は悪魔憑き的なあれか? <憑依>って幽霊レイスの固有スキルじゃなかったっけ???


「悪魔は堕天した天使であり、悪霊ですから」

「思考を読むな、不愉快だ」

「以後、気を付けます」


 現在、シュブ=ニグラスのレベ上げ中である。ぶっちゃけ、要るか? とも思っている。だって、こいつ強キャラ感やばい。敬語悪魔で弱いやつとかいない(偏見)。


 北に位置する森林の魔物は強い。先程までレベル1だったやつが易々とクリアできる場所ではないはずだが。


 三メートルは優に超える鹿、熊。群れを成し、魔法による掃射攻撃を行う狐。それらが一斉に襲い掛かってくる。


「——我が主には一つの傷もつけません」


 それら全てを細切れにし、いつの間にか装備していた鉤爪の血を払った。


 安定感がやばい。私の語彙力もやばい。


「お前、もう好きに狩ってろ。私がいなくても問題ないだろ」

「そんな! 我が主の傍から離れるなど、私にとっては苦行でしかありません!」


 うっわ白々しい。


 私に敬語使っておきながら、ちょいちょい馬鹿にしてるというか見下してる感じがするというか……。私の嫌いなタイプだ。そのうち“人間の分際で”とか言い出しそう。でも有能だから許す。調子乗り出したら殺す。


 おっかしいなー、シュブ=ニグラスって比較的人間に優しめのはずなんだけどなー、名付けのチョイス間違ったか? 対シュブ=ニグラス用にショゴス育成もっと頑張る? などとこれもシュブ=ニグラスに筒抜けであろう思考をしていると、


 ——がさり。


 そこまで背の高くない草むらが音を立てる。魔物か、NPCか、プレイヤーか。


 あ、こいつ殺そうとしてんな。


「シュブ=ニグラス、殺すな」

「何故?」

プレイヤー渡り人だったらどうする。私はPK犯罪者になる気はない。だ。殺すな」

「…………承りました」


 めっちゃ渋々だな。何やねんこいつ。


「えっいや待って待って殺さないで! こっそり見てたのは謝るから!」


 ビュンと飛び出して来たのは手の平サイズの妖精……精霊か? 頭上にプレイヤーネームが浮かんでいるところを見るに、プレイヤーのようだ。


 プレイヤーネーム:バッグ・クロージャー


「さっきの話聞いてましたか? 殺さないっつってんですよ、先輩」

「へ? その声、はし——むぐ」

「——言ったら殺す」

うんんああいごめんなさい


 私に口を塞がれながら(体が小さいため鷲掴みにしながら、と言った方が正しい)謝罪するバッグ・クロージャー、もとい岩崎先輩。


 岩崎夕楽。田上先輩以上の低身長で貧乳、そして童顔である。良くて中学生、悪くて小学生に間違えられ、それを部長などの愉快犯組に揶揄われては殴りかかっている。

 アバターは手のひらサイズの妖精のようで、等身としては高身長巨乳美女である。等身としては。サイズは小さい。薄い黄緑色の髪と瞳に、民族衣装的な踊り子の恰好をしている。背中にはトンボの羽を神秘的にしたような感じの妖精の羽的な何かが生えていた。プレイヤーは妖精になれないはずだから精霊だとは思うんだが、妖精なのか精霊なのかはっきりしろ。


「で、どうしたんですか。ついにストーカーにでもなったんですか? クソですね」

「憶測で罵倒しないでくれる??? わたしは森林のスケッチしてただけだから!!!」


 一応解放してやると、バッグ・クロージャーさん……名前長いな。バロさんでいいや。バロさんは弁明を始めた。


「近々……とは言ってもゲーム内時間ではまだ結構あるんだけど、絵描きのイベントがあるんだよね。それの個人戦で提出する絵がまだ決まってなくてさぁ……。普段、王都から西を中心に活動してるんだけど、態々こんな遠くまで来たんだよ。こーはいに会ったのはたまたまだからね?」

「それバロさんが出ていいやつですか?」

「バロさんって何??? まぁうん、別に本職が出ちゃいけないってわけじゃないし、王国貴族のとある伯爵様が開催する感じで、運営イベントってわけでもないし……」


 本職、という言葉から分かる通り、岩崎先輩は個展を何度も開いている世界的に有名な画家である。何でも、両親が著名な芸術家らしい。詳しくは知らん。


「こそこそ私たちを見てた理由は?」

「それは純粋にそこの悪魔がかっこよかったからです描いていいですか」

「チッ」

「何故舌打ち???」

「…………………………別に構いませんよ」

「めっちゃ渋々じゃんありがとう」

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