第2話 残念美女は遅れてやってくる

 私とつれごさんが合流して、(ゲーム内の時間で)五時間が経った。


 まくらさんが来ねぇ!


「……これ、まだログインしてないってことですかね?」

「いや、まくらだったら迷子になってるとか、そもそも待ち合わせしてることを忘れてるとかあり得るよ」

「うわぁ……。確かにまくらさんならやりかねない」

「待ち合わせ時間決めておけば良かったね」

「同意です」


 ここで、まくらさん……いや、しまんさんに対する文芸部員の共通認識を紹介しよう。


 それは、“残念美女”である。


 もう何と言うか、外見だけで言えば完璧なのに中身で全てを台無しにしているというか。別に貶しているわけではないのだが、本当に残念美女と言うしかないのである。まぁ、文芸部はノリと勢いが全てなので、しまんさんが文芸部員である限り、全く問題ない。もっと言えば、中身で台無しというのはモテないだけであって、人柄という意味では普通にいい人である。言うと調子乗るから言わないけど。

 大体の文芸部員が中身で台無しにしてるところあるだろって? それはそう。

 だが、その中でも特に残念なのがしまんさんなのだ。外見がおっとり系の絶世の美女(巨乳)な分、その落差も酷い。


 ちなみに、しまんさんが残念たる理由は二つあるのだが、その二つともすでに紹介済みだ。一つは、今のように天然というか、抜けているところ。そして、もう一つが——


「ごめん遅れた! ほんっとうにごめんね、つれご! どうしよう、つれごを待たせるなんて重罪だよね、死ぬ? あ、<神罰>受ける?」

「別に待たされたのは気にしてないから、その短剣しまって」

「つれごが言うなら分かった!」


 天羽先輩を狂信しているところである。推しを目の前にするとオタクは狂うと言う(部長談、そのとき部長は副部長の方を見ていた)が、しまんさんはその中でも大分おかしい。


 いやぁ、久しぶりにこの暴走状態見たな。何故だか感慨深い。


「え、あ、はし……んんっ! こーはいさん、いたんだ」

「呼び捨てで構いませんよ」


 普通なら嫌味のような台詞セリフだが、まくらさんの場合はガチで周りが見えなくなってるので、「いたんだ」というのは純粋に驚きを含んでいる。懐かしい。初めて言われたときは思わず右ストレートを決めたなぁ(しみじみ)。天羽先輩は笑いをこらえてた。しまんさんは「笑いを堪えてる叶愛のえる可愛い!」と叫び、写真を撮るのに夢中だった。殴った側が言うのも何だが、それでいいのか。


 一息ついたところで、まくらさんのアバターを眺める。


 杏色の髪に錫色の瞳の高身長美女で、自身の身の丈より二回りも大きい大盾を背中に背負っていた。つれごさんに合わせたのか装飾は少なめで、質素な神官服が逆にエロい。いや、私の考えがよこしまとかそういうのではなく。こう、神官服なのにサイズがぴっちりとしてるから、体のラインがでるんだろう。アバターの胸もリアルのしまんさんと同じくらいでかいし。決して私が煩悩まみれなわけではない。決して。変態は部長だけで間に合ってます。


「ステータス画面を見せてもらっても?」

「……いいよー」


 間があったのは、つれごさんの方をうかがったためである。私はもうツッコまない。


プレイヤーネーム:まくら

種族:人造人間ガイノイド

一次職業:神官

二次職業:盾使い


 肌は少し白めの肌色で、機械感は感じられないが、限りなく人間に近いパターンか? 損傷したらどうなるんだろう。多分私じゃ傷すらつけられないし、欠損チャレンジは断念しておく。運のいいやつめ。


「それにしても何で遅れたんですか。場合によっては処しますよ」


 欠損チャレンジは断念すると言ったな。あれは嘘だ。


 召喚しておいたナト(武器はツルハシ)がじりじりと距離を詰める。


「待って待って! 一応理由があるんだって!」

「ほう? ナト、止まって」


 ナトがピタリと動きを止める。ついでに魔法の準備をしていたショゴスも止まった。


「大体、僕が理由もなしにつれごを待たせるわけないでしょ」


 なるほど、それは一理ある。


 あと、リアルでのしまんさんの一人称は“わたし”だが、ゲーム内やネット上だと“僕”になる。何か初めてやったゲームで僕っ娘ロールプレイをしていたのが定着したらしい。巨乳美女の一人称が僕なのは何かエロ……いや、これ以上は止めておこう。全く、何故今ここに部長がいないのか。今なら変態モードの部長ともさかずき(麦茶入り)を交わせるというのに。使えないやつだ(風評被害ではない)。


「ほら、つれご! これ!」


 そう言って、まくらさんは手の中に斧を出現させた。柄から刃に至るまで全て純白で統一されており、華美な装飾は一切ない。少しでも何かに当てたら壊れそうなほどで武器として成立するか不安になる。


人造人間ガイノイドは人間の括りだから、<生活魔法>が使えるんだよ。それで、つれごの武器……手斧は僕が<収納>してるの。この手斧は特注品だから、受け取りに行ってたら遅れちゃったんだ」

「ふむ、一応無罪としましょう」

「今更だけど、何でこんなにこーはいが仕切ってるの???」

「確かに……。よくよく考えたらすっごい上から目線だ」

「本当に今更ですね。よくよく考えないと分からないんですか?」

「「余りにも自然体すぎて」」


 ハモった。仲いいなこの人ら。


「そういえば、さらっと特注品って仰ってましたけど、んな金どっから出てくるんですか」

「えーと、マリリンが倒した魔物の素材をちょっと高めに買い取ってくれるのと、信者さんたちがお布施をくれるのと……」


 あぁ、なるほど。つれごさんが女神ゴッデスなのがここで活かされるのか。


「あと八宝菜が僕たちに会うたびに貢いでくる」


 おい最後、何やってんだ部長。


「多分だけど、こーはいも会ったら貢がれると思うよ」

「何て恐ろしいこと言うんですかつれごさん」


 曖昧な口調なのにどこか確信めいた感じなのマジで止めてください。


 まぁ、貰えるなら貰うけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る