貴女が落としたのは
第1話 天使な女神様
バイトして、お給料貰って、実験した後、私は自分自身やショゴス、そして
レベ上げ中に、あわよくば召喚陣が手に入ったりしないかと淡い期待を抱いてみたが、無駄だった。どうやら、スライムの召喚陣がドロップしたのはマジもんの奇跡だったらしい。つまりうちのショゴスは奇跡。可愛さが奇跡的。分かり切ってたことだな。
そんなこんなで、夏休みに突入した。
なお、我が文芸部の夏休みの活動日だが、“各々来たい日に来て、いたい時間いる”というふわっふわ設定である。部長と副部長が決めた。顧問は関与してない。放任主義にも程がないか……? まぁ、都合がいいので良しとする。
「起きてる姿を見るのは久しぶりだね、橋谷さん」
「……そうですね」
故に、仮眠室でこの先輩と会ったのは全くの偶然であり、待ち伏せをされていたなどという怪談も真っ青な事実はないのである。
「で、何の用です?」
「そんな威嚇する??? まぁ、頼み事はあるけどさ」
「前例が前例なので」
「あぁ、真鈴ちゃんか……」
あのときは互いに利益があったことだからまだいいとして、事情説明せずに問答無用で手伝わされるのはアウトだ。逆の立場だったら私もそうする。
「用件、詳細、理由、報酬、あと隠してることがあるなら全部吐いてください。それを聞いた上で何かしてやらんこともない」
「橋谷さん、真鈴ちゃんに何されたの???」
強いて言うならバイト内容の説明をもったいぶられたのが相当苛ついた。あれやってる側は楽しいだろうけど、やられた側はストレスがマッハで溜まるからな。あのあとリアルでご飯奢ってもらったから許した。我ながらチョロい。
「すごい気になるなぁ……。えっと、用件と詳細と理由と報酬だっけ。
用件は、わたしのメイン武器の獲得。
詳細は、とある泉に鉄の斧を落とすと、金の斧と銀の斧を携えた女神が現れて、“お前が落としたのはこの金の斧か、それともこの銀の斧か”って聞いてくるの。そこで嘘を吐いて金の斧か銀の斧のどっちかを落としたって言うと、戦闘状態になる。そして、その女神を倒したら、金の斧と銀の斧の両方を得られる——と思う。
橋谷さんに頼む理由だけど、わたしはざっくり言うと中距離の投擲武器で、一緒に行動してるしまんは前衛を兼ねたタンクなの。だから、召喚術師で闇魔法士の橋谷さんを加えた方が応用が利くかなって。あと、真鈴ちゃんが橋谷さんに護衛を頼んで正解だったって言ってたのもあるかな」
やっぱり、田上先輩のせいか。
なお、しまんさんは先輩の一人である
あだ名の由来はしまむらあん→しまあん→しまん。らしい。知らんけど。
「と思うって言うのは、確信がないんですか?」
「クリアしたことないからね。それにこれ、わたしたちで秘匿してるし」
だろうな。そんなイベント情報聞いたこともないし、ゲーム内でも噂すら知らない。
「ちなみにそれ、普通に“鉄の斧を落としました”って言ったらどうなるんです?」
「普通に鉄の斧返してくれて終わり」
「その口振りから察するに、リトライは可能ってことですか」
「そういうこと」
うーむ、面白そうではある。だが、最後の条件がまだだ。
「報酬は?」
「バフォメットの召喚陣」
「やらせていただきます」
分かってらっしゃる……! 私が何を欲しているのかを……!
ショゴスは可愛いし強いからいいとして、ナトはゴブリンな上にスキルの使い道がいまだ不明。ショゴスをなるべく戦場に出したくない私としては、強い召喚獣が欲しい。
バフォメットといえば悪魔。悪魔といえば強い。簡単な連想ゲームだ。もし、バフォメットなんて名前してて雑魚だったらマジギレ案件である。
「ありがとう。じゃあ、王国の北門前に集合でいい? プレイヤーネームはわたしが“つれご”で、しまんが“まくら”だよ」
天羽先輩は控えめに微笑んだ後、ベッドの上で仰向けに寝て、『FMB』にログインした。もうあの天使スマイルを見れただけで儲けものな気がする。少なくとも、写真を撮り忘れたのは一生の不覚だ。まぁ、撮ったら取ったで天羽先輩からゴミを見るような視線をいただくだろうが。それはそれで売れそうだな。変態が多い。
北門にて。
こちら現場のこーはいです。今、北門には金髪碧眼の超絶美少女がいます。現場からは以上です。以上じゃないです。頭上につれごと表記されています。今度こそ以上です。だから以上じゃねぇって。嘘だろ、私これからあのAPP25くらいある美少女と行動するんか??? 一周回ってSANチェックもなくなるわ。いや、元々天羽先輩はAPP20くらいあるが。ギリギリSANチェック回避。文芸部の顔面偏差値高いのほんと何とかして。あと頭おかしい率高いのも何とかして。
「……つれごさん、お待たせしてすみません」
「そこまで待ってないから大丈夫だよ」
「待ったには待ったんですね」
「うん」
「正直なようで何よりです」
元の天羽先輩の癒し声とアバターがマッチしてる。これしまんさんが見たら死ぬんじゃないだろうか。尊さで。いや、すでに一緒に行動してるらしいし、もう死んでるか。合掌。
碧眼に、髪は金髪と言ってもプラチナブロンドである。薄手の白いドレープドレスを纏っており、装飾は少なめのようだ。背中が大きく開いている服で、丸みを帯びた一対二枚の白い翼が存在感を放っている。
「まぁ、まくらもまだ来てないし」
「そういえばそうですね」
「来たら分かると思うよ」
そんな分かりやすいのか……?
……それにしても暇だな。
「差し支えなければ、ステータス画面を見させていただきませんか? 暇なので」
「こーはいさんも中々に正直だよね。はい、どうぞ」
プレイヤーネーム:つれご
種族:
一次職業:聖女
二次職業:斧使い
「これ、自分で決めたんですか?」
「そんなわけないでしょ、頭かち割ってあげようか?」
「やだなぁ、冗談ですよ」
「こーはいさん、響……八宝菜に似てきたね」
「なんて恐ろしいこと言うんですか」
あんなオープンキチガイと一緒にしないでいただきたい。
「あと、私のことは呼び捨てで構いませんよ」
「そう? じゃあ、こーはいでいい?」
「はい」
後輩にさん付けする優しさ。人間ができてるなぁ。文芸部には非常識な人が多すぎるため、つれごさんは貴重な真面枠である。もっと増やしてほしい。
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