裏稼業のお手伝い
第1話 リアルにて、求人募集
ログアウトすると、仮眠室はまだ薄暗いままだった。
どうやら、私が最初にログアウトしたようである。普段
体を起こして、ふかふかのベッドから降りる。長時間寝ていても、体に全く負担にならない。獅子高(獅子高等学校の略称)は設備に金をかけることで有名だ。食堂の広さとメニューの豊富さなんて異常である。
部室に戻って荷物を取りに行くか、と扉に視線を向けようとすると、喧しい先輩筆頭の和泉先輩(文芸部部長)が目に入った。この人、フルダイブ中も布マスクしてるのか。最早執念を感じる。
……今なら、取れるか?
部長の素顔は本人と双葉先輩(文芸部副部長)しか知らないと言われている。中学が同じだったと言う
部長の布マスクにそっと手を伸ばすと——
「——取ったらマジギレされるから、
背後を取られた。声で何となく分かるが、振り向くと私より身長の低い女子生徒が立っていた。
「好奇心は猫をも殺すってねぇ。一年の頃、双葉以外の部員総出で響のマスクを剥がそうとしたんだけど、全員返り討ちに遭ってアイテム収集のデスマーチに付き合わされたよ。いやぁ、懐かしい。もう二度としたくないね」
「マスク取って責任だけ田上先輩に押し付けていいですか」
「さては君、相当クズの素質あるな??? 良いわけないでしょアホか」
「残念です」
「残念がるな」
漫才としては上々だろうか。この部活、居心地がいいんだよな。主に無礼をノリとして捉えてくれる点で。
「それで、何か用件でも?」
「用がなきゃ話しかけちゃ駄目?」
「何、彼女みたいなこと言ってるんですか。田上先輩は利益のないことはしない
「私だって可愛い後輩に用もなく話しかけてみたりするさ。まぁ、今回は頼みごとがあるんだけどね」
はよ言え。
「何ですか?」
「バイトしない?」
「は???」
あぁ、言うのを忘れていた。田上先輩は、やたらと言葉を
「『FMB』でちょっと人手が足りない事態が起きてね。手伝ってほしいんだよ。もちろん、お給料も出すから、バイトって形で雇いたいの」
「……内容は?」
「
「内容は」
茉菜とは恐らく、酒井先輩のことだろう。田上先輩と小中学校ともに一緒だったと聞いている。
あと今更だが、私の名前は
「だからお願い! 初心者は何かとお金がいるでしょ? 簡単な仕事だからさ! ね?」
「だから内容は???」
話聞けや。この先輩、意地でも内容言わない気だな。絶対、ヤバイ系の仕事だろ。
しかし、今までの経験上、ここでYesと言わないと大変なことになる。具体的に言うと頷くまで接待される。もう高級旅館に二泊三日で泊まりたくない。女将さん綺麗。ご飯美味しい。懐柔される。三泊したかった。
「はぁ、分かりましたよ。待ち合わせ場所はどこですか? 今王都にいるので、あまり遠くへは行けませんよ」
「いやぁ、ありがとねぇ。どうもどうも。じゃ、王都の西側で“ドラッグ&ドロップ”って小さな薬屋があるから、そこで待ち合わせね」
「了解です」
まぁ、お金が必要だったのは事実だ。ラッキーだと思うことにしよう。思いたい。思えるといいなぁ。
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