第2話 魔女っ子錬金術師と白衣の薬師
翌日、通常授業が終わったあと、寄り道せずに仮眠室へ向かう。どうせ、『FMB』をプレイするためのセッティングは部長が真っ先に来てやってるだろう。
案の定、先にログインしている部長がいた。一瞬、再び布マスク剥ぎ取りチャレンジをしようかと思ったが、マジギレするとまで言われたので
お隣に失礼して、私もログインする。愛しい召喚獣のショゴスを召喚し、もちもちしながら、西側にあると田上先輩が昨日言っていた薬屋“ドラッグ&ドロップ”の場所を通行人から聞く。教えられた通りの道順で歩くと、辿り着いた。
英語で“drug and drop”と書かれた看板が立つ小さな店が、立ち並ぶ他の店や住宅の間にひっそりと開かれていた。マウス操作の方のドラッグ&ドロップならdragのはずだが、drugと表記しているのは薬屋だからか? 古びた木の扉から見る限り、長いこと営業しているのだろうか。
金髪の魔女のような恰好をした少女が箒で店前を掃いていた。頭上に“マリリン”という名前が浮かんでいることから、プレイヤーだと分かる。
そういや、田上先輩のプレイヤーネームもアバターもどんなのか聞いてなかったな。
「あの……すみません」
「!!」
私の声を聞いて、少女(プレイヤーなので、中身がそうとは限らない)が顔を上げる。そして、
「やぁ! よく来てくれたね!」
聞いたことのある声で話しかけられた。率直に言えば、田上先輩の声である。
「まぁ、君がばっくれるとは思わないけどさぁ。ちょっと強引だったから、心配してたんだよね」
「強引だったという自覚はあるんですね」
「流石に無かったらヤバない?」
下衆でもそのくらいの分別はあったか……(ナチュラル失礼)。
「……それにしても、凄い恰好ですね」
「あぁ、この服?」
少し離れていたから分からなかったが、改めて見ると凄い。
金髪金眼の美少女。耳が尖っているので、精霊系統だろう。髪型はリアルと同じおかっぱボブで、黒い三角帽にマント。手に箒を持つという魔女のような恰好だが、所々金糸の刺繍が施されていたり、金の指輪をはめていたりと貴族感というか成金感がある。
「私は気に入ってるけどね」
「でしょうね」
田上先輩の
「えっと、マリリン、さん? そろそろ仕事とやらの内容を教えてほしいんですけど」
「あぁ、そういや言ってなかったね。じゃあ、店入ろうか。そこで話すから」
「いいんですか?」
口振り的にヤバい系の仕事だろうに、店員さんに聞かれたらまずいんじゃないのか?
「? ……あぁ、そっか。そうだった。それも含めて言ってなかったんだった。大丈夫だよ。むしろこの薬屋、というか薬屋の店長が関係してる話だからね」
だから待ち合わせ場所を店前にしたのか。
マリリンさんが扉を開け、カランコロンと
「いらっしゃ~あ、い? あれ? マリリンちゃんどうしたの? あ、お客さん?」
目の前のエルフ美女から、聞いたことのある声その二がする。具体的に言うと、
モノクルをかけ、白衣を纏った研究者のような恰好。肌は病的なまでに白く、ダークブロンドの長髪をバレッタで束ねている。瞳は緑色で、目元には濃い隈があった。
そして何より特徴的なのが、頭上に浮かぶヤクチュウというプレイヤーネームである。マジであの部長、この侮辱罪だか名誉棄損だかに問われてもおかしくないプレイヤーネームつけたのか。
ヤクチュウというのは、酒井先輩の文芸部内のあだ名である。酒井先輩は日頃から幻覚(見間違い)や幻聴(聞き間違い)が多く、クスリをキメてる疑惑が浮上しているため、この不名誉の極みのようなあだ名がつけられた。哀れである。
「可哀想に……」
「何!? 初対面の人から急に哀れまれたんだけど!?!? て、あれ? その声もしかして……」
「我らが愛しき後輩改め、こーはいちゃんだよ」
「えっ! あっ! はし……こーはいちゃんね!! うん!!!」
「どうも」
この人、一瞬本名言おうとしたな。もし言ってたらショゴスに体当たりかましてもらうところだった。
「もしかして、マリリンちゃん。こーはいちゃんに護衛を頼むの?」
「護衛?」
何だ。てっきり怪しげな白い粉でも運ばされるのかと思ったが、違うのか?
「……もしかしなくても、仕事の内容言ってない?」
「言われてませんね」
「言ってないね」
「マリリンちゃんって馬鹿だったの???」
本当にそう思う。
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