第5話 魔法と魔術、そしてスキル
「ん? あんたそれ使役獣か? ちゃんとギルドに登録したのか?」
「いえ、私は探検家ギルドに所属していないので。……その場合、登録の義務はありませんよね?」
「あぁ、そうだったのか。すまねぇな、引き留めて」
宿屋の店番の人に声をかけられる。ショゴスのことを使役獣と勘違いしているようだが、そちらの方がありがたい。珍しいものは色々と目を付けられる。初心者である今は、あまり目立たない方が良いだろう。
頭に乗るショゴスをぷにぷにもちもちしながら、前と同じ南門へ向かう。
さて、これで私は宿屋の人から使役術師認定されてしまった。なら、今後は使役術師と名乗った方が良いだろう。<死霊魔法>のアンデッドたちも使役したことにする。
これは割と重要事項なのだが、魔法ギルドと魔術ギルドはいがみ合っている。最初にこの事実が発覚したのは、とあるプレイヤーが羊皮紙に描かれた魔術式を見て、「魔方陣みたいだな」と言ったところ、魔術ギルドから永久追放されたことからだ。
よって、魔法士と魔術師は本来同時に就くことができない(システム的にはできる)のだ。何なら同じパーティーに魔法士と魔術師が二人存在するだけでそのパーティーが崩壊すると言われている。プレイヤー同士ならそんなことはないが、所属ギルドから除け者扱いされるのは間違いない。いがみ合っている理由は未だ明らかになっておらず、考察班では世界中にその認識が根付いていることから、太古に何らかのきっかけがあって決定的に決裂したのではないかと考えられている。そこら辺は良く知らない。
何よりこのゲーム、何が恐ろしいかというとNPC同士で情報の共有をするのだ。口から出まかせでぺらぺらと喋っていると、あっさり矛盾を見つけられてしまう。特に探検家ギルドなどのギルド系統で話した内容は、国全体に広がると考えていい。大袈裟ではなく、実際にあったことらしい。攻略サイトって便利。
南門に向かう途中で、魔術ギルドから叩き出されたプレイヤーが見えた。馬鹿正直に魔法が使えるとでも言ったのか、それともバレたのか。どちらにせよ、魔法と魔術の両方を使うのはリスキーなのである。そのとき、私の脳裏に嬉々として魔法と魔術を扱う部長と副部長が浮かんだが、頭の隅に叩き込んでおくことにする。お呼びじゃないです。
門番さんに軽く挨拶をして、門をくぐって、定位置と化した隅っこに移動する。
だが、隅とは言ってても先程とは違う。その性質から“貝塚”とプレイヤーから揶揄され、それがいつの間にかNPCにも浸透し、正式名称となった、いわばゴミ捨て場である。
『FMB』において、ドロップアイテムとは生物的な法則を無視した……それこそ、召喚陣のようなものを指す。
それならば、他のアイテムはどうやって入手するのか。方法は二つ。買うか、自分で
しかし、<解体>スキルを持っているか、リアルに腑分けの経験がない限り、心臓を傷一つつけず採取しろだとか、皮を剥げだとかは非常に困難である。魔物の
人間は生活魔法という特殊な魔法を扱えるため、その中の<収納>で死体を丸ごと探検家ギルドに持っていけば何の問題もない。しかし、そうはいかないのが人外だ。
人間以外の種族に生活魔法は使えない。よって、<収納>は使えない。闇魔法の内の<影魔法>の応用で似たようなこともできるが、それすらも持っていない。
そうして人外たちは、魔物の素材採取を諦めた。魔物を単なる経験値と見なした人外たちが金になる比較的採取しやすい部位だけを取り、その残骸をを捨てる場。それが“貝塚”である。
私が今この“貝塚”に来た理由はショゴスのレベル上げのためである。どうやら、『FMB』でのスライムは死骸を取り込むことでもレベルが上がるらしい。どうやら、“獲物を捕食した”という経験が重要なようで、自分で魔物を倒すより経験値は得られないが、それでもゴミは大量にあるのでそこそこにはなる。
剣の素振りや魔法を何度も使うことでもレベルが上がるらしく、それについての考察が長々と綴られていたが、面倒だったので読み飛ばした。
「ほら、ショゴス。たんとお食べ」
楕円形のスライムは自分と同じサイズ以下のものしか包み込めない。そのため、死体を
手間が死ぬほどかかるので、仮に戦って死んでも余程レアな魔物でない限り簡単に再び使役できる使役術師には人気がない育成法だが、代わりどころか十分に数を揃えることすらできない召喚術師には向いている。
「……♪」
食事にありつけてショゴスも心なしか満足気だ。何だこいつ可愛いな。腹の中にある髑髏(おそらくNPCのものと思われる)が溶けていくのが若干グロいが。十八歳以上推奨ゲーなだけある。子供泣くだろ。あくまで推奨なので、例え小学生でもプレイは可能だ。まぁでも、購入時点で保護者に止められるか。
じゅわっじゅごぽぽぽっ!
音だけでR18ーG。これはグロい。部長が喜びそう。あの人グロ好きだからな。部室で明らかにCEROがZのグロゲーを堂々とやってたのは最早伝説。「法的拘束力はないからセーフ」とかそういう問題じゃないです。廊下まで悲鳴が響いてて何事かと思った。
頭の部位の捕食が終わったので、首の部分を差し出す。ずぶずぶと沈み込み、皮膚から肉、骨と順に溶けた。一応、スクショしておこう。部長に売れるかな。
次に渡す用の胴体をぶつ切りにしながら消化の様子を眺めていると、
「ぴぃ」
どこからか鳴き声が聞こえた。なんだこのショタボは。CVは誰だ。
「きゅう」
息を吐きだすような、掠れた声が再び聞こえた。というか、前から聞こえた。……前? 前には腹の中に首を浮かべるショゴスしかいないが……。あれ? さっき溶かしてなかったか? 今、ショゴスの腹の中にある首は、元々あった傷はあるものの消化する前の状態のままだった。
おっと??? これは……何だ?
こういうときはステータスだ。ステータスを見れば大体何とかなるって攻略サイト様が言ってた。基本的に魔物のステータスは専用のスキルがないと見れないが、使役獣は閲覧が可能とのことだ。なら召喚獣もできるだろう。記載はされてなかった。世知辛い。情報を秘匿したい気持ちは分かる。
名前:ショゴス
種族:スライム
スキル:<模倣>
「???」
「きゅるるる」
可愛いなおい。いや、そうじゃなくて。<模倣>? 聞いたことないぞ、そんなスキル。ジョブと組み合わせるスキル以外にも、ある程度有名なスキルと強力なスキル、使い勝手の良いスキルは予習済みだが、記憶を掘り返してもどこにも見当たらない。<模倣>なんて名称だけで汎用性がありそうなのに、サイトに載ってないだけか、名称に反してクソスキルなのか。でも元々声を発せないスライムが、声帯を<模倣>して声を出したんだ。大分使えそうなスキルだが……?
「きゅぴっ?」
「……テケリ・リ」
「けりっ?」
「テケリ・リ」
「てけりり!」
「テケリ・リ」
「テケリ・リ!」
良し(何がだ)。
「あ、街中では声を出さないように。目立つからな」
「リ!」
可愛い(可愛い)。もうゲームクリアでいいよ。このゲーム、何を
……何の話だっけ。あぁ、そうだ。<模倣>だ。
新しいスキルを発見したら、情報を公開するにせよ秘匿するにせよ、やることがある。
「実験するか、ショゴス」
「リ?」
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