自然を謳う
米元言美
第1話
私が泣いても
笑っても
夜空の雲間から覗き,
キラキラと輝き,
暗闇を照らし,
絶えずに瞬く星
私が嘆いても
歌っても
鼻をくすぐる香りを漂わせ,
健気に花を開き,
華やかに咲き乱れ,
潔く花びらを落とす花
私が挫けても
立ち上がっても
夜空に浮かび,
細やかな光で,
足元を照らし,
導いてくれる月
私が逃げても
立ち向かっても
周りの風景にそびえたち,
高いところから全てを見守り,
数万年前から変わらない姿で,
包んでくれる山
私が立ちすくんでも
進んでも
地形に応じて流れを合わせ,
動物や植物に住処を与え,
見る者の心を洗い清め,
ざわめきながら流れ続ける川
私が声をあげても
黙っても
季節に合わせて吹き方を変え,
背中を押しながら,頬に当たり,
体の芯まで染み込み,
囁くような声で万事を語る風
私が倒れても
立っても
ゴツゴツとしたありのままの顔を見せ,
飾り気のない素朴さで,
何億年前の真実を綴り,
昔の面影を残す岩
私が見失っても
悟っても
鳥のさえずりも,動物の戯れも受け入れ,
太い幹に,時の秘密を潜め,
空に向かって高く枝を伸ばし,
見せびらかせずに永遠の知恵を握る木
私がうつむいても
見上げても
二度と同じ顔を見せることなく,
時節に従い模様や色を紡ぎ,
何でも飲み込んでしまうほど大きな器を持ち,
自然を鮮やかに彩る空
私が死んでも
生きても
命の香りを帯びた潮風を吹かせ,
波を岸に打ち寄せ,
果てしなく,洋々と眼前に広がり,
古来から変わらない唄を奏でる海
その無常に
度々自分の内面を重ね合わせ
その移ろい行く姿に
度々心を打たれ
何度自分のちっぽけさを感じたことか
その声に
度々耳を澄まし
その静寂に
度々抱かれ
何度見失っていたものを取り戻したことか
その顔に
度々見惚れ
その有り難さを
度々感じ
何度癒され,救われたことか
自然は
時をまたぎ、文化を超え
無差別に,人の心の拠り所を作る
地位を問わず,どの信念にも偏らず
宇宙に訳す必要のない唄を響き渡らせる
もし,たった一度でも,言葉を交わすことが許されるのなら
贈りたい言葉は
ひとつだけ
「ありがとう」
自然を謳う 米元言美 @yonekoto8484
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