西園寺明日香~私の体験談

あいる

第1話~これは私の体験談です。

 西園寺 明日香~私の体験談



 兵庫県の○○市にある、建って数年の公団のお話です。


 子どもの頃から霊感があり、高校を卒業する時も仲の良い友達から頼まれることがありました。


「明日香、マンションを借りるんやけど、大丈夫なのか一緒に内見して欲しいねん」


 その日も、大阪市内のワンルームマンションへと親友の由香に連れられて来た。


 この春三人目の依頼だった。

 もっとも、そのご褒美は自動販売機のコーヒーだったり、たこ焼きだったりまちまちだ。



 土地にはそれぞれに歴史があり、戦場だったとか、死体置き場になっていた時期があったとか、負の遺産として町のあちこちに存在する。


 例えば、学校などはその昔、墓場だったところに建てられることが多く、学校の怪談もあながち都市伝説などではないと思うのだ。



 由香と案内されたのはオートロックのレディースマンション、築15年というが、綺麗にリフォームされて、住み心地は良さそうだ。


 場所によっては、頭痛がしたり寒気がしたり、妙な影をみたりする私もこの部屋は大丈夫そうだ。

 ごく普通のワンルームマンションで、トイレとバスルームが別になっている。これが推しポイントだと不動産会社の担当に説明を受けながら私はぐるりと部屋を見回した。

 日当たりこそイマイチだけど、初めての一人暮らしには十分だと感じた。


「ここなら、大丈夫やと思うよ、ただ駅からの道も確認していた方がいいから、それだけは見て帰ろうか」


 由香は不動産会社の人に、ココに決めたいと伝え、明日改めて契約することを伝えて駅への道を二人で歩いた。


 幸いに、私が嫌だと思う場所もなくて、それを由香に伝えた。「とりあえず大丈夫だよ、だけど人が多いところには霊も集まりやすいから連れて帰って来ないようにね」


「もう!明日香、また怖いこと言わんといてや、それからついでに頼みたいんやけど、今度、お姉ちゃんが住んでる団地に付いて来て欲しいねん、お姉ちゃんはそのお礼に焼肉をご馳走するって言ってるし、どうかな?」


「それは、嬉しいやん、いいで、来週やったら時間あるし」


「ホンマに、お姉ちゃん喜ぶわ、その団地、ちょっと気になることが起きてるねんて、詳しくは知らへんねんけどな、明日香のことを話したら是非連れてきて欲しいって……」


「言っとくけど、私は除霊とかはできひんで、霊はえるけど、それが良い霊か悪い霊かがわかるくらいやで」


「明日香、怖いこと言わんといて、暗くなって来たしなんかゾクゾクしてきたわ」


 由香はキョロキョロしながら情けない顔をして私に抗議してきた。


「大丈夫やって、でもな、幽霊って夜に出るわけじゃないよ、昼間だってウヨウヨいるわ」


「もうええて、この話はもう終わり、とにかく来週お願いやで」


「ハイハイわかった、んじゃカフェにでも寄ってから帰ろか」


 怖い話はそこで終わらせて、カフェラテを飲みながら、女子が好きな恋バナやファッションの話をしてその日は別れた。



 ❋❋❋


 朝から曇り空の土曜日に、阪急電車に乗って○○市に向かった。

 駅を降りてバスで10分程度で、その場所に着いた。


 8階建てのマンションと呼べるような綺麗な外観で築年数もあまり経っていないから、住みやすそうに感じる。


 でも、私は近付く度に寒気がした。

 B棟の七階に由香のお姉さんは住んでいるらしく、エレベーターで七階へと向かう。

 そこで既に何かの気配を感じたけれど、由香に話すのはやめておいた。


 703号室、玄関の横には盛り塩がしてあり、その塩は少し湿り気を帯びている、湿り気があるということは、霊が近くにいることを示す。


 玄関に出てきたのは由香によく似たお姉さんと二人の男の子だった。


「初めまして明日香さんやね、いつも妹がお世話になっています、今日はわざわざごめんね、さぁとにかく上がって、由香、そこのスリッパを明日香さんに渡して」


 土曜日ということで、ご主人もリビングで待ってくれていた。


「由香ちゃん久しぶりやな、大学生になるんやな、明日香さんも同じ大学に行くんやって?とにかく二人とも合格おめでとう」


 四月からは学部は違うけど、由香と私は同じ学校に通う。


「妻が相談したいことがあるらしいのでよろしくお願いします、俺は子ども部屋でこいつらを遊ばせときます」そう言いながらご主人と二人の男の子が廊下へ行った。




 私と由香とお姉さんは三人でダイニングテーブルで話すことになった。


 紅茶とクッキーを頂きながら、お姉さんに聞いてみた。


「困った事ってどんなことですか?」


 私が座った場所からは、ベランダが見える。


 セミロングの四十代位の女性がじっと、こちらを見ているのには最初から気がついたけど、私はお姉さんに聞いてみた。


「うちは、見ての通りに男の子二人だし、女は私だけなのに、たまに女の人の声が聞こえたりするんです、あっ!とかうっ!とか一瞬だったりするけど、私がお風呂掃除をしている時なんかに、あれ、お母さん台所にいると思ったとか、おトイレに入って行ったのを見たとかいうこともあったりして、それが気になって……」

確かにお姉さんの髪の毛もセミロングだけど、バレッタで今風に留めている。


「怖がらせると悪いんですけど、四十代くらいでセミロングを下ろしてて、花柄のスカートにカーディガンの女性が部屋の隅にいてます」


「マジで!どこにおんの?」


 由香は部屋のあちこちをぐるりと見回した。


 青ざめていたのはお姉さんで、「やっぱりそうですか、実はこの団地にいる子ども達に怪我をする子が増えていて、なんか怖いねと話題になってるんです、半年くらい前に上の階の通路から飛び降り自殺した人がいて、それが確か四十代の女性だったそうで、小学生の男の子のお母さんだったけど交通事故でお子さんを亡くされて、後追い自殺だったそうです、私たち家族はその日、出かけてたので、事故現場は知らないんやけど、それからなんです、やっぱり彷徨さまよって出て来てるんやろか」



 話を詳しく聞いてみると、怪我をするのも男の子ばかりということで、私が思うのは、自分の子どもは死んでしまってるのに、元気に走り回ってる男の子が憎らしいと思ってるのだろうということだった。


 私には霊を浄化する事が出来ない、出来ることは親身になって話を聞いてあげることだけだ。

金縛りにしても、誰だか名前を聞いてあげること、何か伝えたいことがあるのか?そう聞いただけで、安心して消えることがある。

もっとも、金縛りなんて単なる疲れの時のほうが多いのだけど。



 心の中で私は彼女に話かけた、「悲しかったよね、辛かったよね、でも、息子さんは一人ぼっちでお母さんを待ってるんだよ、早くそばに行ってあげて欲しいねん」


 悲しみの気持ちは私の心の奥底に突き刺さるほどに感じる、泣きそうになりながらも必死で語りかけた。



 知り合いの霊媒師さんには事前にこのことを伝えていて、必要ならばおはらいに来てくれることに話が済んでることをお姉さんに伝えて、由香と部屋を後にした。



 彼女も乗って来ただろうエレベーターはやっぱりひんやりとしていて、悲しみが伝わって来た。


 団地の敷地内には、砂場や滑り台などがある、だけどそこにいるはずの子どもたちの姿はまったく見えない、霊感のない人でも純真な心を持っている子ども時代にはこの世のものでないものもえてしまう。


 子どもたちには、私と同じようにえるのだろう。

 砂場から無数の大小の手が伸びていて、うごめいていることを。


「この場所自体があまり良くなかったんだと思う、だから呼ばれるようにしてここを死に場所に選んでしまったんやろうね」


 由香は神妙な顔をして私をみる、「明日香ぁ~もうええて怖いやん、てか私になんかいてへん、大丈夫?」


 そう言いながら身震いさせている。



 私には、優しい目をしたおばあさんが笑いながら後ろに立ってるのがえたけど、知らせるのはやめておいた。


 その代わりに心の中でおばあさんにお願いした。


『由香をよろしくお願いします』

 先祖の霊だと思われるおばあさんはニッコリと笑いうなづきながら透明になり消えていった。



 了




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西園寺明日香~私の体験談 あいる @chiaki_1116

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