第15話 演技します

 購買でパンを買って中庭のベンチに腰掛ける。その際、ハインツを真ん中に挟むことを忘れない。


「さぁさぁ~♪ ハインツ様ぁ~♪ 真ん中にどうぞぅ~♪ あらぁ~♪ 両手に花ですわねぇ~♪」


 甘ったるく語尾を伸ばして喋る。ハインツの顔が強張っているが、気にしない。


「さぁ、ではぁ~♪ 頂きましょうかぁ~♪ あらぁ~? イヤだわぁ~♪ 私ったらうっかり飲み物を買い忘れてしまいましたわぁ~♪ ちょっと行って買って来ますわねぇ~♪」


「あ、それなら私が買って来ます!」


「いぇいぇ~♪ クレアさんは座ってて下さいなぁ~♪ すぐ買って来ますからぁ~♪ クレアさんはハインツ様と仲良く、いいですか? な・か・よ・く・お過ごし下さいませぇ~♪ では、ご機嫌よう~♪」


 仲良くを強調するのも忘れない。そして行ったら戻るつもりはない。レイナは近くの草影に身を潜めた。そっと聞き耳を立てる。


「レイナのヤツ、やってくれたな...」


「えっ!? なにがですか!?」


「俺と君を二人っきりにして、仲良くさせようっていう魂胆だろう...」


 (バレテ~ラ! 私の渾身の演技を見破るとは! ハインツのクセに中々鋭いな! ハインツのクセに!)


「えっと...なんでそんなことを!?」


「俺が君に懸想してると思い込んでる」


 (そうあって欲しいと心の底から思ってる!)


「えぇぇぇっ! マズいじゃないですか! 早く誤解を解かないと! 私、婚約しているお二人の邪魔なんかしたくありません!」


 (いやいや、どんどん邪魔して欲しいんだけど! なんなら熨斗付けて返すから受け取ってよ! あっ! 返品は不可で!)


「そうなんだが...中々話を聞いてくれなくてね...」


 (うん、聞きたくないからね!)


「ケンカでもしたんですか?」


「うん、まぁ、そんなとこ...」


 (いやいや、ケンカじゃねぇし! 私が一方的に嫌ってるだけだし!)


「そうなんですね...分かりました! 私、お二人が仲直り出来るようにお手伝いします!」


 (いやいやいやいや! なんでなんでなんでそ~なった!? クレアたん、それおかしいって! 目を覚まして!)


「いいのかい?」


「はい! お二人はとってもお似合いだと思います! 私、応援します!」


 (お似合いじゃねぇし! あんたら二人の方がよっぽどお似合いだっつ~の!)

 

「ありがとう! 嬉しいよ!」 


 (いいように纏めてんじゃねぇよ!)


「私、頑張ります!」


 (クレアたん、頑張るとこ違うから! そこじゃないから! お願いだから気付いて!)


 完全な自業自得であるが、厄介なことになったと頭を抱えるレイナであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る