第13話 イライラします

 中々寝付けないレイナは散歩でもしようと、クレアを起こさないようにそっと部屋を抜け出した。


 少し肌寒いが、こうして満天の星空を見上げていると、イヤなことを忘れさせてくれる。前世ではこうやって星空を見上げることなんてついぞなかった。ほうっと息を吐いて神秘的な雰囲気に浸っていると、


「レイナ?」


 今、一番聞きたくない声が聞こえてきた。


 (なんでこんな時間にこんなところにハインツが居る!?)


「君も眠れないのかい?」


「いえ、違います。用事があっただけです」


 レイナはシレッとウソを吐いた。


「こんな時間に?」


「えぇ、用は済んだので戻りますね」


「待ってくれ!」


 待たない! だが腕を掴まれてしまった!


「...離して下さい」


「ちょっとくらい話をしたっていいだろ?」


「話すことはありません。離してくれないなら大声上げますよ?」


「いいよ、出来るもんなら」


 レイナはイラッとした。出来ないと思われるてるなら目にもの見せてやろう。腹の底から声を張り上げた。


「誰かぁ~! 助けて~! 犯されるぅ~!」


「ばっ! おまっ! なんて!」


 ハインツは尻尾巻いて逃げていった。


 (ザマアミロ! 思い知ったか! って、そんなこと言ってる場合じゃない! 誰か来る前に私も逃げないと!)


 次の日、痴漢が出たとちょっとした騒ぎになったが、レイナは我関せずを貫いた。ハインツがこっちを睨み付けてくるがマルッと無視した。



◇◇◇



 そして2日目のメインイベント、カレー作りが始まった。どこの班も苦労している。貴族のボンボンは料理なんてしたことないから当然だろう。


 レイナの班だけは平民のクレアが居るんで問題ないはずだ。そう思って傍観者に徹する...はずだったのが、


 (クレアたん、料理下手過ぎ! 平民なのに料理したことないの!? 下拵えって知ってる!? ニンジンは皮を剥くんだよ!? タマネギは切る前に良く冷やさないと涙ポロポロだよ!? ジャガイモの芽は取らないとダメだよ!? あぁもう、イライラするぅ~!)


「あっ! 痛っ!」


 危なっかしい手つきで微塵切りして、手を切ったらしい。レイナはもう限界だった。見ていられない。


「貸して!」


「あっ...」


 包丁を奪い取るやいなや、慣れた手つきで料理するレイナの姿を、他の皆は呆然と見詰めるだけだった。やがて他の班からもヘルプを頼まれたレイナは、結局全ての班の料理を手伝って皆の称賛を浴びるのだった。


 そんなレイナの姿を眩しそうに見詰めるクレアとハインツの視線に、レイナが気付くことはなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る