第10話 呆れました
「ちょっと待ってくれ」
教室に戻ろうとするレイナの腕を掴んで、ハインツが引き止めた。
「まだ話は終わってない」
一瞬、掴まれた腕を振り払ってやろうかと思ったレイナだが、人目が多いので騒ぎになると思い、諦めて席に戻った。その代わり、眼光鋭くハインツを睨み付ける。だがハインツはどこ吹く風といった様子で、
「俺の事を好きじゃないんだったら、なんであんな嫉妬深い行動を取り続けていたのか教えてくれないか?」
そう言われてレイナは答えに詰まった。悪役令嬢だった頃のレイナの気持ちなど、今更知る由もない。だがなんとなくだけど想像することは出来た。多分、この考えも前の自分の中には少なからずあったはずだと。
「それは第2王子の婚約者という立場、つまりステータスに固執していたからです。あなたが好きだからという訳じゃありません」
「それだけ? 俺の事を少しも好きになっていなかった?」
「多少は好ましいと思ったこともあったかも知れませんが、その心は昨日で粉微塵になりましたので、あしからず。人の言う事を聞こうともしない、すぐに罵声を浴びせる、最後には暴力を振るう、こんな人を好きになる訳ありません。話は終わったんで今度こそ行ってもいいですか?」
「あぁ、構わないよ。今は、ね」
レイナは急ぎ足で教室に戻った。
◇◇◇
午後は授業どころじゃなかった。
(あり得ない、あり得ない、あり得ない~! なんなの、なんなの、なんなのよアイツ~! 顔がいいだけのロクデナシじゃあないの! あんなのと結婚するなんて絶対にイヤ! 死んでも御免よ! こうなったらクレアたんには悪いけど、無理矢理にでもあのDV王子を引き取って貰うわ! ゴメンね、クレアたん。私、今世では幸せになりたいの。そして神SHOTも諦めたくないの)
我が身可愛さ故、下衆な考えに浸っていくレイナであった。もう既にレイナの頭の中でハインツは、クレアを彩る背景の一部と化していた。
放課後、空き教室でレイナはクレアと対峙していた。
「それでお話しっていうのは?」
「はい、まずは確認させて下さい。私を虐めから助けて下さったのはレイナ様ですよね?」
(あちゃ~! やっぱ見られてたかぁ~! う~ん、どうしようかな~? 認めるのは簡単なんだけど、そうなるとなんでタイミング良くあの場に居たかって言い訳が面倒だよね~ まさかイベントが起きるのを知ってたからとは言えないしなぁ~ まぁここは1つ探りを入れてみますかね)
「なんのことでしょうか?」
「あの日、水が降って来た上の階を見上げた時、チラッと見えたんです。黒い髪が。レイナ様が水を撒いて私を助けて下さったんですよね?」
「黒い髪の方なんて他にもいらっしゃると思いますが、なぜ私だと?」
(ウチのクラスだけでも4、5人は居るしね)
「えっとそれは...」
(あらら、言葉に詰まっちゃったよ。ゴメンね、クレアたん。認めてもいいんだけど、それが縁で仲良くなったりしたら、私の罪悪感が半端無いと思うんだわ。なにせこれからクレアたんと最低男をくっ付けようなんて企んでるんだからさ。それに美少女は遠くから眺めるもんだしね! Yes! 美少女 No タッチっていうじゃない!)
「どうやら人違いのようですわね。他にご用が無いようでしたら、これで帰らせて頂きますわ」
「えっ!? あ、ちょっ、待っ!?」
待たない!
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