第9話 困惑してます
レイナは困惑していた。
(今、この男なんて言った? 私のことが昔から好きって? それっておかしくないか?)
「...私とは口も聞きたくないし、顔も見たくないのでは?」
「そう言ったね」
「矛盾してませんか? それに昨日、私を散々罵倒したことも。私の頬を叩いたことも。私のことを想ってくれているんなら、いくらなんでもあんなことはしないと思いますが?」
「それに関しては申し訳ないと思ってるよ。もう二度と手を上げたりしないと誓う」
「...答えになってないと思いますが?」
「まぁ聞いて。君のことが昔から好きだったのは本当なんだ。ただ君の嫉妬深さには辟易していたのもまた事実だ。俺のことを想ってくれるが故の行動だとしても、あれは異常だと思った。だから学園に入学したのを期に、君とは少し距離を取ろうと思ったんだよ。あんな言い方になってしまったのは申し訳なかった。でも君も心を入れ替えてくれたのか、俺に付き纏うこともなくなった。正直ホッとしたよ」
そこでハインツはいったん言葉を切って、食後のコーヒーを口に含んだ。
「だがそこに、俺と懇意にしているクレアが虐められてるって話が出て来た。虐めてるのが君の取り巻きだと知って俺は失望したよ。あぁ、君は何にも変わってなかったんだって。裏切られたような気持ちになったから、あんな暴言を吐いたし、君に暴力を振るったりもした。勝手な思い込みで暴走した俺が全て悪い。謝って済むことじゃないけど、どうか許して欲しい。君を想う気持ちは変わってないから」
この男は何を言ってるんだろう? レイナはハインツの言葉を聞けば聞く程、心が冷めていくのを感じた。悪役令嬢だった頃のレイナは、確かにこの男に惚れていたんだろう。だから嫉妬したんだろう。その結果、行き過ぎたこともあったのかも知れない。
好きでもない相手にそんなことされたら、そりゃあ辟易するだろう。だがこの男は好きだと言った。それも昔から好きだと。だったら何故、問題ある行動をその場で指摘しない? 一緒に解決しようとしない? 寄り添おうとしない? 意味が分からない。
関係改善のために距離を取った? 逆だろう。本当に好きなら側に居て支えてやるのが筋ってもんだろう。バカじゃないのか? レイナはこの男の全てを信じられなくなっていた。
「あなたのお気持ちは良く分かりました。やはり私達、婚約を破棄しましょう」
「...どうしてそういう結論に達したのか聞いてもいいかな?」
「信用出来ないからです。気に入らないことがあるとすぐ暴力を振るうようなDV男はこっちから願い下げですし、あなただってこんな暴力女には辟易してるでしょう?」
「婚約は破棄しないよ」
「あなたのことを好きにならないと言っても?」
「好きにさせてみせるよ」
「そんな時は一生来ないと思いますが、どうぞご勝手に」
そう言ってレイナは席を立った。
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