第3話

 店の前に着き窓越しから店内を覗う。

 今立って話しているのは学級委員の高橋だな。見覚えがある。

 もとより同窓会開始に遅刻してきたのだがやはり場に混ざる勇気はない。

 そもそもみんな俺の事など覚えていないだろうな・・・

 男は思った。

 今日は仕事が長引き、家に帰って着替える時間もなくスーツ姿でそのままやって来た。

 典型的なサラリーマンのいでたちだ。

 彼は市内の商社の事務職をしている。元々人見知りで引っ込み思案な性格だ。営業職など出来る筈もなく経理課の事務作業を希望し採用された。

 社内でも目立たず、風波立てずひっそりと過ごしてきた。その為、出世など全く無く相変わらず平社員のままだ。

 寧ろそれを望んでいるのだ。

 やっぱ無理だな、帰ろうかな、腹減ったし……

 諦めつつ辺りを見回したとき一人の女性が視界に入った。

 同じく傘をさし店内を覗っている。視線の先は同窓会場だ。

 あれ? 同じ会の参加者であろうか?

 男は思ったが女性の顔に見覚えはない。勿論クラスメイト全員の顔を覚えている訳ではないが、1年間同じ教室で学んだ仲なら多少見覚えはある筈だが・・・

 それにしても、先程からこの女性も俺を気にしている気がする。気のせいだろうか……。

 ひょっとしたらクラスメイトで俺と同じように会に参加するのを躊躇っているのかも……。

 なんてな……。

 男は都合よく考えたが見覚えがない。クラスメイトの友人か恋人なのかも知れない。会が終わるのを待っているのかも。男はそう思った。

 判断が付かないまま思い出したように煙草に火を付けた。店の入り口脇に灰皿を見つけたからだ。

 最近は店の中では禁煙の店が多い。この店もそうなのであろう。先程から客の何人かが煙草を吸いにここに来ている。

 煙草に火を付けてしばらくした時、店の自動ドアが開き一人の男が煙草を吸いにここに近づいてきた。

 あ! 彼は!

 男の顔に見覚えがあった。鈴木だ。クラスメイトの中でも割と目立つ存在だった男だ。話した事は無いが顔は覚えていた。

 鈴木は煙草に火を付け男を一瞥したが特に反応は無かった。

 やっぱり気づかないか……。

 男は鈴木に気付いてもらえず、 

 こりゃますます会には入れないな……

 と思った。 

 鈴木が一服を終え会に戻って行った。良いタイミングだった。

 帰るなら今だな……

 男はそう考えだしていた。

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