あいまいなかたち


 同じ大学だし、という軽いノリで僕らがルームシェアを決めた時、ベッドとソファベッドを買った。お互いにお金がなくて、できる限り安いところにしようと1LDKの部屋に決めたためだ。

でもそのうちソファベッドを広げるのが面倒になって、結局疲れて帰ってくるとだいたい同じベッドに雪崩込んでしまっている。

 最初は互いの食の好みも違っていたが、朝食と夕食を当番制にしているうちに、お味噌汁の具とか、目玉焼きの焼き加減とか、そういう好みが一緒になってしまった。

 あれ、とかそれ、とかでなんとなく伝わるし、生活空間を共有している所為で、同じ匂いがする。飲み物を飲むタイミングとか、座り直すタイミングとかもよく被る。

 一緒に買い物に行くことも多いので、ドラッグストアとかで一つのかごに生活用品を突っ込んでる。店員さんには顔を覚えられている気がする。

 多少サイズの違いはあっても洗濯の都合とか、あとほとんどは面倒だとかでよく互いの服を着たりもする。


 友人には当然のようにニコイチ認定されていて、構内では授業の都合で一緒にいないこともあるのに、よく互いの生存確認をされている。

 たまに女子から、二人はなにかお揃いのものとか持ってないの、なんて聞かれたりするが、そんなもの、持っているわけがない。

 ただ一緒に暮らしているだけで、結婚の予定もなければ恋人すら数年いない。

手を繋いだり、抱き締めたり、寄りかかったり、二人で一つのイヤホンを使ったり、神を触ったり、何気ない戯れの最中にキスをしてしまうこともないこともない。けれど僕らは恋人同士なんかではない。

互いに恋愛感情抱いていないし、付き合っているわけでもないのだからもちろんセックスなんてしない。

一緒のベッドで寝るのは疲れてるのもあるけど、人肌恋しかったりするし、冬なんかは寒いしね。

傍から見たらふざけた関係なんだろうけど、いちばん完成されていて揺るがない。たぶん、死ぬ時だって傍にいるんだと思う。

それでも、互いに結婚しときゃよかったーとか茶化すように言うんだけど、結局口先だけの戯れで、そんな風に思ったことが一度もないことも確か。結婚なんて面倒くさいと互いによく言っていたし。

キスのきっかけなんてだいぶくだらないこと。正直覚えてもいないくらい。ふざけてしたのか罰ゲームだったか酔った勢いか。だから止め際もわからない。でも嫌じゃない。

たまに口寂しくなるとどちらともなくしてしまうし、二人にとってはそれが普通になってしまった。

不都合はない、寧ろ楽すぎてこれ以上を望むこともない。

この関係に、相応しい名前を僕は知らない。知る必要はない。

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ロマンス至上主義 砂中静流 @sunanaka_shizuru

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