毎日見る花火を、美しいとは思わない


 通勤ラッシュで混雑した月曜日の朝、駅前は喧騒に包まれていた。

高層ビルの屋上に、制服姿の少女が立っている。

淡い水色のチェックスカートが、ばさばさと風に煽られていた。生白い足と紺色のハイソックスのコントラスト。糊のきいた白シャツと、スカートとお揃いの水色のリボン。

 通勤電車でよく見かける少女だ。腰ほどまである黒髪と、湿度を感じる視線が印象的な美しい少女。

 その日は雲ひとつ無い快晴で、下から見上げた彼女のシャツが青空に唯一の白だった。

生きていると思った。そして、美しいと思った。

 他人に興味のない社会人と野次馬が、道を譲らずにぶつかり合う。スマホのシャッター音があちこちで鳴り響いていた。今から命を断とうという人間すら、他人にとっては劇的なエンターテインメントでしかない。

 劈くような悲鳴が辺りに響き渡り、喧騒はより大きくなる。

日光を知らないような真っ黒な髪が宙に舞った。彼女の背中が地上に近付いてくる。彼女は鈍い音を立て、途端に醜い塊になった。

 それでもスマホのシャッター音は止まない。野次馬の壁によって彼女は遠ざかり、閉じ込められてしまった。

 足早にその場から離れた。その塊とは、もう一秒も一緒に居たくなかった。

人の波に逆らって駆け出し、赤信号を無視して無理矢理渡った。

 一瞬だけ雲になった彼女を思い出す。彼女はその瞬間、地上で何より美しかった。涙が溢れてきた。どうしようもなく悔しかった。

 命というものは、儚いからこそ、尊く、厳かに美しいのだ。

ある小説家の言葉だ。まさにその瞬間を目にしたような気がする。それが涙が出るほど悔しくて仕方がないのは、そんな瞬間が今では毎日のようにこの世界に存在するからだろうか。


 シャツは肌にべったりと張り付いていた。

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