第4話 メンバー加入

 砂漠の中にあるオアシスみたいな町、ファラン・シティ。

 安宿は危険らしく、私たちは比較的豪華な宿を取った。

 部屋は全員個室で狭いらしいので、奴隷市場でアンガスが慌てて確保した女の子は、マンドラがシャワー等をして身なりを整え、再びロビー代わりに駐車場の馬車の中にみんなで集まった。

「この子は竜火族っていって、今は分からないが昔はドラゴンに変身出来る能力を持つ一族なんだ。万が一、怒りに触れて戦いになったら、全くもってシャレにならん。だから、慌てたんだよ」

 アンガスが苦笑した。

「そ、そんな危ない事を……」

 奴隷市場と聞いてどうにも好きになれなかったが、やはりまともな所ではなかったようだ。

「俺の名前はアンガスだ。パーティリーダーは、このクリムだからなんでも相談すればいい」

 アンガスが笑った。

 私たちは、順番に女の子に自己紹介した。

「まずは、名前はなんていうの?」

 マンドラが笑みで問いかけた。

「……エマ」

 女の子は不安そうに答えた。

「そっか、エマか。いい名だね。私たちはあなたを捕まえにきたわけではない。ここまでは分かる?」

 マンドラの問いに、エマが頷いた。

「だから、安心して。眠たかったらゆっくり寝ていいよ。怖い格好の人はいるけど、怖くないから」

 マンドラが笑みを浮かべると、エマも小さな笑みを浮かべた。

「さて、救助はしたものの、竜火族の住まいは謎だ。ヒントもない。どの種族とも相容れないからな。信用出来る商人や冒険者でも、さすがにこれは分からないだろう。まだ小さすぎるから、俺たちの旅に同行させるのも危険だし、リーダーどうする?」

 マーティンがため息を吐いた。

「いきなりいわれてもね……。せめて、なにか場所さえ分かればいいけど」

 いくらなんでも、これには私は困った。

「大丈夫です。檻の中でなければ、自分で飛んで帰れます。ありがとう」

「そうか、ならいい。とにかく、今はゆっくり寝て疲れを癒やすといいと思うぞ」

 マーティンが笑うと、エマっは頷いて横になり、すぐさま寝息を立てはじめた。

「さて、後は任せていいか。俺も焦って疲れちまった」

 マーティンがあくびをして、よこになった。

「うん、大丈夫。おやすみ!!」

 マンドラが笑った。

「はい、おやつが出来ましたよ」

 いつもなにか作っているおばあちゃんが、焼きたての煎餅をくれた。

「……美味しそうな匂い」

 眠りが浅かったのか、エマが起き上がった。

「うん、おばあちゃんが煎餅を焼いてくれたから。食べる?」

 私が声を掛けると、エマは頷いてパリパリ食べはじめた。

「……美味しい」

「もっとあるよ!!」

 サマンサが笑った。

「さて、どうしようか。ここの金細工は高いけど、ものは確かだから安心していいよ」

 マンドラが笑みを浮かべた。

「そんなお金ないよ。お小遣いじゃ買えない」

 私は笑った。

「……私は帰りたい。ここならちゃんと自力で帰れるから大丈夫。いいかな?」

 エマが遠慮がちにいった。

「もちろん、やっぱり怖いし寂しいもんね。私たちは気にしないで」

 私が笑みを浮かべると、エマは小さく笑みを浮かべ、ゆっくり立ち上がった。

「ありがとう。この馬車はずっと見てるから、なにかあったら駆けつける。それじゃ、ありがとう。またね」

 エマがの体が光り、一瞬だけドラゴンのようなものが見えた途端、その姿が消えた。

「す、凄い……」

 マンドラが目を丸くした。

「へぇ、早業だね。起きたアンガスがなんていうかねぇ」

 サマンサが笑った。


「なに、エマが帰っちゃったって。起こしてくれよ」

 アンガスが苦笑した。

 時間はもう夕方。

 おばあちゃんがとんかつを揚げ始め、馬車内は香ばしい匂いで一杯になった。

「よし、俺の気がかりは片付いた。後は食って寝るだけだな」

 アンガスが笑った。

 馬車が二回りほど大きくなったので、おばあちゃんの指定席は数々の調理器具で埋まり、まるでお店でも開けそうな感じだった。

「みなさん、そろそろ揚がりますよ。お待たせしました」

 おばあちゃんが、揚げたとんかつをサクサク切りながら、全員に食事を促した。

「よし、メシだ。半分は、これが楽しくて旅しているようなものだな」

 アンガスが笑った。

「本当だよ、前は悲惨だったんだから!!」

 サマンサが笑った。

「食べた事ない料理ですね。揚げ物なのはわかりますが……」

 マンドラが不思議そうな顔でカウンターに座った。

 全員でカウンター席に座り、冒険者式ではなくちゃんと挨拶してから食べはじめた。

「ところで、明日にはこの街を出るように手配は出来ている。この砂漠にはこの街くらいしかないから、黄金街道引き返す事をオススメする。リーダー、それでいいか?」

 アンガスが笑みを浮かべた。

「うん、問題ないよ。砂漠が大変だって、ちょっと分かったから、体験としては十分だよ」

 私は笑った。

「私も意義はないよ。砂っぽくて髪の毛が」

 マンドラが笑った。

「まあ、慣れないと嫌になるよね!!」

 サマンサが笑った。

「それじゃ。とりあえず、引き返す事は決まりだね。あとはなにかある?」

「そうだな……。リーダーは冒険者免許を持っているか?」

「はい、あります。十歳になった時、すぐに取りました」

 私は鞄から『冒険者登録証』を取り出した。

 正確には免許ではないのだが、みんなそう言い表すのが当たり前だった。

「なら、問題ない。まさかと思うが……マンドラは?」

「持ってるよ!!」

 マンドラが笑った。

 ……王族で冒険者。なんか、いいなと思った。

「リーダー、次はどこに行く?」

 アンガスが聞いた。

「そうだね、私は自宅とおばあちゃんの村しか知らないから……。噂に聞く迷宮とか洞窟にもチャレンジしたいし、色々あるんだよね」

 私は笑った。

「そうか、なら『ニールの迷宮』にしよう。黄金街道から北方街道に出て、しばらく東にすすむとある有名な場所だ。もう見つかってからかなり経つし、財宝もなにもないが、新米冒険者がよく練習してるぞ。今のメンバーを考えると、そのくらいにしないと危ないな」

 アンガスが笑みを浮かべた。

「分かった、次はニールの迷宮だね」

 私は頷いた。

「迷宮に行くなら、準備が必要だよ。背嚢とかロープとかナイフとか……回復用の魔法薬なんかも欲しいね」

 サマンサが笑った。

「そうだね。練習のつもりで、必要なものを揃えるよ。お金足りるかな……」

 私は財布を出した。

「クリム、迷宮探索にはまずお金が掛かるのです。一つ勉強しましたね。使い古しでよければあげましょう」

 おばあちゃんが空間に裂け目を入れ、中から色々取り出した。

「背嚢のサイズを合わせましょう。立って背負って」

「分かった」

 私は立ち上がり、かなり大きな背嚢を背負った。

 おばあちゃんが、サイズを私に合わせてくれたが、中身が空でもちょっと重かった。

「重さはどうですか?」

「少し重いかな」

 叔母ああちゃんが背嚢の重さを軽くしてくれた。

「まあ、迷宮によっては、荷物が何十キロってパターンもあるからな。リーダーには無理だから、基本的に荷物運びは俺たちでやるよ」

 アンガスが笑った。

「クリム、どうですか?」

「うん、ぴったり!!」

 私は笑った。

 あとはナイフやら双眼鏡やら、おばあちゃんが使っていた様子の道具が揃った。

「使える道具を、わざわざ買う必要はありません。もう私は使わないので」

 おばあちゃんが笑った。

「へえ、色々あるね……」

 私は背嚢を下ろし、中身が空になっている事を確認した。

 そこに、おばあちゃんがくれた道具を入れて、背嚢を閉じた。

「よし、無駄な出費を避けたね。経験がないだろうから、あとは任せて」

 サマンサが笑った。

 こうして、私たちは馬車を食堂とラウンジにして、駐車場での一時を過ごし、適当なところで切り上げて、シャワーと寝るためだけという感じの部屋に入って休んだ。


 翌早朝、あらかじめ決めた集合時間に馬車に集まり馬車の点検をしていると、リズインドたちがやってきた。

「おはようございます。さっそく馬車の準備をしますので、朝食でもどうぞ」

 リズインドは笑みを浮かべた。

「うん、頼んだよ。おばあちゃん、朝ご飯!!」

「はいはい」

 私たちは馬車に乗り、おばあちゃんは朝ごはんの支度を始めた。

 その間、リズインドが御者台で手綱を取り、出費に備えていた。

「朝ごはんいらないのかな?」

「ああ、心配しなくていい。全て、自分で済ませてからここにくる。馬車は任せて、俺たちはゆっくりしよう」

 アンガスが自分の荷物を整理しはじめた。

「よく寝た?」

 サマンサが笑みを浮かべた?

「はい、大丈夫です」

 私は笑みを浮かべた。

「マンドラの部屋なんて、ゴ○ブリがでちゃって大騒ぎだったんだって!!」

「うん、最悪だったよ。ベッドは硬いし、なんか寒いし。二泊はしたくないな」

 マンドラが笑った。

「はい、朝ごはんが出来ましたよ」

「あれ、早いね。ご飯は?」

 私は目玉焼きと味噌汁だけが置かれたカウンターをみた。

「それが、お米が見当たらないのです。今から探す時間もないので、これで済ませてしまいましょう」

 おばあちゃんは笑った。

「うん、分かった」

 私はカウンターについた。

「米なら下の箱で、補充を忘れてしまったな。まあ、時間もないし、走り出す前に済ませた方がいい」

 私たちは慌ただしく食事を済ませ、片付けまで終えた。

「出発準備が整いました。出発しますか?」

 御者台でリズインドが笑みを浮かべた。

「はい、大丈夫です。出発して下さい」

 私が返事をすると、馬車がガタガタ走り始めた。

「ちなみに、ここの別名は『砂の城』だ。金と奴隷市場の税金だけで賄ってるから、町の治安維持まで金が回らない。まさに、砂上の城なんだよ」

 アンガスが笑った。

「そうなんだ……。正直、好きな町ではなかったかな」

 私は苦笑した。

「金商人を相手にした町だからな。面白くはなかったか」

 アンガスが笑った。

 馬車は町を出ると、明るくなってきた砂漠を延々と走り始めた。

「それにしても、壊れた馬車だらけだね……」

「運が悪いと、砂嵐で馬車ごと飛ばされてしまうのです。助かりませんよ」

 リズインドがイタズラっぽくいった。

「へぇ……」

 私は小さく息を吐いた。

 まさに、進むだけで命がけ。

 そんな世界がある事を学んだ。

「そんなに脅すな。まあ、なにもなければ、馬車さえ問題なければいい。小さいのはともかく、大規模な砂嵐なんてよっぽど運が悪くならなきゃ遭わないからな」

 アンガスが笑ってリンゴを囓った。

「そういえば、砂嵐は分かったけど、砂漠に魔物はいないの?」

「いるよ。でも、よっぽどじゃないと出遭わないし、出遭っちゃったら逃げるだけだね。そのくらい強力なのがいるよ」

 サマンサが笑った。

「そ、そうなの。大丈夫かな……」

「心配ないぞ。リズインドが、危ないポイントを全部避けて走っている。嵐がなければ、もうちょっとで抜けるはずだ」

 アンガスが笑った。

「そっか、そういえば静かだなって思っていたんだけど……」

 私は笑みを浮かべた。

 馬車はサラサラという車両が砂を噛む音を出しながら、今回は嵐もなく無事に進んでいた。

 太陽が少し上がり、気温が上がってきた頃になって、馬車は無事に砂漠を抜けて、スルンダに到着した。

「依頼はここで終了です。みなさん、お疲れ様でした。また、機会があったらお会いしましょう」

 リズインドが私と握手して、四人は馬車から降りてった。

「なんか、サッパリしてるね」

「砂の民のプロだからな。必要以上には関わらないんだ。さて、まずはここから一番近いマインドという村を目指そう。余った水や食材の整理もしたいし、ここにはろくな店もないからな」

 アンガスが地図を差し出した。

「うん……、すぐそこだね。いこう」

 私は大きくなって馬車も増え、扱いが少し難しくなった馬車を操り、街道に向かって走り出した。

 しばらくすると村が見えてきたので、私は馬車で村に入った。

「ここがマインドだ。面倒な事は俺がやっておくから、共同浴場で砂を落とすといい」

 アンガスが笑みを浮かべた。

「やっと砂が落とせる。みんな、行こう」

 サマンサが笑い、片付けを始めたアンガスとおばあちゃんをおいて、マンドラ、私、サマンサは、村にある共同浴場に向かった。

「私はお風呂が好きだから嬉しいな」

 私は笑みを浮かべた。

「砂はしつこいから、念入りに髪の毛を洗った方がいいいよ。しばらくジャリジャリするんだよね」

 サマンサが笑った。

「髪の毛を短くしておいてよかった。よし、ゆっくりしよう」

 マンドラが笑った。

 私たちは共同浴場の建物に向かい、小銭を払って中に入った。

 半端な時間のせいか、お湯に浸かっている人は僅かで、快適に過ごせそうだった。

「砂はなかなか落ちないけど、あんまりガシガシやったらだめだよ。どうせ、一週間くらいはジャリジャリするから」

 サマンサが笑った。

「そうなんだ、確かにジャリジャリする……」

 とりあえず、三回洗い程度にして諦め、私は体を洗って湯船に浸かった。

「はぁ、落ちついた……」

 私は大きく息を吐いた。

「せっかちだから適当にシャワーが多いけど、たまにはこういうのもいいか……」

 サマンサが笑った。

「……いけね。城っていいそうになった」

 マンドラがなにか言いかけて引っ込めた。

 マンドラが逃げちゃった王女様だと知っているのは、私と感づいたおばあちゃんだけだった。多分……。

 しばらく浸かってゆっくりしたあと、私たちは共同浴場から出て馬車に戻った。

「よう、ゆっくり出来たか」

 すっかり荷物が減った馬車の中で、アンガスが笑みを浮かべた。

「うん、ありがとう。アンガスもお風呂いっったら?」

「もういったよ。いつでも出られる。ご老体は、買い物だ」

 そういえば、店が少ない村をおばあちゃんが歩き回って買い物をしていた。

 手伝いにいこうかと思ったが、すぐにおばあちゃんが戻ってきた。

「傷薬などを買ってきました。あって損はないでしょう」

 おばあちゃんが笑みを浮かべた。

「あれ、おばあちゃんが薬を買うなんて……。あっ、家ごと装置を!?」

 私はため息を吐いた。

「違います。装置はいくらでも作れますし、昨日の宿で、まとまった数を作ってあります。これは傷の消毒薬です。魔法薬を使うほどでもない傷に気休めでさっと掛けておけば、なにかいい感じがするでしょう」

 おばあちゃんが笑った。

「そ、そうだね……。よかった」

 私は笑った。

「よし、準備完了だな。今からいけば、昼までにはニールの迷宮に着くはずだ」

 アンガスが笑った。

「分かった、いこう!!」

 私は馬車の御者台に乗り、片側の空いている馬車に地図を置いた。

「全員乗ったよ!!」

 サマンサが、私の方を叩いた。

「よし、行こう!!」

 私は手綱を操って馬車を村から街道に出し、地図をチラッとみて街道を進んだ。


 昼の街道は心地よく、私が操る馬車は快調にニールの遺跡を目指していた。

 前方に街道をゆっくり行く商隊を追い抜き、地図を確認しながら草原を走る道を進んでいくと、街道の脇に古びた何かが見えてきた。

「あれがニールの迷宮だ。速度を落として草原に入ってくれ」

「分かった」

 私は馬車をゆっくり草原に乗り入れ、ボロボロの建物に近づいた。

「この迷宮は、地上一階しかないんだ。道もほとんど一本道だし、たまに出る魔物も大した事はない。練習にはいいところだぞ」

「私も最初の頃はみんなと入って練習したよ。迷宮内であまり派手な魔法を撃つと、崩壊しちゃう危険もあるしね!!」

 サマンサが笑った。

「リーダー、気をつけるんだぞ」

 マンドラが笑った。

「うっ……。善処します」

 私は苦笑した。

 そのまま建物に近づいていくと、他にも迷宮に誰かがいるようで、一台の馬車が止まっていた。

「一応、気をつけて。少し離れた場所に駐めて」

 サマンサの声に頷き、私はソロソロと進め、適当だと思う場所に馬車を駐めた。

「はぁ、吐いた。こうして見ると、なかなかだね……」

 初心者用というわりには、外観はなかなか年季が入っていて、妙な威圧感があった。

 私は手綱を適当な木に結びつけて留め、改めて迷宮を目にした。

「えっと、パーティーは俺とサマンサ、マンドラとリーダーだな。俺が先行するから、後をついてきてくれ」

 アンガスが、剣を腰に帯びながら笑みを浮かべた。

「また冒険が出来るよ。やられた時、引退を覚悟したんだよ!!」

 サマンサが笑った。

「引退……。そんなに重大事件だったんだ」

「うん、感情抜きでいうけど、リーダーとマッパーとヒーラーを失った。魔法使いと戦士だけ残って、これどうしたものかと思っていたら、クリムの馬車がきたんだよ。それに混ぜてもらった以上、例え冒険経験があろうがなかろうが、リーダーはクリムなんだ。アドバイスはするから、よろしくね」

 サマンサが笑った。

「そ、そうなんだ……」

 私は苦笑して、杖とライフルを肩に下げた。

「さて、準備しよう。一回馬車に乗って」

「分かった」

 私はサマンサのいう通りに、馬車に飛び乗った。

「そんなに変な迷宮じゃないし、荷物は少なくていいね。傷回復の魔法薬いくつかと毒消しを持って、リーダーは終わりだね」

 サマンサが私の背嚢に荷物を入れ、私が確認した。

「あっ、おばあちゃんの魔法薬だ」

「はい、これはちゃんとした薬です。よく考えて使って下さいね」

 おばあちゃんが笑った。

「うん、大量の魔法薬があるからって分けてもらったんだ。もう、同じパーティーだからだって。すぐに使うものだけ、背嚢に入れるのが基本だよ」

 サマンサが笑った。

「私たちの準備は、時間が掛かるから待ってね。魔力回復……一応持っていくか」

 サマンサがブツブツいいながら準備を始め、マンドラやアンガスも食料を中心に背嚢に入れ始めた。

「これから迷宮か。本で読んで、やってみたいなって思ってた事だよ」

 私は笑みを浮かべた。

「なかなか大変だぞ。まあ、それが面白いんだが」

 アンガスが笑った。

「まあ、それが嫌で冒険者になる人もいないけどね!!」

 サマンサが笑った。

「よし、準備は出来た。リーダーが問題なければいくぞ」

 アンガスが立ち上がった。

「うん、いいよ。おばあちゃん、いってきます」

 私は笑みを浮かべ、馬車から飛び下りた。

 アンガスとサマンサ、マンドラが続き、私たちはアンガスを先頭に、迷宮の入り口に向かって歩いていった。

 暗い入り口を私が明かりの魔法で照らし、アンガスが慎重に入り口の確認をした。

「よし、誰も変なイタズラはしていないな。入って大丈夫だぞ」

 アンガスが迷宮の中に入り、サマンサ、マンドラの後に続くと、肌寒い空気と闇が私たちを覆った。

 朽ちかけた石壁の通路を見ると、あまり派手な魔法は使えないなと思った。

「一応いっておくけど、派手な攻撃禁止ね!!」

「おっ、仕事したな。分かってる!!」

 サマンサが笑った。地図もなにもなく、私が作った明かりの光球一個で、先頭のアンガスは慎重に歩みを進めた。

「……ん、ちょっと待て。戦闘の音がするな」

 アンガスが足を止めた。

「戦闘?」

「ああ、僅かながらだが、地鳴りのような音が聞こえた。多分、戦闘だ。進むか?」

 アンガスに問われ、私は頷いた。

「行こう。なんか、嫌な予感がする……」

 私は小さく息を吐いた。

「分かった。それじゃ進もう。慎重にな……」

 しばらく進むと、爆音が聞こえて天井からパラパラ石が降ってきた。

「ここでこの爆発。なに考えてるの!!」

 サマンサが怒鳴った。

「よし、叱りつけてやろう。急ぐぞ!!」

 アンガスが歩く速さを上げていくと、炎を吐く巨大な蛇のような魔物が通路に陣取り、まさに戦闘が行われていた。

「こりゃ予想外だな。まだ、こんなヘビー級の魔物がいたか……」

 アンガスは剣を抜き、サマンサとマンドラが杖を構えた。

「すまん、救援要請だ。マッパーとヒーラーしか生き残っていない!!」

「分かった。リーダー、どうする?」

「ど、どうするって……。アンガス、突っ込んで。サマンサとマンドラは、ショボい魔法で牽制して!!」

「分かった、行くぞ!!」

 アンガスが剣を構えて突っ込み、サマンサとマンドラが小爆発を繰り返す魔法を連打した。

 私はライフルを構え、目を狙って照準を合わせた。

 引き金を引いて放たれた弾丸が魔物の片目を打ち抜き、蛇は爆発のような火炎を吐き出したが、アンガスは無視してその胴体に剣を突き立てた。

 それで蛇の動きが一瞬固まった瞬間、私はもう一発ライフルを撃ち、もう片目を潰した。 アンガスの剣が蛇の胴体を滅多斬りにし、最後に頭を貫いてトドメをさした。

「どう?」

「問題ない。倒したぞ」

 アンガスの声が聞こえた。

 マンドラとサマンサは、生き残った二人を集め、様子を確認していた。

「この薬かなり効くな。火傷もバッチリ治ったよ」

 アンガスが笑った。

「リーダー、ここで撤退しよう。とにかく、この二人を外に連れて出してケアしないと。四人死んでる」

 サマンサの言葉に、私は衝撃を受けた。

「よ、四人……。分かった、撤退しよう。遺体を弔わないと」

「分かった、遺体は俺が集めるから、リーダーが鎮魂してくれ」

 アンガスが歩き回り、もう動かない死体を集め始めた。

「マンドラとサマンサは、先に出て二人を落ち着かせて。凄い動揺してるのが分かるよ」

「分かった。ほら、とにかく表に出よう……」

 マンドラとサマンサはきた道を引き返し、私はライフルから杖に持ち替えた。

「これでいいいか」

 アンガスが軽く黙祷を捧げ、床に並んだ四人の遺体をみた。

「うん、ありがとう。それじゃ……」

 私の神性魔法で遺体は跡形もなく消え、最後に鎮魂して終えた。

「よし、この迷宮はもう古いから、魔物なんかいないっていわれていたんだ。どういうわけか、迷宮は再現する。もう、なにか始まっているのかもな」

「そうなんだ。怪我が大丈夫なら、地上に戻ろう」

 私は小さく息を吐いた。


 アンガスと地上に戻ると、マンドラとサマンサが頑張ってくれたようで、生存者は私たちの馬車に乗って、おばあちゃんの煎餅を囓っていた。

「おう、大丈夫か!!」

 サマンサが笑った。

「こっちは鎮魂まで終わって問題ない」

 アンガスが笑みを浮かべた。

「さすがだね。こっちも大丈夫だよ。パーティーが壊滅しちゃったから、子供のリーダーでよければ入るって聞いたら、二人とも大丈夫だって」

 マンドラが笑った。

「あの、ありがとうございました。私はマッパーのセリカといいます。こっちはヒーラーのアンズです。よろしくお願いします」

 水色の髪の毛をしたお姉さんが、にこやかにいった。

「紹介されてしまいましたが、私はヒーラーのアンズです。よろしくお願いします」

 赤色の髪の毛をしたお姉さんが、小さく笑みを浮かべた。

「そっか、よろしく。なにも出来ないけど」

 私は笑った。

「よし、俺はアンガスでリーダはクリムだ。よろしく頼む。さっそくだが、あの馬車はそっちのものだよな。荷物の積み替えは終わったか?」

 アンガスが聞いた。

「はい、ちょうど終わったところです」

 セリカが笑みを浮かべた。

「よし、なら売却しないとな」

「はい、ここから十分くらいで町があります。そこで、私たちの馬と馬車を売却しましょう。昼も近いですし、行きましょう」

 セリカが笑みを浮かべた。

「うん、それじゃ行こうか」

「はい、そうしましょう」

 セリカとアンズが自分の馬車に戻り、私たちは馬車に乗り混んだ。

 木に留めていた手綱を解いて御者台に座り、地図を確認してからゆっくり馬車を出した。

 二台続いて街道に出て、しばらく走るとすぐに町があった。

 間違いなくこの街なので、馬車を入れると後方を行くセリカたちの馬車も入ってきて、私たちは町の入り口付近で馬車を駐めた。

 セリカたちの馬車が町の中に入っていき、しばらくして二人が革袋を担いでやってきた。

「お待たせしました。金貨だけで六千枚あります。パーティー資金にして下さい」

 革袋を馬車に積み、セリカが笑った。

「それは豪勢だな。路銀がそろそろなくなりかけて、心配だったんだ」

「あの、パーティー資金って、宴会でもやるの?」

 私がポソッというと、おばあちゃんまで大笑いした。

「違う。このパーティ共用の資金って事だ。そっちのパーティじゃない」

 アンガスにいわれて、私は赤面した。

「それでは、お昼にしますか?」

 アンズが問いかけてきた。

「いや、この街は離れるぞ。目立っちまったからな。変な追跡者がいないか確認したら、そこで昼メシだな。下手な店より、このご老体のメシが美味いぜ」

 アンガスが笑った。

「分かった、このまま街道を走ろう。まずは、行き先は決めないで」

 私が御者台に乗ると、隣に置いておいた地図を退け、セリカが座った。

「これからは、私が地図ですよ。この先はしばらくなにもありません」

「ありがとう。じゃあ、行こう。みんな乗ってるし」

 私は手綱を操り、馬車で街道を走り始めた。

 馬車は草原地帯を走リ抜け、特に問題なく先に進んだ。

「おーい、変なのはいないぜ。そろそろ路肩に捌けて、メシにしようか」

「分かった、適当に駐めるよ」

 私は馬車の速度を落とし、路肩の草原に馬車を進めて駐めた。

「こんなところで食事とは?」

 隣のセリカが聞いてきた。

「おばあちゃんが料理を作るから大丈夫。さて、中で休もう」

 私は笑みを浮かべ、御者台から中に入った。

「はい、ちょうどよく食材があったので、ハヤシライスを作りました。遠慮せずどうぞ」

 おばあちゃんが笑った。

 サマンサがご飯が載ったお皿をみんなに配り、驚いた様子のセリカとアンズにも笑いながら配った。

「これが、このパーティ式だね!!」

 私は笑ったのだった。

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