第5話 初夏の風
一緒に旅する人が増え、私はワクワクしてきた。
「ねぇ、どこにいく?」
昼ご飯の片付けを終え一息入れてるみんなに、私は聞いた。
「この辺りはマハマ平原といって、草原しかないような場所ですよ」
セリカがそっとたち上がった。
「マッパーの初仕事します。馬車の点検をするので、ちょっと待って下さいね」
セリカは笑みを浮かべ、馬車から下りた。
「あっ、私もやる」
私は笑って、すぐ後を飛び下りた。
待っていたセリカは、私が下りると馬車の下に潜り込んだ・
「……ここは平気か。折れると大変なんです」
「へぇ、そうなんだ。なんなら、速度出るようにしようか?」
私は呪文を唱え、車軸を支える金具の潤滑をよくした。
「……このエレメントでいいか。私は創世魔法が得意だから」
「創世魔法とはなんですか?」
セリカが聞いた。
「うん。この世界のものって、全て四大精霊……って分かるかな。『火』『水』『風』『土』の精霊の力で出来ているんだけど、それってエレメントっていう目見えないような細かいブロックをくっつけて組み立てたようなものなんだ。創世魔法は、大きな制約はあるけど、そのブロックを組み直して、新しくしちゃうような感じかな。ああ、だからといって生き物はダメだよ。理で禁じられてるから、やっても効かないし作れないよ」
「そうなんですね。今はどうしたんですか?」
「うん、前後の車軸を今までの木からミスリルに変えて、軸受けも鉄からミスリルに変えちゃった。比較にならないくらい頑丈だし、転がり係数が低いから抵抗も少なくなるし、これを八頭で引いたら、速さ自慢の高速郵便馬車と街道レース出来ちゃうかもしれないよ!!」
私は笑った。
「なるほど、かなりの知識があるようですね。では、このナイフは直せますか。使い込み過ぎて、折れそうなんです」
セリカは、ボロボロのナイフを差し出した。
「罠を解除する時に使うのですが、固いものの隙間に差しこんで、抉るために使っているので、どうしても痛んでしまうのです。買えばいいのですが、微妙な感覚が違うとこの……もう!!って感じになってしまうので」
セリカが笑った。
「分かった。はい!!」
ボロボロのナイフが、一瞬で綺麗な刃を持つ新品のようなナイフに変わった。
「はい、できた!!」
「一瞬ですね、ありがとうございます。では、さっそく……」
セリカは、綺麗になったナイフで、馬車のあちこちにある隙間の点検を始めた。
「……気に入らないな。セリカ、ちょっといい。馬車の足回りを全部直すよ。一回外に出て!!」
「は、はい。なにを直すんですか?」
「こんな板バネもない車輪でガタガタ街道を進んだら、もう疲れてしょうがないよ。車輪もゴム使うかな……悪路を考えると、板バネのレートは……」
私はノートを取り出すと、簡単な仕様を次々とはじき出していった。
「く、詳しいですね」
「うん、色々勉強したんだよ。お陰で、おばあちゃんの家があった村じゃ喜ばれたよ」
私は笑い、馬車の足回りの設計段階に入った。
ノートに定規とペンでラフな図面を書き、必要な数値はメジャーで測ったり、目で見て頭ではじき出したりしながら、最終設計を終えた。
「これなら悪路も強くて、街道の荒れた石畳でも少しは快適かな。あまり揺れると、おばあちゃんが料理していたら危ないしね。街道で高速走行しても、この足回りなら壊れないね」
私は満足し、手でセリカに馬車から離れるように示し、呪文を唱えた。
馬車が一瞬光り、素朴な車軸だけだった足回りが板バネ付きの頑丈なものに変わった。
「うん、出来た。セリカ、一緒に点検しよう!!」
「……はい、凄い」
半ば唖然としていたセリカが、軽く頭を振って私と一緒に馬車の下に潜り込んだ。
「また変わりましたね。複雑過ぎて、なにがなにやら」
「これ、メンテナンス方法だよ!!」
私はノートのページを破き、セリカに手渡した。
「うわっ……失礼。これは大変ですね、手順が……」
「慣れちゃえば簡単だよ。うん、問題ないね」
私は各所をみて、出来の具合をみて満足した。
「これどうなって……ああ、なるほど」
セリカは真顔になり、さっきのナイフであちこちの隙間をホジホジしながら、なにか学んでいるようだった。
「板バネだから構造は単純だと思うよ。終わったら馬の世話をしよう」
「はい、私はしばらくホジホジしています。いきなり、近代的になったので……」
セリカがメモを通りながら、うなり声を上げた。
「分かった。私がやっておく」
私が馬車の下から這い出ると、みんな降りてきていて足回りが変わった馬車をマジマジ見つめていた。
「クリムの特技なんですよ。村ではみんなに喜ばれていました」
おばあちゃんが笑った。
「な、なんか格好いい!!」
マンドラが御者台に飛び乗った。
「ここは変えないの?」
「そこは下手に弄ると、いざという時飛び下りられないよ。まあ、危ないから二点式のベルトくらい付けておこうかな」
こんなの簡単なので、私は呪文無詠唱で御者台にベルトをつけた。
「もっとやろうよ。座り心地悪くて、腰が痛いんだよね。
本来、馬車に乗っている方のマンドラが笑った。
「雨ざらしだから、なにかしても痛んじゃうよ。色を変えるくらいじゃない?」
「ピンク!!」
「……」
私は無言で座席の色を変えた。
「おお、いいじゃん。馬車の車体の色も変えよう。迷彩!!」
「……」
私は馬車の車体を幌まで含めて、自動的に周囲の景色に合わせて解け込むような塗装に変え、ニヤッとした。
「完成!!」
「おい、座席だけピンクって変じゃないか?」
アンガスが笑った。
「ピンクがいい!!」
マンドラが笑った。
「あの、水玉ピンクで……」
アンズが遠慮がちにいった。
「……」
椅子の色が白水玉のピンクに変わった。
「あー、ピンク!!」
椅子の色がピンクに変わった。
「座る人が好きな色に変わるようにしいておいたよ。マンドラ、降りてみて」
「分かった」
マンドラが降りると、椅子が自動迷彩になった。
「……侍女やる?」
マンドラがポソッと呟いた。
「いいよ!!」
私は笑った。
「この子ホントに十才なの。私はこんな魔法使えないよ!!」
サマンサが苦笑した。
「はい、興味旺盛で色々やっては破壊して、それを直してまた破壊して……私の教えが悪いのか、被害総額は凄まじいですよ」
おばあちゃんが笑った。
「うん、いっぱいぶっ壊して直して、そこから改良したんだよ。研究は大事だって、おばあちゃんが教えてくれたから」
「その結果がこれかい。どこの上級魔法使いだ!!」
サマンサが笑った。
「魔法はトライアンドエラー。失敗を重ねて完成させるものですよ。さて、出発しないとここで夜になってしまいますよ」
おばあちゃんが笑みを浮かべた。
「あっ、遊んでる場合じゃなかった。あれ、セリカがいない……」
私は馬車の下を覗くと、まだ隙間にナイフを差しこんではホジホジして、構造を調べていた。
「もういいからいこうよ」
「ダメです。確認も私の仕事です。これが大丈夫なのか、ちゃんと自信を持っていえるようにならないと……」
どうやら、なにかプライドがあるようで、セリカは熱心になにか研究していた。
「人の研究の邪魔しちゃいけないね。暇だから、なんかぶっ放そうかな……」
「あっ、それやる!!」
サマンサが杖を構えた。
「よし、やろう。なにする?」
「うん、あのボロい砦みたいな跡があるでしょ。あれぶっ壊そう!!」
サマンサが笑った。
「うん、やる!!」
私は空間の裂け目から杖を取りだし、杖を手に取った。
「じゃあ、いくよ……ぶっ壊れろ!!」
「……スターダスト!!」
サマンサと私が同時にはなった攻撃魔法で、ボロボロだった砦跡は跡形もなく吹き飛び、派手な爆煙が上がった。
「よし、ぶっ飛んだ!!」
サマンサが笑った。
「うん、邪魔だしいいよね!!」
私は笑った。
「ダメです。あの砦跡は歴史的に貴重で……えっと、この構造は」
馬車の下からセリカの呟き声が聞こえ、私は静かに杖を空間の裂け目にしまった。
「……また一つ、遺産が消えた」
セリカの声が聞こえ、サマンサがホウキを取り出した。
「ね、ねぇ、これなんだけど、最近調子悪くて……」
「そ、そうなの。み、みてみようか?」
アリサが引きつった笑みを浮かべ、多分私も同じだった。
「さて、どうしましょうねぇ」
おばあちゃんが笑い、馬車に乗っていった。
「……ど、どうしよう。大事なものだったら」
私は額の汗を拭いた。
「そ、創世魔法でなんとかならないの?」
「事前の細かいところが分からないと、同じ物は作れないんだよ……」
私はため息を吐いた。
「あーあ、侍女ちゃんが落ち込んじゃった。あれは、遺産っていっても保護対象にもなってない岩と同じだから、問題ないよ!!」
マンドラが笑った。
「リーダー、ぶちかましたな!!」
アンガスが笑った。
「凄いです。私は回復専門なので」
アンズが、笑みを浮かべた。
「回復専門なんだ。ヒーラーだから当たり前といえば当たり前だけど、回復系の魔法って難しくて……」
「そんな事はないですよ。慈しみの心。これが全てです」
アンズが笑った。
「い、慈しみ……まあ、そうだね。それにしてもこのホウキ、ちゃんとメンテしてないでしょ。これじゃ、魔力ばっかり食って速度でないよ」
私は苦笑した。
「そうなんだよ。魔力の生ガスばっかり吹いて臭いし、いっそ作り直した方が早いかもって感じなんだけど……」
サマンサが苦笑した。
「ダメだよ、ホウキが可哀想だよ。あれ、これなんだ……」
私は通常のホウキでは見当たらない、変な大きなコブのようなものを見つけ、ポケットからナイフを出して、軽く突いてみた。
「……なんだこれ?」
「さぁ、私も初めてみた。取っちゃう?」
サマンサに頷き、私はコブの根元をナイフでズバッと切った。
瞬間、辺り一面魔力光の青白い光りに包まれ、未消費魔力のパンパンに溜まった生ガスがドバーッと辺りにぶちまけられ、凄まじい悪臭がまき散らされた。
「ぶわ!?」
思わず切り取ったコブをぶん投げると、それが馬車の中に入ってしまい、おばあちゃんが飛びでてきて倒れた。
「お、おばあちゃん!?」
悪臭にもめげず、さっそくアンズがおばあちゃんの回復処置をしてくれた。
凄まじい悪臭はどこまで拡がったのか、街道のあちこちで馬車から御者が落ちて交通事故が多発し、街道警備隊が大慌てで出動する騒ぎにまで発展してしまった。
「あーあ、やっちまったな。しっかし、くせぇな!!」
頑丈らしいアンガスが笑った。
「ああ、このホウキ捨てて作り変える。もし、空中で爆発してたら死んでた……」
サマンサがゲホゲホいいながらいった。
「だから、メンテが大事なんだよ。おばあちゃんに教えてもらったら?」
私は地面にひっくり返った。
馬車下では、何かの職人のように、カレンが鼻を摘まみながら、相変わらずなにか調べている様子で、これはいつ出発出来るか分からない有様になってしまった。
「……余計な事しちゃったかな」
私は小さく息を吐いた。
「いいんじゃない、私の侍女ちゃん!!」
マンドラが笑った。
結局、カレンの大丈夫だという許可は夕方には出たが、生ガス大噴射事故のせいで街道が通行止めになってしまい、私たちは草原で足止めを食っていた。
しかし、原因が全て自分たちなので誰にも文句をいえず、すぐさま復活した頑丈なおばあちゃんが馬車の中で晩ご飯を作り、私たちは馬車の中でそれぞれに時間を過ごしていた。
サマンサが一度自分のホウキをバラし、軸となる柄を点検しながら唸っていた。
「これ、ちゃんと削れば大丈夫だと思うんだけどな……。リーダー、どう思う?」
「そうだねぇ、少し痛んでいるけどまだ使えると思うよ。樫の木ならそう簡単にはダメにならないし」
私が答えると、サマンサが特殊油を染みこませた布で、せっせと柄を磨き始めた。
「ねぇ、侍女ちゃんの服可愛いけど、私好みにしていい?」
マンドラが聞いてきた。
「うん、いいよ。動きにくいのは嫌だけど……」
「大丈夫。作業服みたいなものだから、サイズあったかな……」
マンドラが空間の裂け目を開き、手を入れた。
「あれ、魔法使えるの?」
「うん、簡単なものならね。あとは明かりくらいだよ。さて、十才か……」
マンドラはなにか楽しそうに呟きながら、空間の裂け目からなんかお城っぽい服を取り出した。
「ええ!?」
「正式な侍女の制服だよ。これからは、これの着用を義務づける。召し抱えた!!」
マンドラが笑った。
「あれ、そんなの持って王族なの?」
サマンサが不思議そうな顔をした。
「違うよ。暇だから量産したんだ。さて、着替えて!!」
「い、いいけど……」
アンガスは外で剣を振っているし、女の子だけだがこんな服初めてなので困った。
「ダメ、ちゃんと着て。王族は捨てたつもりだけど、すぐには慣れなくてね。お付きの人がいないと寂しいの」
マンドラが笑った。
「あ、あの、私みたいな田舎娘になにを……」
「だからいいの。可愛くて!!」
マンドラが笑った。
まあ、抵抗しても無駄なようなので、私は侍女の制服に着替えた。
「うん、落ち着いた。これ、慣れるの大変かも」
マンドラがそっといった。
「私もだよ。お城なんて、近寄った時もないよ。なにも出来ないし……」
「いればいいよ、私の我が儘な満足聞いてくれてありがとう!!」
マンドラが私の頭を撫でた。
「おっ、リーダー可愛くて似合ってるじゃん。それより、このコブどうする。また、ぶちまけたらシャレにならないしなぁ」
サマンサが困った顔をした。
「一度軸から魔力を抜けばいいのです。ただ、そのコブの数だとかなりの量になる上に、内部でかなり腐敗しているので、私の見解ではその軸はもうダメだと思いますが、いかがですか?」
料理をしながら、おばあちゃんがサマンサにいった。
「……そうだね。これだけ抜いたら、今度は私が破裂しちゃうよ。腐敗魔力は体に毒だし新しく削るしかないね」
サマンサがため息を吐き、空間の裂け目から真新しい軸を取り出した。
「侍女ちゃん、ホウキって大変なの?」
マンドラが着替えついでに私の頭を撫でながら、不思議そうに問いかけてきた。
「単純ではあるんだよ。軸だけ気をつければいいから。軸を削ってホウキにして、最初に魔力を込めて……ここが怖い。失敗すると軸が破裂しちゃう……。って、感じで最初にヒヤヒヤするけど、魔力さえ入っちゃえば、あとは使い込む程いいホウキになるよ」
私は笑った。
「そうなんだよ、魔力入れがいまだに怖いんだよ。どうもこう、ジワジワと……」
サマンサがため息を吐いた。
「コツがあります。まずは、魔力を自然に放出して軸に吸わせるんです。込めるんだではなく、あー怠いなぁ……みたいな感覚ですね。すると、軸の方から吸い始めるので徐々に強くしていけばいいのです。焦ってはダメですよ。軸には個性があります」
おばあちゃんが笑った。
「そっか、できるかな……。まあ、まずは軸を削らないと、これはすぐ出来る」
サマンサが小刀で新しい軸を削り始め、滅多に見ないからか、カレンが珍しそうにその様子を見つめ、アンズは分厚い魔法書を開いて、黙々とメモしながら読んでいた。
「ねぇ、侍女ちゃん。もう一個我が儘きいて、髪型弄っていい? 短く切れとかいわなから。せっかく腰まであるのに、ただのポニーテールじゃ寂しいから」
「いいけど、どんなの?」
「うん、可愛くするだけ。いい?」
マンドラが笑みを浮かべた。
「いいよ。好きにして」
「ありがとう。どうしようかな……」
マンドラが一度私の髪の毛を全て下ろして丁寧にブラッシングしてから、なにやらこねこねとややこしい事を始めた。
「しっかし、樫の木って固いんだよね……。よっと、削れた。さて、魔力入れ……えっと、自然に放出~」
サマンサが軸を抱えて、床に横になった。
「古い軸を処理する時は、普通に焼却では危なくてダメでしょう。魔力が詰まり過ぎていますので、大爆発を起こしかねません。これは困りましたね。本来は、持ち主の責任で処理するところですが、これは私がなんとかしましょう」
料理が一段落付いたのか、おばあちゃんがサマンサのホウキの廃棄する軸を手に、長い呪文を唱え始めた。
「おばあちゃん、それ生ゴミ処理用の……」
「同じですよ。魔力は生命エネルギーの滴です。生き物といってもいいでしょう。安らかに感謝の念を込めて、精霊の腕に返すのです。そうすれば、暴れたりしません」
おばあちゃんが唱える呪文が子守唄のように流れ、古い軸はすっと姿を消した。
「はい、完了です。ちゃんと手入れして下さいね。さて、煙草を吸ってきます」
おばあちゃんが馬車から降り、楽しみの煙草を吸いにパイプを持って馬車の外に出た。
「……リーダーのおばあちゃん素敵過ぎ。掘れた」
サマンサが小さく笑った。
「いいおばあちゃんだね。でも、これからは私のいうことも聞いてね。侍女ちゃん」
私の髪の毛を編みながら、マンドラが笑った。
「い、いいけど、変なことお願いしないでよ」
「しないよ。侍女は大事だもん」
マンドラが笑った。
「……知ってるぞ。逃げた王族ってマンドラだろ。私とアンガスの情報網を甘くみないでねぇ」
床で目を閉じながら、サマンサがニヤリとした。
「うわ、バレてた……」
マンドラがため息を吐いた。
「そ、そうなんですか!?」
カレンが慌てて声を上げ、アンズがポカンとした。
「みんな、気にしちゃダメだよ。せっかく逃げたのに、可哀想だから」
私は慌てて声を上げた。
「目下大騒ぎだもん、当たり前だよ。まあ、とっ捕まえて城に連れていこうなんて思ってないし、このパーティーはお気に入りだからね。でも、端金狙ってるヤツもいるから、そこは気をつけて。まあ、その様子じゃ、常にリーダーがくっついてるから平気だろうけど」
サマンサが笑った。
「そうでしたか、気が付かなかったです。驚いただけなので、私は気にしていないですよ」
カレンが笑みを浮かべた。
「私もです。王族の方を初めてみたので、ちょっと感動です」
アンズが笑った。
「そっか、みんなありがとう。これは、常に侍女ちゃん抱えてないと。いざとなったら、ドカン!!」
マンドラが笑った。
「うん、やるだけの事はするよ。助けてもらったし」
私は頷いた。
「そんなに気負わなくていいよ。侍女ちゃんの心得その一、私についてこい!!」
マンドラが笑い、サマンサが吹き出した。
「完全に家来じゃん。まあ、面白いけど。さて、いいかな。みんな、ちょっとだけ静かにしてて……」
サマンサが起き上がり、抱えていた軸を立てて持って息を吹いた。
「破裂しちゃったら、うるさいからゴメンね!!」
サマンサは静かに軸に魔力を込め、やがて一瞬軸が光った。
「ふぅ、完成。あとは、ホウキにしないと……」
サマンサがホウキ作りを始め、おばあちゃんが戻ってきた。
「街道の通行止めは解除になったようです。もう夜になってしまいましたが、ご飯が済んだら出発しないと、さすがに同じ場所に駐めすぎで、族に目をつけられているかもしれません。今はアンガスさんが、周辺を警戒しています」
おばあちゃんが料理の続きを始め、サマンサが慣れた様子でホウキを作りはじめ、カレンが鞄の中を確認し始めた。
アンズが小さく呪文を唱え、軽く魔力の流れを感じた。
「弱い結界魔法です。アラームが使えないので、代用しました」
アンズが笑みを浮かべた。
「よし、私も急ごう。待っててね、すぐ出来るから」
マンドラが私の髪を結う速度を上げた。
「なんか、どえらく手間かけてない?」
私はマンドラに聞いた。
「そうでもないよ。私が現役だった頃なんて、侍女三人で一時間近く掛けて私の髪型を、なんか無駄にごちゃごちゃやっってたもん。こんなの軽い」
マンドラが笑みを浮かべた。
「へぇ……大変だね」
「だから逃げたの。やってられん!!」
マンドラが笑った。
それからしばらくして、マンドラは私の髪の毛を仕上げた。
「ほら、見る?」
マンドラは手鏡で私の顔を映した。
「……誰?」
私はポカンとした。
「どうだ、私だって出来るんだぞ!!」
マンドラが笑った。
「あら、可愛くなりましたね。ロイヤルな感じが素敵ですよ」
おばあちゃんが吹き出した。
「……あの、王族のマンドラが普通で、私がロイヤルなナイスガールってどういうこと?」
私は小首を傾げた。
「いいじゃん、面白くて!!」
よく分からないが、マンドラがなんか満足してるので私はよしとした。
「さて、お待たせしました。ご飯が出来ました。みなさん、急かすようで申し訳ありませんが、急ぎましょう。ここはもう、とっくに危険エリアです」
おばあちゃんの料理ができあがり、急ぎといいながら結構時間が掛かるビーフシチューを外から入ってきたアンガスも交えて、もったいないけど急ぎで食べはじめた。
「なんだ、馬車に続いてリーダーまでイメチェンしたのか?」
アンガスが笑った。
「イメチェンじゃなくて、侍女に任命したんだ。このままだからよろしく!!」
マンドラが笑った。
「そりゃ大変だ。さて、美味いなこれ……フォンドボー?」
「アンガス、知らないのに知ってるようなこというな!!」
サマンサが笑った。
「リーダー、どこに向かいますか?」
カレンが聞いた。
「もう夜でしょ、どっか近くの町に……
「それが、この辺りは本当になにもないので、一番近い町でも徹夜走行になります。頑丈な馬車になって助かりました」
セリカが頷いた。
「分かった。全部片付いたら、とにかく移動しよう。場所はカレンに任せるよ」
「分かりました。お任せ下さい」
カレンが頷いて笑みを浮かべ、みんなが食べ終わった食器を集めて、おばあちゃんに任せた。
「はい、片付けをしますので、準備をお願いします」
おばあちゃんが食器を魔法で洗い始め、テキパキと片付けを始めた。
「私は外回りをみてくるよ、出発前の安全確認」
私は御者台に上り、置いてあったビノクラーで周囲を一周ゆっくり監視した。
ちなみに、このビノクラーこと双眼鏡は特別なものではなく、主に業者向けではあるが、道具屋で暗視機能付きが簡単に手に入るが、結構高いので大事にしないといけないものだった。
「……?」
緑掛かった色に見える暗視モードの視界の中に、まるでキツネのような赤い目を光らせた魔獣がいた。
「ヤバい、ハンタードッグに狙われてる!!」
大声を出し、私はライフルを構えた。
ハンタードッグとは、数十頭の群れを作る半分魔物の獣で、こうやって一体がじっくり標的を監視して、頃合いとみるや仲間を呼んで、一気に遅いか掛かってくる草原特有の夜行性の敵だった。
私は暗視モードのライフルのスコープを除き、見張りの一体を即座に排除した。
これで、待機していた仲間は危険と判断して、一目散に逃げ出すはずだった。
「よし、問題ない。またきちゃうと困るから早く出よう!!」
素早く隣にカレンが座り、私が手綱を取ろうとすると、マンドラが優しく私を馬車内に引き込んだ。
「侍女ちゃんは、夜は危ないからダメ。ちゃんと休んで」
マンドラが笑みを浮かべた。
「夜だから俺がやるか。かなり変わっちまったが、普通の馬車の扱い方でいいのか?」
アンガスが聞いてきた。
「うん。座ったら、『明かり』っていって。前を照らす照明も魔法で付けたから、少しは楽でしょ?」
「そりゃかなり楽だな。速度も出せるし。分かった」
アンガスが御者台に座り、明かりという声が聞こえた。
「うぉ、思った以上に明るいな。これ、かえって目立つかも知れんが、楽は楽だ。こんな馬車、他にないから自慢出来るぞ」
アンガスが笑い、手綱を鳴らすと馬車が動き始めた。
「あれ、乗り心地が全然違うじゃん!!」
サマンサが笑った。
「うん、板バネで衝撃を吸収するようにしたんだけど、それだけじゃいつまでもフワフワして気持ち悪いから、それを抑えるような装置も付けたんだ。車輪も表を薄い樹脂の風船みたいなもので覆ったから、ドガン!!って衝撃も多少はよくなったと思うよ。静かだし」
私は笑った。
「確かに、ガラガラいわなくなったね。侍女ちゃんよくやった!!」
マンドラが笑った。
「これなら読書も出来ます。いいですね」
アンズが笑みを浮かべた。
「よし、ホウキ出来た。はぁ、臭かったなぁ」
新しいホウキを片手に、サマンサが笑った。
「ところで、侍女ちゃん。創世魔法って、他に使える人はいるの?」
マンドラが少し真面目に問いかけてきた。
「同じ事を考えなければ、多分いないと思うよ。私が一から研究して作ったんだ。ついぶっ壊してばっかりで直せないから、せめて新しいものを作って、ごめんなさいしようって考えたんだよ。それでも悪い事は分かってるけど」
私は小さく息を吐いた。
「ならいいや、にせ王女からいうことなし!!」
マンドラが笑った。
「はぁ、私より魔法使いかもね!!」
サマンサが笑った。
こうして、特に目的地も決めず、とりあえず逃げるだけのような感じで、私たちはようやく旅を再開したのだった。
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