第13話 敗因?
「ああ、久方ぶりの風呂だ………! なんと心地よいのだろうか!」
シレンは湯船に浸かりながら、感傷に浸る。今まで森の中で身動きがとれなかっただけに、人間の風呂という事実さえも忘れて感動しているようだった。感動のあまり目に涙を浮かべている。
「風呂は小さくて狭いけど、こんな日が来るなんて! 生きててよかった!」
もっとも、人間の風呂と分かったうえで気持ちよく感じているのかもしれない。
◇
シレンは風呂から上がって、体をタオルで拭う。この家にサイズの合う服がないので仕方なく元の服を着るか、裸でいるかするしかない。元の服は汚れているが我慢すればいいかもしれない………とは思わなかった。
「………私の服は明日洗うか。このタオルを体に巻けばいい。裸でうろつくよりはましだろう」
タオルを体に巻いて過ごす。せっかく綺麗になったのだから汚い服はシレンも着たくなかった。
本来のシレンならそんな選択はしないが、彼女はすでに吹っ切れていた。それだけの経験をこの家でしたからだ。経験というのは神々の知らない人間の技術文明のことだ。全てを知ったわけではないが、断片だけを垣間見ただけで驚かされたものだ。
「………知らなかったな。人間の文明がこんなに発達したものだったなんて。本当に何も知らなかったよ」
シレンは考える。自分達は人間のことをほとんど知らなかった。人間の管理については、部下の天使や使徒に任せきりでいた。自分たちは知ろうともしなかった。
………それが敗因なのではないか、と。
(人間は短命で無力、無知無能。それが神々の常識だった。我らを崇めるのも当たり前。それなのに、いつしか我らに反抗するようになって部下たちに鎮圧させてきたが……)
やがて差し向けた天使や使徒が敗れるようになり、神が直々に出向くようになってから『人間も強くなった』と笑い話をした記憶がシレンにあった。
人間に滅ぼされた神のことを聞いたときは、「何を馬鹿な」と思ったが、一人また一人と神が滅ぼされたと聞いたときも「情けない奴がいたものだ」と笑っただけだった。本気で取り合わなかったのだ。
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