第12話 風呂!
(………私はそんな風に思われるほど落ちぶれてしまったのか?)
「どうしたの? 大丈夫?」
「………いや、何でもない。ちょっと考え事していただけだ」
「そんじゃあ、もうお風呂入ろうよ。こんな時間だし」
「ん? 今度は風呂か」
風呂と聞いてシレンは気になった。やっと、森の中で動けなかった体を洗えるからだ。ただ、気になったのはそれだけではなかった。「人間の風呂」に興味を持ったのだ。
冷蔵庫、電子レンジ、レトルト食品。これらには驚かされた。人間の文明は私の、神々の想像を越えている。これから目にする風呂もそうなのかもしれん
シレンは期待に満ちた気持ちで冬樹に案内されて風呂場に足を運んだ。そして、
「狭い!」
がっかりした。
思ったよりも湯船も風呂場そのものも、シレンの思っていたよりも狭いのだ。神々の風呂場は広くて豪華なのに対して、目の前の風呂場は狭くて貧乏臭く見える。
「何が?」
「風呂だ! 何故、こんなに狭いのだ! しかも地味だ! 地味すぎる!」
期待していただけに、文句を大声で飛ばすシレン。冬樹は不思議そうに答える。
「広いといいの?」
「は?」
「お風呂だよ? ちょうどよくない? それに地味でもいいんじゃない? 僕らしかいないし」
「そ、そうか? そうなのか?」
言われてみて考えるシレン。確かに広ければいいと言うわけでもないし、人間の使う前提なのだから妥協するしかない。
(いや、そもそも風呂にまで期待するのが間違っていたのではないか? 人間だし)
シレンは仕方がないと割り切って我慢することにした。
「ふん。やむをえん。これで我慢しよう。ならば、すぐに湯を張れ」
「うん!」
冬樹は赤いマークの蛇口をひねる。するとお湯が流れるからシレンが目を向く。
「な、何だと!? こ、こんなところから湯が! どういうことだ!?」
「ん~と、分かんない!」
「んなあっ!?」
この後もシャワーの使い方だったり、シャンプーやリンスの使い方だったり、シレンは質問攻めを始めた。冬樹の口から納得のいく答えは聞けなかったが、とりあえず風呂場のことは大体理解できた。
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