第7話 一人?



「ほう。ここがお前の家か。そこそこの大きさだな」


 女神が案内された少年の家は、一般の家よりも大きかった。それどころか大家族が住んでいてもおかしくないくらいのものだ。見たところ、部屋もたくさんあるだろう。しかし、女神はそれだけに少年の家族について気になった。


(マズいな。これだけ大きな家に住んでいるということは、結構家族がいるようだな。これは誤魔化すのに一苦労しそうだ。私の戻った力も全力の一割程度にも満たないし……)


 女神はもっと早く少年の家族構成を聞けばよかったと後悔した。だが、そんな悩みは少年の一言で解決した。


「今日から僕とおねえさんの二人きりで暮らすんだね。今の僕、家族居ないから」


「何? 本当か!?」


「うん。他の人なんて知らないよ」


「そうか、都合がいい……のか?」


「?」


 少年に家族はいない。その事実は女神にとって都合がよかったと思う反面、不安にも思わせた。


(家族がいない? こいつだけ? それはそれでマズいな。もう一人か二人くらい使える手駒ができればいいと思ったのだが……)


 他に家族――両親か兄弟でもいれば、一人二人かは操れる。幼い少年だけが味方だと心もとない。この時、女神は初めて少年自身に興味を持った。


(こいつは何なのだ? こんな森に養ってくれる者も傍にいないで入ってくるなんて、どういう環境で育っているんだ?)


「……お前、どういうふうに育っているんだ? こんな家に一人で暮らしているなんて尋常じゃないぞ」


「どういうふうにって? う~んとね、前はじいちゃんが生きてたんだけど死んじゃったの。その後からここで一人で暮らしてるの」


 女神に出会う前には祖父がいた。そこからは一人で暮らしているという。


「ほう、たった一人で生きているということか。思ったより逞しいな」


「えへへ。誉められちゃった」


「そうだ。誇っていいぞ」


「えへへ。ありがとう」


 女神は少年を誉める。少年はにやけてしまうが、女神はその間に分析する。


(だが、こんな小さな子供が一人でか。祖父にあたる男が死んでから日が浅いから仕方ないか)


 少年の祖父は1週間程前に死んだらしい。家の隣にある墓を見れば分かる。恐らく、少年は家の中にある食料を頼りに生きてきたのだろう。


(こうなると思ったよりも使える人間は限られるな。最悪、こいつだけしか味方にならないかもしれない。ならばせめて、こいつだけでも絶対に私を裏切れないようにしよう)


 そう思った女神は、少年との結束を作るために少年に提案を持ちかける。

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