第5話 回復?

 そんな彼女に少年は水筒を差し出す。


「要らぬ! 人間のほどこしなど………おい、何だそれは? ただの飲み物ではないな」


「これね。探検に出る前にね。おじいちゃんが残してくれたお薬を混ぜたの。大切な人のために使う薬だって」


「! ほう、回復薬の類いか」


 外した蓋から漏れ出る癒しの力。感じた限りでは中々上級の回復薬のようだ。女神は少し迷ったが飲むことにした。


「………よかろう。本来なら、断るところだが貰ってやることにしよう。光栄に思うがいい」


「ほんと! よかったあ、おねえさん傷だらけで心配だったんだ」


「………人間に心配されるとはな。まあ、これで少しくらいは回復するだろうな」


 女神は何とか右手を動かして水筒を受け取ると、ゆっくりと口に運ぶ。体が満足に動かないため、動きがぎこちない。


「大丈夫? 手伝おうか?」


「要らぬ!」


 人間が嫌いな女神は何とか自力で水筒の水を飲み干した。すると、すぐに変化が起こった。傷がみるみる治っていくのだ。


「おお、驚いたな。予想以上の効果だ。これなら体も動かせるぞ」


「そうなの? よかったあ!」


「ん? これは………?」


 女神の体は傷が治っただけではなかった。動かせるようになったのもそうだが、彼女にとって懐かしい力が僅かに込み上げてきたのだ。


「こ、これは! 私の、神の力が戻ってくる!?」


 女神が感じたのは失ったはずの神の力だった。五年前の戦いで失われた力。それが一割にも満たないが体の内側から感じられるのだ。


「こ、こんなことが………! む? これで終わりか?」


 ただし、本当に僅かだけだった。これ以上は戻ってこないようだ。女神は水筒を眺める。


「どうしたの?」


「………おい、私は何を飲んだのだ?」


 女神の視線が少年に移った。質問をかけるが戻ってきたのは納得できない答えだった。


「ただのお薬だよ?」


「そんなわけないだろ!」


 女神が納得できないのも無理はない。力を失った神が力を取り戻すことはないとされていた。それなのに、少年の持っていた回復薬らしい水を飲んだだけで、女神は僅かに力を取り戻してしまった。大変なことだ。彼女の中で歴史的大発見と言ってもよかった。


「少年よ。お前の祖父が残したと言ったな。まだ残っているのか?」


「うーん、分かんない。ボクが倉庫から勝手に持ち出しただけだから」


「そうか………」


 女神は考える。正直、力を取り戻すことは期待していなかった。あり得ないと思っていたが、知らないだけで方法ならあるのかもしれない。

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