第3話 少年!



 あれから五年が過ぎた。


「………」


 女神はまだ生きていた。しかし、その銀色の瞳に生気はなかった。美しかった姿はボロボロで見る影もない。彼女の体は回復も悪化もしないでいた。人にはあり得ないが神ならあり得るのだ。だが、その神の性質は今の彼女には苦痛でしかない。自然回復しなければ、これ以上悪化することもない体がこんなに苦になるとは思わなかった。


「いつまで………こんな………」


 希望を見いだせなくなった女神は早く死ぬことを望んでいた。彼女の精神はそれほど追い詰められていたのだ。


「早く………死にたい………こんなことなら……あの時……」


 体が動かないから自殺も出来ない。この五年はいつも同じことばかり考えていた。何故、人類は反旗を翻したのか、神々が負けたのか、人類が強くなれた理由は何なのか………何故、人類はそこまで神々を憎んだのか。いくら考えても女神には分からなかった。


 そんな時だった。


「ここで何してるの?」


「………ん? なあっ!? に、人間!?」


 女神の目の前に人間が現れたのだ。久しぶりに聞いた人間の声に女神は動揺を隠せなかった。


「な、何だ! わ、私を討ち取りにきたか!」


「うちとり? なにいってるの?」


「な、何って………子供?」


 女神は身構えようとしたが、相手がただの子供と分かって動きを止めた。そして、疑問に思った。


(何故、こんな子供がやってくるのだ?)


 相手は十歳くらいの少年だった。しかも、黒髪黒目で大した力のなさそうな子供だ。女神から見ても特別な力がないと分かる。


「おねえさん、ここで何してるの? ひとりなの?」


「………まあ、一人だ。お前は何だ?」


「ぼく? 僕の名前は冬樹」


 女神は苛々した。名前を聞いた訳ではなく何者なのか、目的は何なのかという意味で聞いたのだが、相手は幼いためここは我慢した。本来の彼女なら、「愚か者」と言って罵って殺してしまうところだった。


「………目的は何だ」


「目的? 探検だよ」


「探検だと? 何のために? 何を求めている?」


 女神は警戒を強めた。誰かが子供を使ってまで自分を探し出そうとしている可能性もなくはない。


「求めている? 何かすごそうなものだよ!」


「っ!? すごそうなものだと!? 具体的にそれはなんだ!」


 女神の顔に冷や汗が流れる。彼女の頭の中で「すごそうなもの」は自分がそうなのだ。少年の答えを待つ。

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