第2話 死亡?

 青年の後ろには多くの人々が待っていた。その誰もが大歓声を叫んだ。中には、喜び笑い泣いて、互いを抱きしめ合うなどしていた。


「これで、終わった。これからは俺たち人類の輝かしい世界が始まるんだ!」


 青年も殺意を宿した目から希望に満ちた目に変わっていた。何しろ、長い間に人類を虐げた神々が滅んだのだ。それも人間の手によって。彼はこれからの人類の未来は輝かしくて明るいものになると信じて疑わなかった。





 月で女神が倒されたという知らせが地球でも広がった。その事実は神々を憎む人々にとって最高の出来事だった。地球にいる誰もが最後の女神を倒した青年を讃える。ほどなくして、青年は人類の歴史に残る偉業をなした英雄と呼ばれることになるだろう。


 だが、事実は一つだけ違っていた。それは、月ではなく地球でのことだった。


「はあ………はあ………っ!」


 人が立ち入らない森の中に、血まみれの女性が木にもたれかかっていた。腰に届く紫色の長い髪に銀色の瞳、血で汚れた神秘的な服装、人形のように完璧な美女だった。そんな彼女の正体は人類の敵、だった。


「こ、この私が………神、なのに………どう、して………こんな………」


 神。それも月で葬られたはずの女神だった。彼女はとどめをさされる直前に地球にテレポート、つまり瞬間移動していたのだ。だが、ダメージはかなり受けてしまった。更には最後の力を振り絞ったせいで、神の力のほとんどを失ってしまった。こんな状態では回復は難しいし、回復できたとしても神として返り咲くことは不可能だ。


「お、の、れ………ゆ、許さん、ぞ………」


 女神は復讐を望んだ。人類に対して初めて強い怒りと憎しみを抱いた。ただ、実行に移すことは出来ない。何故なら、彼女は自分が神の力を取り戻すことは難しいことを知っているからだ。力を失ってしまった神が力を取り戻す前例がないことも知識として頭の中にある。


「う、うう………どうして、こんなことに………」


 力を失って落ちぶれた神が行き着く先は肉体的にも精神的にも死ぬ。まさか、自分がそうなるとは思ってもいなかった。彼女は己の身の上を嘆いた。人間を呪いながら。

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